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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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兵士

去年と同じように新一年生の入学式が始まった。


「今年も聖女候補はいないんだね?」


列の中に黒いローブは見当たらないなと、横にいるカレンに話しかけた。去年は特化術師のミカが目立っていたが、今年はどちらも見当たらない。


「四属性はそういない、今は四年生に一人だけいるんじゃなかったか?そう考えると、私達の学年が異常だったともいえるな」

「そうなんだ、機会があったら話してみたいな」


そして何事もなく式は終わって、教室に移動する。顔なじみのメンバーに安心しながら新しい時間割に目を通した。


「何か色分けされてる…?」

「今年からコース別に専門的な事を中心にやっていくようだからな。特に騎士コースは実技は兵士見習いも一緒に学ぶらしい」


兵士…?ってことは平民?


「騎士は人数が少ないですし、実践で主力になるのは兵士ですから。優秀な人材を育成するらしいですよ」


ぬっと出てきたライが説明してくれて、カルロがびくりとした。ライはたまに気配なくてびっくりする。驚いたのか気に食わなかったのか、カルロはライに八つ当たりをしていた。


ジェイク先輩のお兄さんも平民で学院で学んでたらしいけど、それとはまだ違うのかな?


魔術師コースの実技には魔闘も入っていた。座学も新しい教科が増えている様で、今から昇級試験が心配になってくる。


あ 今年は術技大会がある


そういえば二年に一度だったなと思いながら、今年はジェイク先輩はいないんだと少ししんみりした時、まあと大きな声が聞こえた。


ん?


カルロの側にローザが立っていて、口に手を当てて顔を赤らめている。あー、カルロがいきなり大きくなってびっくりするよね。


そしてしばらく会わない内にローザも、女性らしさが増した気がする。周りを見渡すと男女ともになんとなく成長期というような変化が目立った。


じっと羨まし気に見てたのを察してくれたのかカレンが笑った。


「ジュリも少しずつ背は伸びてる」

「ほんと…?女らしくなった?」

「うーん?」


うん、そこまではないのはわかってる


しょぼんとしたジュリにライが可愛くなりましたよとフォローしてくれた。それをカルロが鼻で笑ったので、後で怖い話を教えてあげようと思う。




今日は授業がないので、ジュリ達は寮に帰る渡り廊下を歩いていると、中庭に騎士が集まっているのが見えた。騎士にしては少し人数が多いように見えるなと思ったら、ローブを着ていない鎧姿の少年が何人がいるのが見えた。


先ほど話していた兵士見習いと顔合わせでもしているかなと思ったら、見知った顔にジュリは驚いた。


「え…!?」


話が終わったのか徐々に解散していく兵士たちの中に、ジュリに気づいて近寄ってくる人物が居た。


「ジュリ!」

「兄ちゃん?何でいるの!?」


ジュリの周りの友達がえっという顔をする中、兄と言われた人物は笑顔でジュリの前に立つと、目線を合わせるように腰を落とした。


「元気だったか?大きくなったな~どこの貴族のお嬢様かと思ったぞ」


そう言ってひょいとジュリを抱きあげてくれた。


「今年の兵士育成採用試験で受かったんだよ。お前ひとりだけにはさせないって言ったろ?」

「兄ちゃん…」


あの時の約束、守ってくれたんだ…


ジュリの瞳とよく似た眼差しが懐かしくて思わず抱きつくと、大きな手が宥めるように背中をぽんぽんと叩いた。


「学院はどうだ?ひとりで辛くないか?」

「村にいる時よりも、ずっと楽しいよ。母ちゃんたちは元気?」


その言葉に兄は一瞬気まずそうな顔をしたが、笑顔で取り繕って話を続けた。


「ああ、ジュリのおかげだって感謝してたけど、寂しがっていたよ」


聖女試験に送り出した時の両親の様子から、多分半分は嘘だろうなと思った。そして半分はどこか信じたい気持ちがあった。これが兄の優しい嘘だとわかっているから、ジュリは何も言わずに頷く。


その様子を黙ってじっと見ていたカルロ達に、兄が先に話しかけた。


「友達?どうも、ジュリの兄のリクです」


それぞれ自己紹介すると、リクはジュリに友達が出来たことを喜んでくれているようだった。兵士は実技を騎士コースと一緒に行うが、魔術師コースのジュリとは授業が重ならないらしい。普段も寮ではなく、少し離れた兵舎にいるとの事だった。


「何かあればいつでも訪ねてこいよ。ああそれと…俺たちの村から何人か兵士見習いになっている。その、一応気を付けろよ」

「え…?」


ジュリは自分の顔が引きつるのを感じた。あの村で自分を貶めない人間の方が少ないくらいだった。特に歳の近い男の子には面白がって虐められた記憶がある。それを知っているリクは、少し心配そうな顔でジュリの頭を撫でた。


リクが去っていくのを見送りながら、背筋が寒くなる様な不安が湧き上がってくる。カレンのよく似ているなという言葉にも上の空で頷くだけしか出来なかった。




それから数日明らかにおかしいジュリの様子に、周りは心配してくれた。


「どうかしたのか?何かあるなら言って欲しいんだが」

「ううん、何でもないよ。本当に…」


これは本当で、思いのほか騎士コースの兵士たちと会う機会はなかった。必然的に何も起こっていない。


何かあれば報告などするし隠す事はしないのだが、不安や恐怖など自分の感情的な部分を人に話していいものか、よくわからなかった。言ったところで何か解決するとは思えないから。


相談役は昔からいつもシグナだったが、彼が上手く聞き出すのでジュリも話していたに過ぎない。ジュリは誰かに頼ったりする事が苦手だった。


大丈夫、ここは学院なんだもの


「ちょっと図書室に本返しに行ってくるね」

「俺も行く」


ジュリの言葉に、カルロが反応したので驚いた。少なくても彼は本に興味がないはずだから。


心配してくれてるのかな?


少しだけ温かい気持ちになって落ち着くと、二人で図書室に向かった。いつもは静かな場所だが、人がいるのか中から話し声がした。


扉を開けると、ジュリは持っていた本を落とした。


それに気づいた図書室の中に居た三人の少年は、こちらを見て怪訝な表情を浮かべた。


「お前…」


兵士は学習に使う公共場所の利用は許可されているので、当然図書室にいてもおかしくない。ただそれがジュリの知っている顔だった。


彼は村長の息子で、村では一番裕福な子供だった。幼い頃はいじめの首謀者だった事もあり、ジュリは血の気が引いた。


「魔女が何でこんな所にいるんだよ」


びくっとして手足が冷たくなっていくように感じた。あの頃は何を言われても心を閉ざして、聞かないようにしてれば良かった。けれど今はそれができない。


「はあ?お前何言ってんだよ」


カルロがジュリを守る様に前に出ると、他の男二人が取り押さえるようにカルロの両腕を掴んだ。


「ちょ、おい!ふざけんなっ」

「おい魔女、俺の前で何突っ立ってるんだよ。昔みたいに這いつくばれよ」


カルロは信じられないと言う眼差しでジュリを見つめた。


どうしよう…


ここでシグナを呼ぶことはできるが、彼らに危害を加えてしまう気がする。自分が我慢すればそこまで酷い事はされないはずだ。彼らは暗殺者などの危険人物ではなく、ただジュリを甚振りたいだけだなのだから。我慢すれば…


ジュリは目を閉じて跪こうとすると、図書室の入り口から誰かが入ってくる気配がした。

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