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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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協力者

シグナは向かい合うライを見ながら、状況を把握するように辺りを見回した。


「お前は…」

「僕に見覚えがありますか?ジュリさんとよく一緒にいたと思うのですが」

「生憎、ジュリ以外興味ないから覚えてない」


そうですかと顔色を変えずに話すライを見ながら、シグナはいつも通り水で何かを出そうとして、一瞬何かに気づいたように自身の手を見る。


「ここは魔力が少ない土地なのがわかりますか?精霊は魔力の塊のようなものですから、魔法が使えるみたいですが、補充が難しいみたいですね」

「えっそうなの、シグナ?」

「顕現できる魔力はジュリから貰ってるけど、ここは精霊の力がとても薄い」


不安そうなジュリの頭を撫でながらシグナが答える。


「もういいよ、シグナは帰って?ライは本気で私に何かしたいわけじゃないと思う」

「ジュリの安全を確保しないで帰れるわけないでしょ」


ここはシグナ達精霊にとって、危険な場所かもしれないと必死に訴えたが、首を縦に振ってくれなかった。


「大人しくしてもらえませんか?精霊さえ手に入れば、ジュリさんには何もしません」


シグナがいつものように水の壁を作ったが、それは溶ける様に数秒で消えた。


「この部屋にも魔力封じの仕掛けがありますから」


ジュリも何かしら陣を思い浮かべたが、魔術として発動する事はなかった。この国で魔術を使うにはライが嵌めている指輪のような強化する物が必要なのかもしれない。


水の状態を確認しているシグナに再度帰ってくれるように頼むが、なぜか答えたのはライだった。


「帰っても構いませんが、貴方が出てきてくれるまで、何度でも彼女を傷つけなきゃいけなくなりますよ。本意ではないですが殺さない程度に。術師を殺せば精霊の契約も解けてしまいますからね」


ジュリが身を強張らせると、シグナがさらに眉間に皺をよせて、無言で前方を見据えた。


「ジュリに何もしないって証明できる?」

「証明はできませんが、約束はします。彼女は傷つけることなく、魔術師の国へ返しましょう」


シグナは一瞬後ろを振り返って、そのままライの方へ歩き出した。ジュリは思わずシグナの袖を掴んで引き留めた。


「待って!どこに行くの?やめて」

「ジュリは心配しなくても精霊は簡単には死なないよ」


けれど精霊を使って何かをするとわかっている相手には、それは絶対ではない気がした。何よりジュリのせいでシグナを危険に晒すが嫌で堪らない。二人が部屋から出て行くのを見ながら、頭の中は後悔でいっぱいだった。


どうしよう、私のせいだ


何が何でも逃げればよかった、どこか顔見知りだからという甘さもあったのかもしれない。自分の大切なものを奪われるまでそれに気づけないから、いつだってみんなから子供扱いされる。


後悔は後でいっぱいしよう、けど今は出来る事を考えなきゃ


シグナとライが出て行った扉に追いかけるように手をかけたが、なぜか開かない。


え?あれ?


何度ドアノブを回しても開かないので、どんどんと扉を叩いてみたが人の気配すらなかった。


うそでしょ…


魔術が使えないと何かを壊す事すら出来ない。非力な身体を呪いながら今度は声を出してみる。


「誰かー!いませんかー!」


やはり反応はなく、今度は部屋の中に何か使える物はないかと探してみた。


本と器具みたいなものはあるけど…どっちかというと物がないな…埃もつもってるし、人が長年住んでいないみたい


ジュリははっと気づいた。ライはここ数年この国を離れていたのだ。


でも一度も帰ってこなかったのかな?王命だから?


そんな事を思いながら物思いに耽っていると、コンコンと誰かが扉を叩いている音がしてジュリは振り返った。


「誰か、いる?おかしいな~ここら辺から声がしたと思ったんだけど」

「だーかーらー絶対あっちだって」


ん?


