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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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すっかり日は落ちて雨の音がしとしとと響く中で、ジュリは焚火を見ながらアルスの言葉に耳を傾け続けた。


「酷いことを言ってごめんね」

「ううん。それに私とカイルはそんな間柄じゃないから、大丈夫だよ」


以前聞いた話では位の高い貴族は、伴侶にも同じだけの家柄を求めると聞いたのでそんなに珍しい事でもないのだろう。アルスは言いにくいことを、先に教えてくれたに過ぎない。


少し気まずい間があってから、アルスが僕なら全然いいんだけどねと明るく言った。


「え~?」

「えっ!?僕ってそんなにあり得ない?」


少しショックを受けたように大げさに驚くアルスを見ながら、そうじゃなくてとジュリは続けた。


「アルスは私を好きじゃないでしょ?私はお互い好きじゃないとそういうのは嫌だなあって…」

「ああ、女の子はそうだよね。けどそれって僕たちにとって一番難しい事なのかも」


結局身分や家同士で決められた相手と婚姻する事が多い貴族にとって、大恋愛の末に相思相愛で結ばれる事は贅沢な望みなのかもしれない。


アルスは口では軽い発言が多いが、三人の騎士の中では一番保守的な考えを持っているような気がする。いい意味で従順だが、言い換えれば何かに縛られているようなものが見え隠れするのが少しだけ気になった。


そんな話をしていると、カイルが何かを手に持って戻ってきた。


「おかえり、何持ってるのさ」

「食料だよ。緑が多いから何かしらあるけど、獣は捕まえられなかった」


そしてぽろぽろと手の中の果実のようなものを、二人に見える所に置いた。


「そういえば水はあるけど携帯食は持ってきてないね。野宿込みだと思ってなかったし…」

「ああ、師長たちとは会えないしな。あの人はいつも説明が足りない」

「食べ物なら少しだけ持ってきてるよ」


獣を狩るという発想がなかったので逞しいなあと思いながら、ジュリは自分の鞄をごそごそして食料などを取り出した。少しだけという量ではない食べ物がどんどん積み上げられて二人は目を剥いた。


「そうか、ジュリちゃんは食いしん坊キャラだったのか」

「この鞄のどこにその量が入ってたんだ?」


自分が役立てる事があってよかったと思いながら、三人は和やかに食事をとった後、今度はアルスが周囲の警戒に回った。


カイルと二人きりになると、なんとなく先ほどの会話を思い出して口数が少なくなった。早めに寝ようかなと思っていたら、静かな声音で話しかけられた。


「その、すまない」

「え?何が?」


ジュリが謝るなら分かるが、付き合わされてこんな所にいるカイルがなぜそんな事いうのか理解できなかった。


「シェリアに言われただろう?僕に言われると、君は断れないと。ただ君の助けになれればと思ったんだが、自分が良いと思う事が他者にとってそうとは限らないのを失念していた」

「え!?そんな事ないよ。私は平民だから、兵士を雇うお金だってすごく高額なの。だからカイルが護衛してくれてとても助かったよ」


それを聞いて少しだけ穏やかな顔つきになったのを見ながら、ずっと気にしていたのかなと思った。


カイルはいつも真面目だなあ


正直聖女候補とはいえ、平民の気持ちをここまで慮る貴族も珍しい。


「私こそお礼を言いたいよ。カイル達が付いてきてくれなきゃ今一人だったかもしれないんだもの、助けてくれてありがとう」

「いや咄嗟に君を掴んだけれど、結局一緒に気を失ってた…し…」


話の途中で思い出したのかふいっと目線を逸らして、カイルが顔を赤らめた。そういえば、しっかりと抱きしめられて倒れていたのを思い出した。


うう、照れないで~!つられるから!


「もう寝るね!」

「あ、ああ」


おやすみといって、近くに丸まった。そこまで寒くないのはこのローブのおかげのようだが、何の素材で作られているのかはわからない。防寒に優れているって、高そうだなあ。


そして焚火の音を聴きながらゆっくりと目を閉じると、一瞬柑橘系の香りがした。抱きしめられた時の移り香が残っていたのか、この香りは好きだなと思った。




次に意識が覚醒すると、焚火の音に混じって何か別の音が聞こえた。


なに…?


