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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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術技大会(三年生)

学院に帰ってくると、すでにディアスとシェリアは精霊を探し終えて待っていたようだった。少し労いの言葉をもらった後にそれぞれ解散したが、師長が話しかけてきた。


「大丈夫ですか?精神を使うものは魔術とはまた違った疲労があると思います」

「はい、体力とか魔力が減ったような気はしないのに、何か力抜けます」


以前師長から魔力を奪い取られたような、枯渇とも違う。誰か付き添ってもらいますかと聞かれたが、ジュリは断った。


「シグナを呼ぶので大丈夫です」


アルスはカイルを連れて救護室に向かい、ジュリはシグナと寮までの道を手を繋ぎながら歩いた。


「別に抱えてもよかったのに」

「歩けないわけじゃないから。誰かに見られたら恥ずかしいよ」


そお?と少し不満げなシグナと一緒に渡り廊下に差し掛かったところで、顔見知りの人物がジュリに話しかけてきた。


「ジュリ、丁度お前に会いに…」

「兄ちゃん?」


兄のリクは何かを言いかけたが、それよりも先にジュリと手を繋いで寄り添っているシグナを見て、目を細めた。


「誰だお前?彼氏、じゃないよな?ジュリにはまだ早い」

「な、な、何言ってるの兄ちゃん!?彼は私の精霊だよ!?ごめんねシグナ、兄ちゃんたまに妹馬鹿になるの」


兄弟の中で唯一の妹なのでリクにはとても可愛がってもらっていた。両親がジュリにあまり目をかけていなかった分、親代わりの心境もあるのかもしれない。知ってると頷くシグナに謝りながら、リクは初めて見る精霊に驚いていた。


「話だけは聞いているが、人間と全く見分けがつかないな。えっと名前は」

「シグナだよ」

「シグナ…?」


名前を聞くと、リクは少し不可解そうな顔をした。村に居た頃にもシグナは普通にいたので、ジュリの家族と顔見知りでもおかしくはない。


「兄ちゃんシグナと会ったことあるの?」

「いや、彼とは初対面だが。まあ、そういう偶然もあるよな」


首を傾げるジュリを見ながら、リクは何でもないと返してきた。そして家族からの手紙を渡してくれた。中には押し花や葉や木の実に絵などが書かれているものが入っていた。


「手紙って言っても文字はかけないからさ、けど気持ちは伝わるだろ?」


一番下の兄弟などは、もうジュリの顔もよく覚えていないかもしれない。けれど自分の為に何か贈ろうと思ってくれた気持ちが嬉しかった。


「ありがと、兄ちゃん」


ジュリは兄弟の手紙を大事に寮に持って帰って、いつも見える机の上に飾った。




今年の大きな行事である、術技大会が数日後にせまっていた。


「術技大会って毎年内容が違うんだっけ」

「ああ、でも今回は見える形で準備されているらしいぞ」


すでに学院の裏手が迷路のようになっているらしい。まだ入れないように厳重に封鎖されているが、野次馬が絶えないと言う。


「へ~見たいな」

「僕も見たいですね」


ジュリに賛同してくれたのはライで、カルロとカレンはそこまで興味があるわけでもなく、人混みの多い場所に行くのは断られた。


ライと二人で裏手に行くと人だかりがすごい。背の低いジュリはやや後ろの方で見ていたが、それでも見上げるくらい大きな建物が見えた。色鮮やかで見たことない造りをしていたが、人々の目を釘付けにするような美しさがあった。


「昔の建物のようですね。現存しているものはそんなに多くないと思います」


へえとライの言葉に耳を傾けていると、ジュリと同じくらいの距離で見ている少女がいた。上級生らしいが黒いローブを着ている。


別の学年の聖女候補だ


お話したいなとじっと見ていると、相手も気づいたのかやや後ずさりして身構えられる。それを見たライが少し前に出て、柔らかな雰囲気でこんにちはと挨拶していた。こういうのはライの方が上手なようで、少女の警戒心が少しだけ解けたようだった。


「こ、こんにちは」

「僕はライ、こちらの女の子はジュリさんです。貴方もこれを見に来たのですか?」


ライが建物を示すと、少女はゆっくりと頷いた。


「私はリズ・オーウェンです。建築魔術に興味があって…。その…とても立派な古代建築だから間近で見たかったんです。勉強の為にも」

「ああ、四年生ですからね。将来はその道に?」


少女が頷くのを見て、ジュリはあれ?と思った。


「聖女候補って将来は宮廷魔術師一択じゃないの?」

「宮廷魔術師と言うのは有事の際に集められる魔術師団の別名でしょう。普段はそれぞれ個別の職に就いてると思いますよ」


えっ!?そういえば師長がそんな事言ってたような?


