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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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初めての魔闘

「とうとう来ちまったな」

「うん、そうだね」


ジュリはカルロと一緒に盛大なため息をついた。身体を動かすのは好きだが、魔術の扱いが得意でない二人にとって魔闘は荷が重い授業だった。


何より人と勝負するって言うのが苦手なんだよね…


担当はまたもや師長で、ちょっと嬉しそうにしている。訓練所へ移動中にそんなうきうきの師長の近くに寄って、ジュリは尋ねた。


「何でそんなに嬉しそうにしているんですか?」

「だって魔闘は見ているだけでも楽しいじゃないですか?僕も参加したいくらいです」


研究オタクなだけじゃなく、戦闘狂のような発言をする教師から無言ですすっと離れた。そういえばシグナと教室で暴れてた時、楽しそうだったな…


訓練所へ着くと、師長から対戦表のような紙が配られた。コース別に組み分けされていて、魔術師が騎士や官僚の生徒と当たる事はないようだった。


騎士と魔術師じゃ勝負にならないからかな。でもそれじゃ実践じゃあんまり役に立たないような…


魔術師に攻撃するなら武器だと、以前教えてもらったのを思い出した。強い魔術師でも武術に長けた者に襲われたら、負ける場合も多いのではないだろうか。


「精霊のレベルも考慮して、組み合わせはこちらで決めさせていただきました。差がありすぎる相手とじゃ訓練にならないので。勝負は一対一で相手の腕についている紐を奪う事。精霊や魔術の使用はありですが、相手に重傷を負わせたら反則負けです。上手く戦って下さい」


自分の腕についている紐を見ながら、ふんふんと説明を聞いた。


そっか、訓練だもんね


そんな戦う機会なんて滅多にないだろうし考えすぎかなと対戦表に目を通して、自身の相手の名前を見て驚いた。


「えっ!?」


同じ聖女候補のシェリアだった。


なんで!?


ぎぎぎと顔を横にずらしてシェリアを見ると、あちらも気づいたのかにこっと手を振られた。


そんな笑われましても


個人のレベルで言ったら、学年首位と真ん中らへんの普通の凡人だ。どう考えても勝負にならないと思うのだけど…。


「あ、高位精霊がいるからかな」


精霊の力だけで言ったら、シグナやランに勝てる者は限られるような気がした。確かジェイクにも似たような事を言われた気がする。


そういえばシェリア様の精霊ってどんなのなんだろ?去年精霊を探しに森に行ったのは私一人だし…高位精霊、じゃないよね?


「彼女は高位精霊と契約したみたいですよ」

「ぎゃっ」


ぬっと後ろから声をかけられて、物思いに耽ってたジュリは飛び上がった。


「し、師長!」

「この学年で高位精霊と契約しているのは貴方達だけですから、この組み合わせは必須だったんですよ。貴方だけなら僕が相手をしようと思ってたのですが、は~残念です」


…よかった、シェリア様が契約してくれて


「でもいつ契約したんでしょうか?授業…ではないですよね?」

「帰省中に自身の領地で拾ったようですよ。セレイスターは緑に囲まれた土地ですからね。精霊や魔物は自然の多い土地を好むものですから」

「拾った!?そんなことあります?」


貴方もそうじゃないですかと言われて、ジュリは何も言えなかった。そういえば、自分もいつの間にか村に居た頃に契約していたのだった。


「精霊は自分に相応しい契約者を選びますから、出会ったのは偶然ではないかもしれませんよ。貴方も彼女もね」




ジュリ達の番が来て、対戦枠の中に入るとシェリアによろしくと微笑まれた。そして彼女の後ろに二体の精霊が現れる。二人はぴったりとくっついていて、顔立ちの似ている双子のようだった。


高位精霊が二体?