人の声のような気がするが、よく聞き取れない。


「…ぅっ…」

「!?」


聞き間違いではないと思い急いで起き上がると、カイルが近くの木に寄りかかって苦しんでいた。


「カイル!どうしたの?」


話しかけても彼は目を覚まさない。顔が赤くて、息が荒いのは熱があるのだろうか。


なんでいきなり…?自分は何ともないのを考えると、ここ一帯に何かあるとは考えられなかった。寝てからそう時間も経ってないような気がする。では他に考えられる原因は何だろうか?


身体に虫に刺されたような跡はないし…食べ物?


ジュリが持ってきたものは三人とも口にしていたが、カイルが取ってきた果実は種類も疎らで各々が何を食べていたかはわからない。


でも私じゃわからないよ


おろおろしていると、暗闇から誰か近づいてくるのに気が付いた。ジュリはびくっとして無意識にカイルを庇うように抱きしめた。


「…誰?」

「あら、女の子?珍しい」


そう言って現れたのは、白い髪に少しだけ焼けた肌が印象的な、ひらひらと綺麗な衣を纏った女性だった。


ジュリを見るとにっこりと笑って屈んで覗き込んできた。


「可愛い子ちゃん、お名前は?」


可愛い子ちゃん!?


出会った事のない個性的な言い回しに思わず固まると、女性はカイルを見ながら魔力にあてられたのかしらと淡々と呟いた。


「何が原因かわかるんですか?どうすればいいか、わからなくて…」

「ここでは魔力濃度の高い草花が多いのよね。何か身体に摂取したのかしら」


困った顔のジュリを、女性がたまらなく可愛いものを見るかのように、そうねと話しかける。


「カズラ姉さんって呼んでくれたら、助けてあげようかな」

「はい…!?」


何を言っているのかわからなかったし、そもそもこの人は何なのだろう?師長がここは良質な土地と言っていたから、他の魔術師がいてもおかしくはないけれど。


けれど助けてくれると言うのなら名前を呼ぶくらい全然良かった。


「助けてもらえませんか、カズラ姉さん!」


女性はふふっと笑ってカイルの側に膝をついて額に手をあてた。


「私は風属性のような回復に長けてはいないから、応急処置だけね」


ふわっと何か暖かいものに包まれたと思ったら、カイルの顔色が良くなり呼吸が正常に戻った。ただ目を覚ます事はなく、寝ている様だった。


え、待って?


女性が何か魔力を使ったのがわかったが、陣が見えなかった。魔術を使う場合必ず属性の陣を用いるのだが、それを使わない方法をジュリは何度も見ていた。


魔法…?シグナ達が使うような…


するとジュリの近くに自身の精霊二体が現れた。


「シグナ!ラン!」


魔力の気配には敏感な精霊は、異常を感じて出てきてくれたのだろう。ジュリを庇うように真正面にいる女性を見据えた。


そして信じられないものを見るように、二人は目を見開いた。


「シグナ…?二人ともどうしたの?」

「妖だ」

「え?」


女性は頬に手を当てて、あらまあと呑気にシグナ達を見ていた。


「私達魔物の中でもわかりやすい階級があるんです。それは寿命です」


精霊のランクについては授業で習ったが、あれは人間が定めたものに過ぎない。ランが言っているのは彼らの世界での決まり事なのだろう。


「能力は天性のものもあるけど、魔物の世界は弱肉強食だから、結局は長く生きている者が強いんだよ。何百年以上も生きているかもしれない魔物を僕たちは妖と言うんだ」

「え、魔物なの?でも人間の姿をしてるよ…?」

「僕たちは人に化ける事も出来るよ、簡単じゃないけど」


シグナ達が警戒し合っているのをみると、魔物の世界は初対面は敵と見るのが基本なのかもしれない。食べられたりするって言ってたっけ


でも敵意は感じなかったんだけどな…


「可愛い子ちゃんのお願いを聞いてただけなのに、あんまりじゃなくて?」


女性が特に気を悪くしたような感じはなく答えた時、ジュリは後ろに誰かの気配を感じた。

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