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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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主従契約

ジェイクが兵士たちに溶け込んでいる間に、ジュリは自分の装備を見直した。術技大会に参加する直前だったので鞄をそのまま持ってきたのだった。


これは取り上げられなかったんだよね


精霊を呼び出すためのペンダントは取られたが、それ以外は特に何の制限もされなかった。最初から精霊だけが目的で、ジュリに何かするつもりはなかったのかもしれない。


属性の陣や照明石は使えないが、回復薬やカタスティマで買った物などもあり、後は食料などを詰め込んでいた。


お腹減ってたら何もできないもんね、もぐもぐ


ここに来てからは何も食べてない為、さっそく非常食に手をつけているとジェイクが帰って来た。


「おかえりなさい、むぐ、いりまふ?」

「…お前人に働かせといていい身分だな」


そっかと食べ物を仕舞おうとすると、いらんとは言ってないと奪い取られた。ついでに回復薬もいるかと聞いてみたが、殺す気かと返される。ジェイクにとってジュリの薬はいつまでたっても毒扱いだ。失礼である。


「一応王宮の地下に研究室らしいのがあるらしいのはわかった。あとな、誰に聞いても皇子はひとりしか知らないっていうんだ。今年三十ですでに臣下に婿入りしてるらしいんだが、お前が言ってるのそいつじゃないよな?」

「違う…と思います。ライは十代にしか見えないから」


ライはいてもいなくてもどうでもいい存在だと自分で言っていた。それは今思い出してもとても悲しい言葉に聞こえた。皇子として周知すらされてなかったのだろうか。


「ライってあれだろ、お前たちのちびっこ三人組の保護者みたいな」

「保護者?」

「遠目からしか見たことないが、何かお前らを守ってるみたいにすげえ隙のないやつ」


ライが学院に雇われた護衛とはジェイクは知らないはずだ。騎士として武に長けているジェイクにはそういうのがわかるのだろうか。


そういえばカルロと攫われそうになった時も守ってくれたよね…


任務として潜入してたような事を言ってたが、きっとライの全てが嘘ではなかったはずだ。やっぱりもう一度会いたいと思いながら、ジェイクと王宮に向かった。


入り口には数人の兵士がいて、流石に簡単に出入りは出来そうになかった。するとジェイクが小さい玉のようなものを取り出して兵士たちの前に投げつけ、それは地面に落ちた途端に煙が溢れ出た。


「吸うなよ!ここは大丈夫と思うが一応口塞いどけ」


あれなに?と聞くと、ティア先生の置き土産の眠り玉らしい。ちょっと作り方が気になりつつ、倒れた兵士の側を横切って王宮内に入っていく。


先ほど来た時は二階に続く階段に見えたので、反対の方向を選んで人に見つからないように慎重に進んだ。


「こっちは不自然なほど人気ねえな、本当にこっちか?お前自分の精霊の事くらいわかんねえのか?」


わからないよ、シグナの事なんて知ってることの方が少ないし…


あっと思ってジュリはペンダントの土の陣が描かれている飾りに魔力を注いだ。するとカズラが後ろから抱き着いてきた。


「なあに?」

「おい!これ以上人数増やすな!忍び込んでるんだぞ」

「カズラ姉さん!精霊なら同じ精霊の気配ってわからない?私の水の精霊なんだけど」


前に師長の精霊がシグナの気配を覚えていたはずだ。精霊同士なら探すのは可能なんじゃないかと思ったのだ。ランはジェイクとあまり仲がよくなさそうだったので一応気を使ってみた。


「わかるけど、ここは国の外かしら?どうしてこんな所にいるの?」

「えーと」


話せば長いのでどう言おうか悩んでいると、カズラが首をかしげた。


「扉は精霊の地でしか開かないわ。貴方はまだ審判を受けていないでしょう?」

「え?」


何を言っているのかと思っていたら、ジェイクに早くしろと怒鳴られた。ジュリは急いでカズラに道案内を頼んだ。


それほど遠くない場所で下に降りる階段を見つけると、カズラが行くのを拒否した。


「ここより下は魔力の消耗が激しくて一緒には行けない、ごめんなさいね」

「わかった、ありがとう」


そう言って消えるカズラに手を振りつつ、ゆっくり階段を下りて行った。少し灯りが見えたと思ったら広い空間にシグナの両手両足を拘束したライが居た。研究室と言うより拷問部屋のように薄暗い。


思わず叫びそうになるのをジェイクの手に抑えられ、おまけにチョップされた。痛いんですけど。


シグナは精霊だからか怪我ひとつしてないようだったが、不思議な事が起こっていた。


シグナ…?


