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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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入学準備

二次試験が終わってから、魔術師の学院に入学するまで二週間しかなかった。

他の参加者たちはそれぞれ一時的に領地に帰ったりしたようだが、平民のジュリとカルロは、帰る場所がないので、最初の宿屋の一室を間借りしていた。


「授業に必要なものって自分で用意しなきゃいけないの!?」

「お前、寝てたから説明受けてないもんな、一応支度金は預かってるぞ」


寮に入る為、生活用品やローブなどの共通のものは支給されるようだが、授業に必要な器具や材料などは実費のようだった。リストを見たが、結構多い。


「この時期のマホロンは争奪戦だよなー手に入るのか?」

「マホロンって何…」


城下町は日中とても人が多かった。それでも初めて歩く街中の雰囲気はとても新鮮だった。馬車の中で見た時より、ずっと活気があり、ジュリはキョロキョロと目移りしながら進んでいると、前方不注意で人とぶつかる。


「ご…ごめんなさい」


やばい、カルロにまた怒られるかなと周囲を見るが、そこに見知った姿はなかった。


ひえっいきなりはぐれた!?


人の賑わいの中には、同じ年頃の子供たちも多く、周囲の人間に尋ねても多分わからないだろう。一応、リストと支度金の半分は先ほどもらっていた。スパルタな商人見習いだったカルロから、お前も金勘定くらい自分でできるようになれと渡されたのだ。


その場を動かない方がいいのか、探した方がいいのか思案していると、後ろから声をかけられた。


「どうかしましたか?」


振り向いたジュリは、見知った人物に驚いた。銀色の髪をした、異国風の受験者だった。間近で見るのは初めてだが、年齢が高いのか背丈もあり、やはり性別はよくわからなかった。


「こん…にちは、一緒に試験を受けた方ですよね」

「はい、ライと申します」

「私はジュリです、同じ試験を受けた男の子見ませんでしたか?」


一緒に買い物に来た事、そして速攻はぐれた事を話して、高い位置から少し探してもらったが、近くにはいないようだった。


「リストを持っているのなら、店を回れば会えるかもしれませんよ?買い物に来たのなら、時間を無駄にするのは勿体ないでしょう」


カルロはひとりでもどうにかできる、どうにもならないのはジュリだった。


「よければ、付き合いますよ?僕も、まだ買いたいものがあるので」


一人称が僕って事は、男の子…でいいのかな?それに自分で、買いに来てるって事は…


「ライさんは貴族ではないのですか?」

「僕は平民ですよ?どうしてそう思ったんですか?」


正確にいえば、どちちかわからないというのが正しかったが、じっとライを見てジュリは思い出す。


「所作…というか、物腰が丁寧だったので」


シェリア様や師長を見ても、それなりに教育を受けた貴族は、年下相手のジュリに話しかける時にも丁寧な対応をしていたからだ。


「ああ…なるほど。厳しくしつけられたので、それででしょうか?」


ジュリはもうひとつ気になっている事があった。


「失礼な質問だったら申し訳ないのですが、ライさんは受験者の中でもかなり年上に見えます。聖女試験は十歳前後から国に受けさせられますよね」


もちろん例外はあるだろう、特に平民は魔力を持っているか調べにくい。けれど、彼の年齢がそれなりに上なら、なぜ今聖女試験を受けたのか不思議だった。


ライはふっと笑ったかと思うと、今年十五になりますと言った。


「学院入学の平均年齢が十二歳なので、貴族はそれに合わせて聖女の一次試験を受ける方が多いようですね。今回の受験者たちも皆そのくらいのはずです」


貴族はほぼ魔力を持っているので、学院入学は必須のようだった。聖女試験でシェリア様のように、入学前に特待生になれる人がわかるのは、確かに合理的だなと思った。


「僕も貴方くらいの年齢で一次試験を受けたのですが、親が僕を手放すのを嫌がって、国外逃亡したのです。結局戻ってきて、今に至るのですが…」

「えっ!?」


聖女試験は国が定めている国家事業のひとつと言ってもいい。目的はよくわからないが、それなりの保障もあり、貴族ですら了承している。それに逆らうのは、国家反逆罪を適応されてもおかしくない。


子供の為に国に逆らう事すら恐れない親とは、どんなものだろうか。そういう親を羨ましいと思えるほど、ジュリは親と関わっては来なかった。彼が寂しそうに、けれど懐かしそうに語る感情は多分、ジュリは知らないものだった。


「…言いにくいことを話させて、ごめんなさい」


いいえと笑顔で答えてくれたが、親はどうなったのかなどはもう聞けなかった。




リストを見ながら、必要なものをそろえていくが、ライが居て本当に良かったと思う。なぜならリストを持っていても、ジュリは文字が読めなかったからだ。平民の中でも、文字を読める人は半分くらいで、都心に近い程多く、田舎になるほど少なかった。これは流通に伴う人の出入りの差だろう。


しかも読んでもらっても、何を言ってるかわからない。

ハルベール産のマホロンなんて言われてもそれが何なのか、どこで売ってるのかも全くわからない。ひとつひとつ人に聞いていくにも、こんな子供なら格好のカモになってしまう。


休憩しながら、支度金の一部でライに飲み物を奢った。


「ありがとうございます、本当に助かりました」

「いいえ、思いがけず、可愛い子とデート出来て嬉しいです」


おお…本当に貴族じゃないのこの人?それか天性のタラシに違いない


「思ったよりも材料が多くてびっくりしました、魔術って魔力を使うだけと思ってたから」

「確かに、授業のカリキュラムは実践だけではないですからね。…それに知ってましたか?魔術師はこの国にしかいないのですよ」


そういえばカルロが魔術師の産出国なんて言ってた気がする。


「隣国に居る魔術師は、この国出身の者たちです。たとえ姻戚関係を結んでもなぜか他国では魔力をもったものは生まれない。地続きの大陸でただ国境を越えただけで、不思議だと思いませんか?」

「魔術師は血統ではないんですか?貴族に多いと聞きましたが…」

「貴族はどんなに少ない魔力でも幼い頃から、有無を調べられますから。魔術師にあまり適性がないと思うものは、最初から騎士や官僚に進んだりしますし。同じように、平民にもそれなりにいるのではないかと思うのです」


えーっとつまりどういう事?魔力はこの国特有のものって事?


「人外の力を操れる魔術師はこの国で尊敬の象徴でしょう…けれど魔力を持っていることが必ずしも幸せではないと思いませんか?」


それは幼い時から、魔力があったために苦労してきたジュリも思う。魔力が欲しいと思った事なんて一度もなかった。彼も平民なら、何か生きづらさを感じてきたのかもしれない。


だからってどうにも出来ない。なかった事にはならないのだ。不幸だと思うなら、自分で幸せになる努力をしなければいけない。自分の心を助けてあげられるのは、自分だけなのだから。それに…


この人は私にそんな話をして、何を言わせたいのかな?


辛さを分かち合いたいというわけではなさそうだ。なら、魔術師の出生原因だろうか?この国だけ発生する魔力なんて確かに、ちょっと気持ち悪い感じはある。まるで呪いの様な…。


そこでジュリの思考は霧散した。なぜなら、怒りをたたえたカルロの声が飛んできたからである。


「チビ!!!!」


はっ忘れてた!!!


はぐれてから数時間が経っていた。カルロは探し回ってくれたのか、汗びっしょりで荒い息を吐いている。


「カ…カルロ、大丈夫?水飲む?」


思わず持っていた水を差し出すが、返って来たのはふたつの拳骨のぐりぐりだった。これはとても痛かった。

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