ジュリもペンダントに魔力を注ぐと、シグナとランが現れた。ランがいつもの跪く挨拶をすると、シグナが冷ややかな目線を送ってきた。恥ずかしいからやめて…


二人は目の前の精霊を前にして、少し警戒するようにジュリの前に立った。ジュリは慌ててこれは授業だという事、今から相手に怪我をさせずに勝負をする事などを説明した。


「人間は妙な事をしますね。戯れに精霊を戦わせて、術師は攻撃するなと?」

「そこだけは同感だね。意味があるとは思えないけど」


うーん、すでに協調性ない集団だけど大丈夫かな


「あら、攻撃しても構いませんよ。出来たら、ですけれど?私はジュリさんに攻撃しますもの」


会話を聞いていたらしいシェリアが、突然煽ってきた。それを聞いた二人がシェリアに敵意を向け、いきなりやる気になったようだった。


「させるわけないでしょ」


シグナの背中を見ながら、シェリアがそんな態度とるのは珍しいなと考えた。なんでいきなり…?


あ もしかしてわざと言ってくれたのかな?


何も言わなければシグナ達は魔闘をしてくれなかったかもしれない。じっとシェリアを見ると笑顔を返されて、参りますと言われた。


「フレイ」


シェリアが精霊の名前らしきものを呼ぶと、それが合図だったのかいきなり炎があがった。片方の精霊は火属性らしい。


それに対応したのは同じ属性のランで、シグナはジュリをかばうように前に立った。自分も何かしなければと思ったが、ふと動きをとめる。


私シグナに攻撃の指示なんてした事なくない?


守ってもらう事は多いが、ジュリからそんな事を言った事はないし、ジュリ自身も人を攻撃したことはなかった。


え どうしたら…


シェリアがもう一人の精霊に話しかけると、今度は大きなつむじ風が舞った。もう片方は風属性のようで、その風に煽られた火が勢いを増した。同じ属性でも徐々にランの方が押されるような形になっていった。


「あつっ…」


熱風がここまでくるくらいの勢いに、ジュリの目の前が赤く染まった。


精霊同士で連携ができるんだ


属性は水→火→風→土→水だから、属性だけで言ったらジュリの方が有利と言える。けれどランが前衛で戦って、シグナはジュリを守る様に前に出ない、実質二対一で戦っているような物だ。


「シグナもランと一緒に…」


そう言いかけると、シグナはふるふると頭を振った。ジュリが不思議そうに首を傾げると、気まずそうな顔をされた。


「え?心配しなくても、私は大丈夫だよ?」

「それもあるけど、そうじゃなくて…。アイツと協力は難しいと思う」


ええ…?


「おい、聞こえてますが?こちらこそお断りです」


ランの不機嫌そうな声が飛び交って、連携どころか協力すら難しそうな雰囲気だった。


「陽炎」


絶賛仲間割れしていると、なぜかシェリアがゆらりと細長い炎を手に取り、そのまま突っ込んできた。精霊の相手に精一杯のランの防壁を突き抜けて、そのままジュリめがけて炎を振り下ろした。


「えっ…!?きゃっ」


シグナがジュリを抱えて飛びのいて、水の壁で守ってくれた。まだドキドキする胸を抑えながら、ジュリは目を瞬かせた。


「そっか、魔闘は精霊の他に魔術師だって戦いに参加できるんだ。三人で戦うものなんだね」


それでも相手の陣地に自身が踏み込むのは、ハイリスクな気もする。結局魔術師がやられてしまったら、精霊同士の戦いも負けてしまうだろう。けれどシェリアの動きは騎士とはいかなくても、かなり洗練されたものだった。


体術も得意なのかな。あの人本当にすごい


ジュリが同じ事をしても返り討ちにあうだろう。同じ戦法が使えるとは思えなかった。どうしようと考えていると、シグナの声が降ってきた。


「同じ事しようとしてるなら許可しないよ?」


今まさに考えていた事を言葉にされて、ふふっと笑ってしまった。なぜシグナと自分はこんなに思っていることが被るのだろうか。


「そんな無謀なことしないよ。私はシェリア様じゃないもの、やろうと思っても出来ないよ」


そう、私は彼女じゃない。だから自分の出来る事をやってみようと思う。シグナにごにょごにょと耳打ちすると、あまり自信ないと言われた。


「無理かな?」

「やってみなければわからないけど、早さが大事だよね。ジュリも手伝って」


ジュリは頷いて、水属性の陣を思い浮かべた。

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