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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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佳夕の国

朝起きたら夜に見たまま、変わらずに窓辺に立っているライが居た。もしかして寝なかったのだろうかと不思議そうに見ると、言いたいことがわかったのかライの方から口を開いた。


「僕は元々、眠りが浅いんです。よく眠れましたか?」

「う、うん」


日が昇っているという事はかなりの時間が経っている。学院でもジュリやライがいない事は既に知られているだろうが、貴族でもない自分を探しにきてくれる人間などいないだろうと思った。


朝食を食べて出発すると、国境のような門に沢山の人の列が出来ていた。


あれみんな出国する人かな?


じっと見ているとライが待ち時間に、よくわからない事を話しかけてきた。


「どうして逃げないんですか?今大声で叫べば、これだけの人間がいるんです。きっと助けてもらえますよ」

「逃げて欲しいの?」


さあと笑ったライを見ながら、それは考えなかったわけではない。腕にはめられた魔力を封じる腕輪も今朝とってもらったので、もう枷もない。


「でも私を連れて行かなきゃライが困るんでしょ?」


自分が逃げても誰かがきっと同じ目にあうのではないかと思った。自己犠牲の精神ではないけれど、そこまで恐怖を感じないのはライがいつも通りジュリを丁寧に扱ってくれているかもしれない。殺そうと思うならわざわざ手間をかけて誘拐する必要はない、その目的も少し気になった。


それにちょっと見てみたいんだよね、ライの生まれた国


きっとシグナがいたら、この判断はものすごく怒られるだろうけど。


「あっそういえば、ペンダント!返してくれないの?」

「ここはまだ精霊の力が強い土地ですから、もう少ししたらお返ししますよ」

「精霊の…?」

「以前お話ししましたよね。魔力は魔術師の国特有のものであり、他国で魔術を使う事は難しいらしいですよ」


そういえばそんな話を、ライとしたような気がした。魔術師は私達の国でしか生まれないとかなんとか…


「先ほど試してみましたが、すでにかなり弱まっている様です」


ジュリも水の陣を思い浮かべてみたが、指先からぴゅっと水が飛び出しただけだった。普段から大した魔術は使えないが、いつもよりかなり酷い出来だった。


「ええ!?じゃあ魔術師を連れ帰っても意味ないんじゃ…?」

「魔力がなくなっているわけではないですから。研究も対魔術師用に作っている物が多いので、魔力のない人間では出来ないことも沢山あるんですよ。僕も小さい頃から色々やらされました」


色々の部分が怖くて聞けなかったが、ちょっと不安になった。十歳まで魔術など無縁の生活をしていたが、いざなくなると心細い気持ちにもなる。


話をしていると順番が来たようで、国境の管理している門番に、ライが宝石のようなものを見せた。何か彫っているようにも見えるが、通行証の代わりだろうか。それを見るとジュリには何か言われることはなく、簡単に通してくれた。


「国境ってこんなに簡単に通れるの?私何も見せてないよ?」

「人によりますね。僕の通行証を発行してくれたのが国の宰相ですから」


信用度の問題って事かな?


そのまま馬にのって進み続け、そろそろお尻が痛くなってきた所で、木々の隙間から街が見えてきた。遠くから見ても白い建物が多く、綺麗だなと思った。


「あれが僕が生まれた国、魔術師の国のように秀でたものは特にありません。あえて言うなら植物に関する研究が進んでいますね。薬草の品種改良にも力を注いでいるので、医療魔術を学ぶ方は必ず訪れるはずです」

「へえ…」

「人によっては佳夕の国などとも呼ばれています。最西端の国であり、夕日はとても綺麗に見れますよ」

「それはちょっと見たいかな。えっとじゃあ、沈むのは西だから…どっちだっけ?」

「西は左手ですね」


そう言って笑うライを見ると、先ほどは自分の生まれた国の事に否定的なように見えたが、嫌いではなさそうで少し安心した。


自分の生まれた場所は特別だよね


ジュリも楽しい事の方が少ない村での生活だったが、懐かしい気持ちはずっとある。何よりあそこでの生活がなければ、シグナとも会えなかったかもしれない。


国に入るとジュリは目隠しをされた。逃亡防止の為なのかわからないが、城に入るまでとってもらえないらしく、ライにすみませんと謝罪されながら抵抗はしなかった。


しばらく馬車に揺られながら進み、手を取られながら降りるとそこはもう城だったのかもしれない。少し歩いていくと、少女の無邪気な声が聞こえてきた。


「その子が悪魔の子なの?私よりも小さいじゃない」


悪魔?もしかして魔術師の事?