何故か聞き覚えある声に首を傾げていると、声の主たちの遠ざかる様な足音がした。


「あっ待って!います!開けてください」


必死にどんどんと扉を叩くと、気付いてくれたのか何かを言い合っている様だった。そして出来るだけ扉から離れる様にと言われて、その通りにした。


合図をした瞬間にいきなり扉が吹っ飛んだ。


ひえっ


頭を抱えて蹲っていると、頭上から声が降ってきた。


「お~いた!お前全然でかくなってねえな」


そろそろと上を見上げると、そこには懐かしい顔で笑っている騎士の男がいた。


「ジェイク先輩!?何で?」

「それは俺の台詞だっての!なんだってこんな所にいんだよ」


いだだ…


文句を言われながら頬をつねられながらも、安心感で涙が出そうなる。


「さっとりあえずここは出ましょう」

「!?ティア先生?」


もうひとりの女性も見覚えのある人で、医療魔術の先生だ。確かいつのまにか他の国へ行ってしまってそれきりだったはずだ。


ジェイクに荷物みたいに担がれながら、そのまま建物を脱出して草木が生い茂る場所に身を隠した。植物に関する研究に力を入れている国というだけあって、あちこちに緑が点在して自然が多く見受けられた。


人の気配がない事を確認しながら、ジュリは二人に問いかけた。


「二人とも何でここにいるんですか?」

「お前のせいだろ」


ええ?


「それじゃあわからないでしょ。私達魔術師にも緊急用の連絡網があるの、国の要請に従う場合もあるけど今回は秘密裏の依頼ね」

「依頼?」

「聖女候補が攫われたから保護しろってやつだよ。各国に散っている魔術師ってのは一定数いて、今回近くにいた医療魔術師と俺にいち早く依頼がきたわけ」


そういえばここは薬草がいっぱいあるから、医療魔術師は必ず訪れるって言ってたっけ?でもジェイク先輩は?


じっとジェイクを見つめていると、なんだよと返された。


「俺は卒業後フリーの傭兵になったんだよ。騎士団に所属してない騎士ってのはそういないから、道中の護衛やらまあまあ需要があってだな。ってそんな事はいいんだよ、ほら国に帰るぞ」

「えっ?あ…待って!シグナを助けるまで私は帰れないよ!」


自分の精霊であるシグナが囚われていることを話すと、二人は渋い顔をした。


「皇族…にはあまり接触しない方がいいけどな。すでに何人かの魔術師は潜入しているだろうがそんなに多くはない。騎士団でもくれば全面戦争になりかねないからな」

「普通の魔術師がひとり消えたくらいでは国は関与しないわ。今回は聖女候補だったから…」


聖女候補だから助けに来たって事?


それでも少し違和感があった。優秀な魔術師にはなる可能性のある聖女候補だが、なぜそこまで必死になるのだろう?国の外にでたら殆ど魔術も使えず他の魔術師と大差はないはずだ。


なぜそこまで特別扱いするのかな


国が失いたくない人材というよりも、国が管理しておきたいという意味合いが強いような気がした。それはずっと前から感じていた事だけれど。


正解がわからず思案に暮れていると、ジェイクがジュリの頭を強く鷲掴みにした。


いだっ


「お前には借りをちょっと多く返してもらったからな。ほんのちょっとな?だから様子見くらいは手伝ってもいい。ただし俺の判断で危険と判断したら、連れて逃げるぞ」


ジュリがぱあっと顔をあげると、聞いていたティアは賛成はしてくれなかったが、強く止めはしなかった。


「とりあえず近くの魔術師に応援を頼むわ。どっちにしろ私達だけじゃすぐに国から脱出は難しいかもしれないから」


そういって二手に分かれると、ジュリはジェイクと情報収集をする事にした。シグナがどこに行ったのかまずは突き止めなければならない。


「どうするんですか?」

「ちょっと待ってな」


ジェイクは茂みから姿を現して、近くの兵士をひとりおびき寄せた。そしてそのまま茂みに連れ込み、何か鈍い音と誰かのうめき声が聞こえた後に、兵士の服をはぎ取り変装したジェイクが出てきた。


あ、荒っぽい…


「は~これからさらに聞き込みか。こりゃ追加料金もらわねえとな」


そう言いながらも協力してくれるジェイクを見て、変わってないなと少しだけ顔が緩んだ。

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