表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
73/132

救助

ジュリは自分の身体を別の誰かが操っている感覚を、とても不思議に感じた。少しも不快だと思わないのは、やはりシグナだからだろうか。


シグナは私の身体で魔術が使えるの?私は使えなかったけど…


「どうかな?人間の魔術の原理はよくわからないけど…」


そういえば精霊は魔術じゃなくて魔法って言うんだっけ


何が違うんだろうと思っていたら、目の前に魔術を使う時に使う陣のようなものが表れた。けれどよく知っている陣じゃない、錬金術の物とも違う。


読めない文字のような物が、煌めく星屑のように集まって知らない形を作り出す。それは壮大な自然を見て厳かに感じる気持ちに似ていた。


綺麗…これが魔法?


明らかに自分が知っている魔術とは別の物であり、精霊の見ている世界は人間よりもずっと美しいものなのかもしれないと思った。


シグナがいつも使う水の槍を無造作にライとジェイクの間に投げた。多分、味方を助けるための行為だろうが、危うく当たりそうになったジェイクが文句を言っているのが聞こえた。


錬金術に四属性はきかないよ?


「ああ、そうだっけ」


何かを考えるような間があった後に、シグナはジュリの鞄から属性の陣を取り出した。そして火属性の陣に触れると細長い火柱があがった。


えっ!?


シグナは水の精霊のはずなのに、なんで火属性が使えるんだろうと驚いていたら察したのかジュリの口で答えてくれた。


「ジュリの身体だからでしょ。魔力の使い方は僕の方が知ってる。けれどやっぱり大きな力は使えないみたいだ」


ええ…?でも私より何倍も大きな火柱あがってるんだけど


シグナの方が優秀なのにちょっとショックを受けながらも、どうするのと聞くとその火柱を掴んで、今度はライに向けて投げつけた。


予想通りに炎が無効化されて消される瞬間に、今度は水で作り出した霧で辺りを覆った。広範囲のものは流石に対処しきれないらしい。


この間にジェイク先輩を回収するの?


「うん…あっ」


え?


シグナと共有している視界が一瞬ぶれて、上半身が倒れて手をついたのだと気付いた。この寒さと同時に感じる脱力感に覚えがあった。


これ、枯渇だ


以前師長に魔力を奪われた事があるのを思い出したが、ジュリ自身は意識を失ったので対処法までは知らない。


憑依ってこんなに魔力を消費するの?教えててくださいよ、師長~


師長が普通に憑依を使っていたので甘く見ていたが、未熟なジュリではまだ精霊の力を十分引き出してあげる事は出来ないのかもしれない。霧の中で蹲っていると、ふっと少しだけ身体が楽なった。後ろで両肩を支えてくれているシグナが居た。


「あれ?シグナ?元の大きさに戻ったんだね、良かった」

「良くないよ、ジュリ酷い顔色だ」


シグナは自分のせいでジュリが弱っているのが、心底悲しそうだった。シグナのせいじゃないよと言ってあげたかったが、めまいがしてくらくらする。


あっ


「シ、グナ…鞄の中から、袋に入ったのを…出し…」


素早く反応してくれたシグナは、鞄の中から小さな袋を取り出して中身をジュリの手に乗せた。それはカタスティマで貰った小さな砂時計だった。さらさらと何色もの砂が流れるが、それは下に溜まることなく消えていった。同時にジュリの血色がよくなって、息づかいが楽なってくる。


「これ何?」

「魔力を溜めて置けるものなんだって。少しずつ貯金してたの、役に立って良かった」


シグナがまだ心配そうに見つめてくるので、ほらっと手をあげて笑うとやっと安心してくれたようだった。全快とはいかないが、六割ほど回復したのを確認して立ち上がると手で支えてくれる。


「ジュリは逞しくなったね。二人でいた時は僕が守らなきゃって思ってたけど、今回は助けられたな…」

「ほんと!?」


嬉しそうにしないでとやや不満げなシグナを見ながら、やっぱり嬉しい。ジュリはずっと守ってもらうばかりでなく、シグナを守りたかった。ただこんな所まで来て巻き込んだのはジュリのせいでもあるので、守ったという表現は微妙でもある。


「あ、そういえばさっきの…」


ジュリが何かを言いかけた時、霧が晴れてライの姿が見えた。ジェイクの首に何か蔓のようなものを巻き付けて、こちらに笑いかけていた。


「ジェイク先輩!?」

「さ、気は済みましたか?大人しく従って欲しいのですが」


ジュリはシグナの前に立ち塞がって、首を振った。けれどジェイクも見捨てられない。どう考えても戦力の足りない状態に眉根を寄せた。


どうしよう…


きっと説得なんて通じない、そんな言葉で意思を改めてくれるはずはない。ライの覚悟は本物で、誰かを守りたい気持ちをジュリもよく知っていた。


ジュリは鞄の中から何か使えそうなものはないか探ると、小さな石を取り出した。


ここは魔術師の国じゃないけど、使える…?


