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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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黒ミサ

仮面舞踏会が始まると、騒がしい講堂内から参加せずに寮に帰る生徒たちが見えた。それをある程度見送って人気が少なくなると、ジェイクは黒いローブに仮面をつけて教室から出てきた。


ジュリ達も一応黒いローブを身にまとっていたが、聖女候補は元々ローブの色が黒なので特別感は薄い。


「今から行くんですか?」

「時間がわからんからな。ただ仮面舞踏会が終われば、うろついてたら目立つだろうし…あるとしたらこの時間帯じゃねえか?」


本当に悪魔集会があるかもわからないのに?


「深夜は見回りの教師に見つかる可能性もあるしな」

「見回りとかあるんですか?」


ここには将来を担う貴族の子供たちが多いので、外部からの警戒は学院側が一番気を付けている事だと仮面の男が言う。


「あとは、まあ寮を抜け出した男女がな?若気の至りっつーか、既成事実でも作ったら貴族にはとんだ醜聞だろ?」

「既成事実ってなに?」


ジュリがよくわからずに隣のミカに話しかけると、何で僕に聞くのという顔で薄い微笑みを張り付けた顔で見つめられた。


「ジュリは知らなくていいよ。そんな事する生徒なんて殆どいないから」

「うわ、過保護だねえ」


ミカは余計な事を吹き込むなというように、ジェイクを睨んだ。


「確かに余計な知識ってのは、厄介事に巻き込まれる危険性はあるぜ?今のお前らみたいにさ。でも知らなかったから被害を被る事だってあるだろ?これは後者だと思うけどな」

「どういう事?」


ジュリが聞きたがったので、ミカはこれ以上遮るような事は何も言わなかった。


「学院って適齢期の男女ばかりだろ?そら恋だってするわな。婚約者が居ても絶対に結ばれない相手を好きになる事だってある。貴族ってのは体裁を気にするから、他の奴と噂になったってだけでも婚約者側に敬遠される。まあそういうのを狙ってやるんだよ」


ふむふむ、恋愛は周りは見えなくなるっていうもんね


「中には振られたりして実力行使するやつもいる。男だけじゃなく女も薬持ったりしてな。お前もいつまでもチビのままじゃないだろ?まあ…気を付けとけって事」


今のジュリにはそこまでの実感はなかったが、ジェイクが親切に教えてくれてるのがわかったので素直にお礼を言っておく。



墓地が見えてくると、ジュリとミカは近くの草木の陰に隠れた。仮面の男は集会に参加するであろう人物達が必ず通る場所を見張ると言った。先生が近づくようなら教えてくれるとも。


ジェイクが一人で墓地の奥へ進んでいくのを見ながら、身を隠しつつひそひそとミカに話しかけた。


「共同墓地っていうけど、結構広いね?」

「歴史はあるから学校関係者とか結構いるのかもね…怖い?」


暗い墓地は気味悪さはあるが、ジュリはもっと怖いものを知っている。


「ううん…幽霊は何もしないから、怖くないよ」


ずっと生きてる人の方が怖かった。虐められるのも、蔑まれるのも、無視されるのも、人に存在を否定されるのは怖くて、辛い。家族やシグナがいなければ、もっと荒んだ人間になっていただろうなと思う。


あまり思い出したくはなくて、ミカは怖いものなさそうだよねと話をふってみる。


「僕にだってあるよ」


それはなんだろと首を傾げた時、ジェイクの前に同じように黒いローブを着た人物が立っているのが見えた。ジェイクが話しかけているのが聞こえたのでジュリ達は耳を澄ませて、彼らの動向を見守った。


