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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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精霊会議

仮面舞踏会の次の日、ジュリは中庭で自身の精霊二人に怒られていた。


シグナは苛立ちを隠さず威圧的に佇み、ランも少し困ったような顔で同じように並んでいる。ジュリは真正面にいる二人の顔を直視できずに、顔を伏せ気味に冷や汗をかいていた。


こ…怖い


昨日の悪魔集会の事を話したら、なぜか説教会が始まってしまった。


「僕前に言ったよね。無謀と勇敢は違うって。何で僕らを呼ばなかったの?」

「私達は身体的な攻撃には瞬時に察知できません。呼んで頂かなくては…」


心配してくれているのは痛い程わかったけれど、どうみても主と精霊の図が逆である。ジュリが幼いのもあるのかもしれないが、特にシグナには毎回怒られている気がする。


「ミカ達がいたから大丈夫かなって」

「ジュリにとっては信用できる人間なんだろうけど、僕はジュリ以外信用してない。何かいつもと違う事をする時は相談して」

「まあ少し過保護すぎるようにも思えますが、確かに何かあってからでは遅い。危険だとわかっている時は遠慮なく呼んでください」

「…うん、ごめんなさい」


二人の言葉にジュリが謝罪するとシグナはやっと険しい雰囲気を和らげてくれた。


「もっと僕を頼ってよ。悩んだ時や不安な時でもいい、ずっとそうしていたでしょ?」


そう、村に居た時はもっと頻繁にシグナに会っていた。慰めてくれるのも相談相手も全部彼だった。学院に来てからは友達との時間が増えたため、そんな機会も減っていた。


「でもずっとシグナに甘えてばかりじゃ駄目だと思うの。私もいつかシグナが頼ってくれるくらい成長しなきゃ」


そうじゃないでしょとシグナが苦い顔をしたのを見て、ランが笑った。


「僕はもう必要ない?」

「そうじゃなくて、私はシグナが役に立つから一緒にいるわけじゃないよ?」


そして両手を広げてジュリはシグナに抱きついた。シグナも少しだけ不満げな表情をしていたが抱きしめ返してくれた。これは二人の喧嘩した時の仲直りのサインのようなものだった。もう次に会った時に蒸し返したりしないように。


そして同じように心配かけたランにも抱きつこうとしたが、そんなに気安く触るわけにはいかないと拒否された。あまり人間との接触になれていないようだ。


「私には言質を取らせてもらうだけでいいです。復唱してください」

「ふ…復唱!?」


そして危険時にひとりで無茶しないなどを約束させられた。慣れない事をさせられて、抱きしめるよりこっちの方が何故か疲れた。


後でジェイクもレイリにバレたのか、図書室で正座させられていたと人伝に聞いた。




数日後、仮面舞踏会の時に掴まらなかった師長に会いに行くことになった。あの後すぐにジェイクたちと報告に行こうとしたが、警備や学院祭の雑務で教師たちは忙しかったようだ。


「ジェイク先輩、良かったの?」


ジェイクはあの後、もういいと言って結局長身の男を解放した。


「あ?だってアイツは首謀者じゃないなら他に聞ける情報はないだろ。実際に手を下したわけじゃねえし…」


ジェイクの気が晴れたなら良かったと思うが、多分まだ蟠りは残っているだろう。けれどこれ以上男を追い詰める必要はないと判断したなら、ジュリも従おうと思った。


「ミカも来るんだ」

「当事者だからね?ジュリは精霊に怒られたでしょ」


うっとした顔のジュリに、君の精霊は嫉妬深いからとミカが笑う。


「ランはそこまでなかったけど、シグナは怖かったよ。何であんなに怒りっぽいんだろ」

「それがわからないからジュリはお子様なんだよ」


ええ…?


そんな会話をしながら師長のいる部屋にやってくると、目的の人物に笑顔で出迎えられた。


「やあ、こんにちは。探してくれてたと聞きましたが?」


別に好んで会いたがってたわけじゃないけどなと、横のジェイクがぼそりと呟くのが聞こえた。そして今回の事件について一応報告しておく。また何かあった時に、教師の協力はあった方が心強い。


「なるほど…。あの連続変死事件はかなり大きなものでしたね。ただなぜか有力な証言が出てこなかった。まあ、僕もまだ若くて学院に常勤しているわけでもなかったので、捜査に加わってはいないのですがね」

「え?師長は数年前までここにいなかったんですか?」

「何か何十年もいるくらい偉そうだよな?」

「…君達は僕を何歳だと思ってるんですかね?」


そんな会話を続けながら、長身の男は逃がしていいんですかとミカが質問した。ジュリとジェイクがぎょっとしてミカを見つめた。


「証拠がないのですから、生徒たちで集まっただけじゃあの事件の罪に問う事はできませんね。陣についても…上層部には知られている物ですから、公に使わない限り捕まる事はないでしょう」


当時も人が亡くなっているのだから、入念に捜査はされたのだろう。けれど外部の犯行になると、犯人を追えなかった可能性も出てくる。あれから学院は侵入経路に関してはかなり厳しく目を光らせるようになったようだ。


ジェイクがほっと安堵の息を吐いているのが聞こえた気がした。これは彼の良い所でもあり、どんな状況でも人を見捨てられない弱さでもある。


「ただ剣の構造については面白…興味深かったので、僕も調べていましたし有益な情報でしたよ」


今、面白いって言いかけなかった?