石を思い切り地面に叩きつけると、それは眩しい光を放って天井を突き抜けた。術技大会で棄権に使う為の照明石だった。


この国にもすでに魔術師がいるって言ってた。なら誰か助けに来てくれる…かも!


自分の力を誰よりも知っているため過信はしない。それで無理して大事なものを失うくらいなら、誰かに助けを求める努力をしたい。ただしかなり派手な光なので、魔術師どころかこの国の人間も何事かと集まってきてしまうかもしれない。


それでもシグナは絶対渡さない


ライがやや早めに決着をつけようと動き出した時、何かに気づいたように上を見上げた。


「風よ」


その言葉と同時にいきなり天井が崩れて、瓦礫が降ってくる。


「ちょ、えー!?」


何これ、死ぬかも!


やや遠くでジェイクの怒声が聞きながら、何が起きたのか周囲を見ると同時に身体が浮き上がった。


「えっ!?」

「ジュリ!」


シグナの驚くような声とは別に、誰かに横抱きにされているのだと気付いた。


えっだれ?


「考えなしに魔術を使うな!生徒を圧死させる教師がどこにいる!?」

「え~?考えてますよ。何のために優秀な騎士を連れて来たと思ってるんですか」


聞き覚えのある声に真正面をみると、そこには師長が立っておりジュリを抱きあげている騎士に叱られていた。


「師長…?」


素早く降ろしてもらい、上を見上げてお礼を言うと少しだけ口角をあげて微笑まれた。師長と同じく大人の男性で、けれど誰かに似ているような感じもした。


風を切る様な音がしたと思ったら、ライが師長に向かって切りかかり、それを騎士の男性が受け止めた。


ひえっ


ジェイクよりも強いらしく、ライの剣を受け止めながら押し返している。その間にこちらへと師長に促されやや離され、必死に近寄ってきたシグナに手渡された。


「師長…が来てくれたんですか?どうして」

「確かに他国は魔術師にはやや不利ですから、殆どは騎士が潜入していますが…僕は強いですから」


いや、自慢を聞きたいわけじゃなくて


「私がここにいるってなぜわかったんですか?」

「学院の門は学生ならバッジが通行証の代わりで誰でも通れます。そのかわり、誰か出入りしたか記録されるんですよ」


そうなんだ…


確かライがバッジの確認をしたような気がしたけど、それに意味があったのかと腑に落ちた。けれどそれだけじゃ行先はわからないのではないだろうか。


「貴方が一年生の時、僕の授業の後で奇妙な事を言ったのを覚えていますか?」

「え?」

「魔術師はこの国でしか生まれないと質問してきました、あれは僕らの国では一部の人間しか知りえません。元々国外に出る人間は少ないですからね。もちろん授業でも習いはしません」


どういう事?


「だから僕は貴方に誰から聞いたかを尋ねました」


そしてジュリもはっと気が付いた。それは最初にライに会った時に教えてもらった事で、変な質問だなと思ったのを思い出した。


「師長はあの時からずっとライを疑ってたんですか?」

「確証はありませんでした。この国で彼の出生の記録がどうしても見つからなかったので」


出生の記録がない…?ライの親はこの国の人間だけど、国外逃亡したって言ってたっけ


ライが剣で押されそうになるのを見ながら、近くに倒れているジェイクに気が付いた。巻き込まれる前にジュリは急いでシグナに彼を助けて欲しいとお願いする。


「え?やだ、何で僕がジュリ以外を?」


シグナらしい一言にジュリは顔を引きつらせながら、ここで頼りになるのは魔法が使えるシグナだけだからとお願いすると、渋々従ってくれた。


ほっとしていると突然こちらに吹っ飛ばされたライが、ジュリに当たって一緒に後ろによろめいた。


「きゃっ」


そして衝撃で崩れた床の隙間にジュリが足を滑らすのを見たライが、反射的に手をとって共に暗い闇の中に落ちて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