「あ?お前どこからあらわれた?」

「おや、新顔かな?今回は新しい同士はいないはずだけれど…」


相手はジェイクよりも長身の男性のようだった。すでに怪しまれているようで、ジュリはハラハラしながらミカと息を潜めた。


男はジェイクの身なりを見分しながら、腰にさしている剣に目を止めた。


「…懐かしいものを持っているね。本来武器の持ち込みは禁止だけれど、いいよ。それは特別だ」


ジェイクが招かれて墓地の中心まで行くと、他にも何人か先客がいた。


「誰?新入り?」

「あは」

「その剣、見覚えあるなあ」


複数人の笑い声と共に姿は見えないが、女性のような声も聞こえた。


「ここでの唯一のルールは互いに素性を詮索しない事。君も承知してもらおう」

「あ…ああ」


ジュリ達は息を潜めて声の聞こえる場所まで移動した。それぞれの姿はわからない、見ようとすればこちらも見つかってしまうから。


「では、今宵も始めよう。ここでは何を発言しても許される。憎悪も殺意も情欲も。死者に気に入られれば、願いが叶うかもしれないよ」


数人がくすくすと笑う声が聞こえて、ジュリは顔を歪めた。多分ジェイクも同じような顔をしているのではないだろうか。


「アタシはぁ、クラスの公爵令嬢が嫌い。あのお綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい」

「僕を笑った三属性の女を痛めつけたい、ちょっと魔力が高いからといい気になりやがって」


そんな聞くに堪えない愚痴が続いた。現実で実行できないからここで吐き出すのだろうが、歪んでいるなと思わずにはいられない。


横を見るとミカが鏡のようなもので後ろを映し出して見ていた。思わずどうしたのそれと言いそうになって、手で口を塞いだ。


よく見ると水鏡のような薄い膜で、ミカが魔術を使ったのだろうと理解した。映し出された人数はジェイクを入れて六人ほどで思ったよりも少なかった。


「そういえば、あのキーキーうるさいおばさん、今年はいないのね」

「ああ…そういえば去年術技大会で、女教師が一人変死体で亡くなったらしいよ」


術技大会…?女教師?


そのキーワードにジュリは覚えがあった。聖女試験で平民を蔑んでいた年配の女性で、なぜかジュリ達に襲い掛かったのだ。最後に血を吐いて苦しんでいた光景が脳裏をよぎった。


もしかしてあの人も悪魔集会に…?


師長が単独犯だとは思えなかったと言っていたのを思い出す。それでもなぜここに繋がるのだろう?悪魔集会が黒幕…?


「あなたは?」


誰かがジェイクに尋ねたのだろう。彼は一呼吸おいて、少し強めな声色で話し出した。


「俺は兄貴を殺した奴を殺したい」


ジェイク先輩何言ってんの…!?


思わず声に出しそうになったジュリの口を、今度はミカが抑えてくれた。


「五年前、兄貴はこの剣を誰かからもらったらしい。調べていく中で、何度も悪魔集会が出てきた。あんたら真相を知ってんじゃないのか?」

「はあ!?五年前なんて、あたしたちが入学する前じゃない!知るわけないでしょ」


確かにここにいる最高学年は四年生だよね


「けど仮面舞踏会の日だけは違うよな?卒業生や入学予定の貴族の出入りも認められてるだろ」


そういえば、あの仮面の男性も前生徒会長って言ってたから卒業生だ。ならここにも卒業生がいる可能性はない事もないけど…?


長身の男が面白そうに口に手を当てて笑っていた。


「なるほど、君はその真相を暴きに来たんだね?兄か…その剣は悉く平民が好きらしい」


その発言にジェイクの顔色が変わったような気がした。彼は知っているのだ、ジェイクの兄が平民だという事を。


「おい、今なんて言った!?」

「質問しているのはこちらだよ、抑えなさい」


それが合図のように、残りのメンバーがジェイクを羽交い絞めするように抑えた。流石に大人数は振りほどけないのか、ジェイクが魔術を使おうとした。


「火炎…っ!?」

「ここでは魔術は使えないよ。お兄さんに教わらなかったの?他に何を隠しているのかな?」


そして長身の男は袋から種のようなものを取り出して、ジェイクに飲ませようとした。その時師長の言葉が警告のように脳裏によぎった。


“元々何か体内に入れてたみたいで、時間が来れば発芽して死に至るようなものだったようです”


「ダメっ…!!」


見つかるのも構わずに、無我夢中でジュリは茂みから飛び出した。

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