ジュリと出会った時から、シグナの外見は十六歳前後の少年だった。けれど目の前にいる姿は十二歳のジュリとあまり変わらないように見えた。


縮んでいる?なんで…?


シグナがこちらに気づいたのか、さっさと帰れと言うように睨んできた。それに気づいたライがゆっくりとこちらを振り向く。


ジュリは黙って見ていられずにシグナの方へ走り出し、ライが少し構えた所でジェイクが舌打ちして剣を抜いた。


「あーもーこの馬鹿!」


そしてジェイクの剣をライが受けて、俊敏な動きで蹴り飛ばした。何とか踏みとどまって、もう一度剣を構えた所で、ジュリはシグナに触れるくらい側に寄った。手足には魔力封じと思われる陣の描かれた鎖と足元に見た事のない陣があった。


「シグナ?その姿どうしたの?」


近くまでくるとよくわかる、シグナの身長がジュリよりちょっと高いと思われる程しかなかった。シグナは何で来たのと怒っている様だった。


「彼の魔力を抜いているんですよ。精霊の源は魔力ですから、今はもう子供の姿しか保てないようですね」

「何のために…?」


ライの答えにジュリが問い返すと、さらに恐ろしい言葉を放ってきた。


「もちろん武器化の実験です。魔力を失うと精霊は核と呼ばれる宝石になります。その時点ではまだ死んではいないので、錬金術で加工する事が可能なんです」


ジュリは思わずそんな事させないと言うようにシグナに抱きついた。


「…ライは、私がシグナを大事に思っているって、知ってるよね?」

「はい、だから恨んでいいと言いました。僕も僕の大事なものを守るために行動しています。貴方は?」


お互いに一瞬見つめ合った時間がとても長く感じられた。それを破ったのはジェイクの雄たけびだった。再び背後から切りかけたが、ライにいなされて殴り飛ばされた。


「いってぇ、おい、こいつ強いわ!囮になってやってんだから早くどうにかしろよ!」


自分で囮って言った…!


ジュリに対する怒声だったが、それを聞いてライがこちらに動き出すのではないかと思った。けれど薄く笑みを浮かべたまま、動こうとはしなかった。


…?


ジュリはジェイクが引き付けていてくれる間に、シグナの拘束を解こうとしたがどうしても外れない。


「うー魔術は使えないし…」

「ジュリは逃げなよ、何の為に僕が…」


それを聞いて無性に腹が立ったジュリは、いつもは絶対に届かないシグナの顔に手を当てて頭突きした。けれど痛いのはジュリだけで、シグナは何をやってるのと呆れた顔をしている。


「シグナだっていつも私に危ない事するなって怒るじゃない!それがシグナだと良くて私ならダメなの?捕まったのが私ならシグナは絶対、置いて逃げないでしょ?同じ気持ちなんだよ?私にとってもシグナはとても大事なんだよ…」


最後の方はぼろぼろと涙が出てきた。こんな顔を見せられるのはいつだってシグナだけだ。


ジュリの泣き顔を見て黙ったシグナは、少しだけ目を伏せて反省したような顔つきになった。そして小さな声でジュリに話しかけた。


「…前に欲しいものが決まったら、その時ジュリに言うって言ったの覚えてる?」

「え?うん…でも何でこんな時に?」


以前呪術の授業でそんな契約をしたのを思い出した。


「じゃあ今それを言うよ。もう少し僕に近づいて、もっと近く。僕は手足を拘束されているから」


よくわからずにジュリはシグナが促すまま吐息が感じられるほど近づき、彼の目の色がとても綺麗だと感じた時、シグナの顔が一気に目の前を覆った。



気付いたらキスされていて、初めての体験に思考も身体も固まった。思わず一瞬目を瞑ると、少し冷たくて懐かしい森や水の香りがしたような気がした。そしてなぜか口の中に暖かさを感じて目を開けると、目の前にシグナはいなかった。


あれ?


「ジュリは見てて」


その声は確かにジュリの声なのだが、発しているのはジュリじゃない。そして首を動かしてライを見据え、身体を動かしているのも。


どういう事?もしかしてしゃべってるのシグナ?


「そうだよ」


何が起ったのか混乱していると、授業で聞いたある言葉を思い出した。


“こちらの魔力と精霊の魔力を与え合います”

“憑依と言って契約者の身体を自由に使う事などが可能になります”


ジュリがシグナと契約した時は、きっとジュリの魔力を差し出したのだろう。授業では水晶の花をあげた事もあった。そして今、シグナが魔力の一部を与えてくれたのだとしたら…


これ、主従契約だ

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