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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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変わりゆくもの

カレンの実家にお世話になっている間に、来年の必要な教材や衣服などの職人がやってきた。三年生からは魔術師コースのローブも長めに新調するらしい。


はあ~さすが貴族。家でお茶飲んでる間に全て揃うんだ


去年カルロと城下町に買い出しに出かけて、誘拐されそうになったのが嘘のようだ。しかし一応支度金は持ってきていたので教材費は払ったのだが、カレンの祖父がその他のドレスや靴などを孫だけでなく、ジュリにまで贈りつけてきたのだ。


「い…頂けません」

「カレンだけに贈るのもね…学院祭には必要だろう?せっかくだから、君の瞳に合わせたドレスも注文しようか」


楽しげな様子で話をきかないイブラムに、ジュリはどうしようとカレンを見つめた。彼女は諦めろというように首を振った。


「着せ替え人形にされるのはいつもの事だから」


うつろな目ですでに覚悟を決めているカレンを見て、もしかしてこの負担を軽減するために呼ばれたのではと思った。


「そうだ、首飾りはどうだろう?職人が良い石が入ったと言っていたような…」


ひえっ…


放っていたらどんどん物が追加されそうになって、ジュリは思わず別の話題を振った。


「あのっ…!私本を読むのが好きなんです。滞在中に読みたいので、良かったらこの館にある本でおすすめのものを貸していただけませんか?」


貰うくらいなら借りる方がいいと思い口から飛び出した案だったが、イブラムは思いのほか話に乗ってくれた。


「ああ、君は読書家なのか?いいね、私の書斎に案内しようか」


カレンは私はいいと言って、ジュリだけ招かれることになった。


そういえばカレンは医学書とか難しい本しか読まないしなあ


ジュリはどちらかというと物語が好きなのだが、カレンはあまり好きではないようだった。理由と聞くと、何もせずに身分の低い少女の元に王子が求婚するようなご都合主義の話ばかりで、現実的でなく面白くないという事だった。


この国では出生の身分で結婚相手も決まると言っていい。平民と貴族の結婚は周囲が許すものではなく、まして王族となると、駆け落ちなどで己の役割を放棄することは出来ない。身分には責任が伴うから。


ただジュリは夢物語だとしてもそんな話も好きだった。主人公は誰もが前向きに頑張っている。諦めずに投げ出さずに、辛いことがあっても最後のハッピーエンドに向かって行く姿勢を見るのが微笑ましい。


恋愛の物語が女の子受けいいのも、きっとそんな生き方に憧れもあるんだろうな。現実は諦めなきゃいけない事もいっぱいあるからね…


そんな事を思っていると書斎についたようで、扉が開かれると中央にある机を沢山の本棚が囲んでいた。ちょっとした図書館みたいで、ジュリは目を瞬いた。


「どれでもどうぞ。届かない所は取ってあげよう」

「…すごい量の本ですね」


軽く見回してみると、かなりジャンルはバラバラだった。


「一貫性がないだろう?私達の一族は様々な事に興味があってね。歴史、産業、魔術道具や平民の暮らしまで」


そういえば珍しいものが好きなんだっけ


知りたいというのは探求心が強い証拠なのかもしれない。


「要はこの国が好きなんだ。他国の文化も柔軟に取り入れて、さらに発展して欲しいと思うよ」


自分の国が好きだと言えるのはいいなあと思った。ジュリはまだそう言えるほど、この国の事をあまり知らない。


「物語とか…建国神話はありますか?」


そして何冊かの幼い子でも読めそうな物語の本と、建国神話を手渡してくれた。挿絵はなくごくごく一般的なものだった。


カタスティマで白い翼の少女の挿絵をみてから、新しい建国神話の本を開くとどうしても確認してしまうようになった。けれどあれ以来同じような翼の絵は見ていない。


あれが特別だったのかな…?


「君は建国神話が好きなのか?まあ聖女候補だからな…しかし私が学院に通っていた頃はそんな制度はなかったな」

「え?そうなんですか?」


属性を調べる事は昔から行われていたが、聖女試験というものはまだ新しいものらしい。


「四属性はそもそも学院に通っていなかった。いなかった…というわけではないだろうが、今でも四属性は貴族の中でも少ないからな。三属性は多いが…」


ジュリ達の学年もライを除けば四属性は五人で、そのうち三人は平民出身だ。もしかして平民に多かったりする…?


でも貴族は学院に通うよね?その頃の四属性の人達ってどうしてたんだろ?


「ただ聖女試験を設けた人物は知っている。確か、今の宮廷魔術師長の親類じゃなかったか?あの方の家系は四属性が多いらしいな」

「師長の?」


師長の家族関係もよく知らないんだよね…名前すら偽名だし


ジュリが首を傾げていると、イブラムは少し考えてそれ以上は教えてくれなかった。本人のいない場であれこれ聞くのは失礼かもしれないなとジュリも詳しくは聞かなかった。


「ただ自分の孫が四属性だと知った時、学院に通える制度があって良かったと思う。カレンも楽しそうだ」


そしてジュリを見ながら優しい笑顔で微笑まれた。


「あの子と友達になってくれてありがとう。どうか今後も仲良くしてあげてください」


それは血の繋がった孫を慈しむ、祖父の顔だった。ジュリは自分の方がお世話になっているうえに、カレンの事がとても好きだからという事を伝えると、嬉しそうな顔になった。


その表情を見ながら、とても愛されているカレンが少しだけ羨ましいなと思った。




休暇は瞬く間に過ぎて、学院に戻る日になった。

アンナが寂しそうに手を振っているのを見ながら、二人は沢山のお土産を持って馬車に乗り込んだ。


「私だいぶ太ったかもしれない。カレンのお家のご飯美味しいんだもん」

「また来たらいい。おじい様もジュリの事気に入ってたみたいだから」


二人で笑いあいながら、ふと窓の外の景色に目を向けた。


村を出た時も同じように馬車の中で、夢だったらいいなあとはちょっとだけ思った。ひとりだけ故郷を出て、家族と離れるのはやはり心細かった。けれど今は学院でみんな過ごしたのが夢だったら、嫌だなと思う。そう思えるくらいには、ジュリにとって幸せな生活になりつつある。


物珍しかった窓の外の風景は同じなのに、カレンがいるだけで色鮮やかに感じるから不思議だった。




学院に戻ると談話室にカルロがいた。今年はライも学院に残ったようで、二人で話している。


「えっ!?」

「…何だよ」


ジュリの驚きに、さほど意外そうでもなくカルロが聞き返す。


「ええっ!?」

「何だよ!うるせえなっ」


カレンは何も言わないが、物珍しそうにまじまじとカルロの側に立った。


「…伸びたな」


そう、ちょっと見ない間にカルロの身長がライの首近くまで伸びている。ジュリも実感はないが、洋服のサイズなどで成長はしているはずだ。けれどカルロほど目に見えて身長は伸びていない。


「私と同じくらいだったのに!ずるいっ」

「俺はお前より年上なんだから、一緒だったのがおかしいんだよ」


満足そうにジュリを見下ろすカルロに、周りから笑いが起こった。


「かっこいいですよ。この様子だと僕よりも大きくなるかもですね?」

「お前に言われても素直に喜べねーな」


まだ自分よりも高いライを、カルロは恨めしそうに睨んでいる。


少しずつ変わるものも感じながら、もうすぐ学院で過ごす三年目が始まる。卒業までは二年しかない。

卒業後どうなるかわからないが、精一杯学んで、考えて、後悔のないようにしようと思った。

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