魔術の研究に関しては、師長は誰よりも頼りになると思っているが、一歩間違えればただの研究バカだ。


「私達が抜け出して、勝手に集会に参加したのは何の罰もないんですか?」


少なくても学院にとっては非公式の集会のはずだ。生徒会からは見逃されているが、現行犯で捕まれば何かしら罰があるとは思っていた。


深夜に寮から抜け出すのも規則で禁止されてるしね


師長はああ…と言って、何かを思い出す様にふふっと笑った。


「どうかしたんですか?」

「いいえ、懐かしいなと。僕も学生時代は好奇心で悪魔集会に参加したことがあるので。若い時に冒険はするものですよ?まあ死なない程度に」


そんな教師らしからぬ事を言う師長は、いたずらっ子のような笑顔でぽかんとする三人に笑いかけた。




当時の犯人がこの学院にいるかもしれないという事は頭に入れておくと約束してもらって、師長の部屋を後にした。


「あ~あ!終わった終わった」


部屋を出るなりジェイクが大声でそういうものだから、ジュリはびくっとして横にいるミカの腕を掴んだ。


「終わった?」

「だってもう俺が出来る事ねえもん。卒業まで時間もないしな」


それでいいんですか、と口に出すのは簡単だけれど質問することはできなかった。彼が自分に出来る精一杯を実行して、ずっと足掻いてきたのを見ていたから。


ジェイクの兄が亡くなる発端を作ったのは謎の少年だが、結局は仲間内の紛争が直接的な原因だったのは間違いない。誰が何をしたなんて卒業した貴族に聞きにまわるわけにいかないし、現実的でもなかった。平民が貴族に甚振られるなんて日常茶飯事だからだ。


ジェイクが無言で天井を見上げて、しばらく何かを考えているように思ったが、ふっと下を向いたと思ったら口を開いた。


「俺は多分、兄の死も自分が力を持った意味も、全部正当化したかったんだ。解決してもしなくても、兄の為にこれだけ頑張ったって、そういう自分を慰めたかったのかもしれない」


それはどこか自虐的な告白だった。全部自分の為に動いていたともとれるような言葉だったが、そんな人間が誰かの心配をしたり、危険な事に命をかけたりはしないだろうと思う。


「人間が自分の為に生きるのは当然の事ですよ」


ミカが目線をあわせずに小さな声で呟いた。もしかしてフォローしたのだろうか。


ジュリやミカの目線に合わせて屈んでくれたジェイクは、二人の頭に手を置いてははっと笑った。


「俺は後輩に後始末まで任せる気はないぜ。もういいんだ本当に。自分が納得したのならそれがけじめだと思うから。お前らはいつだって自分の身を第一に考えろよ?ここも絶対的に安全な場所じゃないってわかっただろ?」


ジュリは思わずジェイクに抱きついた。ジュリは慰める時にかける言葉を持っていなかった為に、いつもシグナにするような事をしてしまった。


いつも気丈なジェイクが泣き出しそうに見えたのが堪らなかったから。


彼は何も言わずにジュリの背中をぽんぽんと叩いて、あやしてくれた。



寮の部屋に帰ると、ジュリの顔が酷いとカレンが濡れタオルで拭ってくれた。どんな顔をしていたのか自分じゃわからないけれど。


「また何か首を突っ込んだのか?」

「まあ、うん。巻き込まれたと言うか突っ込んだと言うか…微妙だけど」


カレンはじっと見つめてきたが詳しく聞こうとはしなかった。ジュリが話そうとしないなら無理に聞こうとは思わないようだ。


「もうすぐ年末連休だろう?今年は私の実家に泊まりに来ないか?」

「カレンの?」


何となくカルロと二人は気まずいなと思っていたが、それを見越して誘ってくれているのかもしれない。


「いきなり行って迷惑じゃないの?」

「いいや、むしろ来てくれ」

「?」


そういえば年明けに実家帰りのカレンの機嫌が悪かった気がするけど、関係あるのかな?


今年の冬季休暇はカレンの家に行くことが決まって、ジュリは少しだけ気持ちを浮上させた。

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