「女王陛下は」

「今日はいらっしゃらないみたいよ。私とても暇で、遊び相手が欲しかったのよね」


そう言いながら、ジュリの目隠しをとられた。髪はライと同じ銀髪で歳はジュリとそう変わらない位の少女が居た。


ライに似てるし、王宮にいるってことは皇女様かな?


「貴方精霊を持っているのよね。あれが死ぬ時に綺麗な宝石になるのは知っている?久しぶりに見たいわ」


すごく嫌な事を聞いたと思った。何も言わずにジュリが少女を睨むと、まあ生意気な目と笑われた。


「シュカ様、魔術師拉致は女王陛下からの命令です。勝手は出来ません」

「ライのくせにうるさいわっまた捕まえてくればいいじゃない」


どうみてもライの方が年長者なのに、この態度は少し驚いた。女性の方が身分が高い国というは本当なのだろう。ライが敬語を使うのもそういう扱われ方に慣れてしまっているのかもしれない。


「どうせ精霊を抜き取ったら用無しでしょ」


精霊を…?


「貴方のような生意気な子をいじめるのはとても楽しそう。そうね、最近コイン当てゲームに嵌っているの。それで当たったら見逃してあげる、はずれたら貴方は私の玩具ね」


少女は他の意見など頑として聞かない姿勢でライに命令した。彼は大きなため息をついた後に、閉じた両手をジュリの前に差し出した。


え これ運にまかせて間違ったら大変な事にならない?


変な汗をかきながら、ライの手をじっと見ていると、彼があたりさわりない世間話を始めた。


「…もうすぐ日が傾きますね、この窓から見える沈む夕日は美しいですよ。ねえシュカ様」

「そうね、早く決めてくれない?本当に日が暮れちゃう」


それさっき、聞いたよね?もしかして何かのヒント?


何の話題をしただろうかと、必死で考える。あの時は夕日みたいなと話をして、方角を聞いたのを思い出した。



ジュリはライの左を示した、そして握っていた手を開けると一枚の硬貨が出てきた。ジュリの知っている硬貨と違うので、この国の物かもしれない。


少女はあーあとつまらなそうに踵を返して、どこかへ去って行った。


「シュカ様は言った事は守って下さるのでまだいい方です。ただ少し抜けていますが」


そう言ってライはもう片方の右手を開けると、そっちからも硬貨が出てきた。


「えっ」


それはいかさまなのでは…?!


「貴方が間髪入れずに正解を選んでくれるとは思いませんでした。ヒントを理解して、僕を信じてくれたんですか?」

「だってライは嘘はつかないって言ってくれたでしょ?」


その言葉にライは笑みを消して、何とも言えない表情をした。


女王がいないならまた誰かと会う前に王宮を出ましょうと、元来た道を戻った。そして兵舎のような質素な建物に入ると、一番奥の部屋にジュリを導いた。


「僕の部屋です」


扉を開けると、部屋と言うよりも研究室のような場所だった。実験用の器具や分厚い本などが山積みにされていて、贅沢な家具などはひとつもなく、彼の扱いがなんとなくわかった。


「ねえ、さっきの精霊を抜き取るってほんと?その為に連れて来たの?」

「多分正解に近いと思います。魔術師から精霊を奪うようにとも言われてますから。植物の改良は魔術師を操る事を最終段階にしていますが、精霊を使った武器に関しては、僕たちの国の魔力を持たない人間の為に研究されています」


ジェイクの武器の事を思い出した。確か邪道とか言っていた気がするが、精霊の意志も関係ないような状態にされる実験なんて、それだけで怖かった。


「僕がそんな精霊と契約できればよかったんですが、彼らも馬鹿ではありませんね。高い知能を持ったものとは契約できませんでした。血を嫌うというのも関係しているのかもしれません」

「私、絶対に精霊を呼ばないよ」


何かの目的にシグナ達が使われるなんて絶対に嫌だった。しかもここには精霊を無力化するような陣もあるはずだ。


ライは陣が書かれた紙を何枚か用意して、最後に自分の中指に指輪をはめた。


「これは魔力を封じる物とは逆で、強化する陣を彫っています。これで簡単な魔術は使えるようになるんですよ」


そして精霊を呼ぶためのペンダントをジュリの方へ投げた。


「僕を恨んでいいですよ」

「あっ」

「刃よ」


かまいたちのような鋭い風が、ジュリの方が飛んできた。それを防ぐようにジュリのよく知っている後姿が前方に現れた。


「出てきちゃダメ!」


水色の髪の少年はジュリを守るようにさらに一歩進み出て、ライを睨んだ。

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