カレンも薬師学を専門にするような事言ってたのを思い出し、ジュリもそのうち決めなきゃいけないのかと少し焦った。


「貴方くらい幼ければ、進路はまだ先の事だから心配しなくてもいいと思います」


リズにフォローらしきものをされたが、これはジュリを一年生くらいに思われているのではと思った。年齢的には間違ってないけどね!


「まあ宮廷魔術師と言っても、王様があまり聖女候補は好きじゃないといいますけどね」

「えっそうなの?」


それは初めて聞いたと思って、ライに聞き返すと今度はリズが答えてくれた。


「昔からお会いになられることは、殆どないと聞きます。他の魔術師とは会う頻度が高いので、避けられているのではと噂がありますね」


国が支援している聖女候補なのに、王様には嫌われているなんてあるのかな?


不思議に思いながらも皆よくわからないのでその話はここまでとなり、古代建築についての話をリズに振ってみた。あまり話す事が得意ではなさそうだが、興味のある事には少しだけ能弁になってくれた。


「古代建築は昔の素材で作られているから、魔術の一撃で吹き飛ぶほど脆いし、機能性なども今の建築の足元にも及ばないんです。けれど昔から人々がそれを守ってきたのは次代を超えて、美しいと感動できるから。歴史を知るって言うのは、誰かの生き様に触れる事だと思うんです。次の世代にも残せるように、修繕と保護の仕事に携わりたいなと思って…」


一気に話した後に、はっと照れたように下を向く女の子を見ながら、素直に素敵だなと感心した。そんな話をしていると、後ろから男性の声がした。


「リズ!授業が始まる、何してるんだ?」

「ジゼル…」


困ったように怒っているジゼルと呼ばれた男性を見ながら、ジュリはこの二人の雰囲気に既視感を覚えた。


「もしかして、二人は幼馴染ですか?」

「えっなんでわかったんですか」


なんかいつもシグナに怒られてるのを思い出したので…


本気で怒っている風ではなく、どこか心配するような、愛しいものを護っているように感じたからだ。それに…


「お二人は恋人同士ですか?」


ひえっ


ライの直接的な言い方に驚いた。ジュリもそうかなと思ったが流石に聞けなかったのだ。


「ち…ちがっ…」


リズが違うと否定しようとすると、違うの?という目で隣のジゼルが訴えていた。


「ちが…わないけど、幼馴染が長かったからこういう雰囲気苦手なの!」


幼馴染…


真っ赤になったリズを見ながら、ジュリはほぼ無意識に声を出していた。


「それが恋だって、どうやってわかったんですか?」

「え、えぇ?どうって…誰よりもこの人が大切だって思って、それが恋なんだって後から知ったような…?上手く言えないです」

「僕はずっと好きだったけど」


リズが爆発しそうだったので、盛大な惚気とともにこの話は終わった。





そして術技大会当日、ジュリは装備を整えて少し早めに裏手に急いでいた。


一年生みたいにぼーっとしてたら、また出遅れちゃうもんね


前回の途中棄権はやっぱり残念だったので、今回は頑張りたいと思った。二年に一度なら、ジュリにとってこれが最後の術技大会だ。


二年前よりも魔術も少しは上達した…はずだし


建物の前に来ると、すでに人でいっぱいだった。その中でライが見つけてくれたのか、ジュリに話しかけてきた。


「あちらにカルロさん達がいましたよ」

「本当?」


やはり友達には会っておきたいので、人混みをかきわけて進んでいく。


どこだろ?


するといきなりジュリの腕を強い力で掴まれた。


「痛っ」


放してと叫びそうになると、黙れと後ろに何かを突き立てられているのがわかった。


えっ…!?なに…?


「よぉ、久しぶりだな。黙ってついて来いよ」


その顔に見覚えがあった、図書室でジュリを脅してきた兵士見習いだった。身体が硬直するのを感じながら、黙って草むらの陰にやってきた。人混みの多さからか、ジュリが抜けても誰も気づかない。


草むらの方には少年よりも背の高いローブを着た人物がいた。明らかに待っていたようで、指示をしたのはこの人物なのかもしれない。


だれ…?


ジュリが警戒しながら睨むと、人物は顔を隠していたローブを脱いで目を合わせてきた。それはジュリがよく知る人物で、わけがわからなかった。

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