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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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学院七不思議

ジュリ達は温室を出て、ぞろぞろと師長に連れられながら廊下を歩いた。


「どこへ行くんですか?」

「貴方達は今回の試験をクリアしたのですから、ミルゲイ先生からご褒美がありますよ」


あ…回復薬!


そういえば最初の説明で、合格者は三種類の薬から選べると言われていたのを思い出した。何にしようかなと考えていると、師長と目が合った。


「そういえば師長って七不思議を調べたんですよね?他のはどんなのがあるんですか?」

「結構ありきたりだったと思いますよ。夜中に音が聞こえる音楽室、絵が動く美術室、未来の姿が見える大鏡、思いが伝わる渡り廊下、あと二つは先ほど言いましたよね」


…ん?


「あとひとつは?」

「ああ、死者と踊る仮面舞踏会ですね」


ひえっ!?


「これだけよくわからなかったんですよね。他のは恐怖による見間違いだったり、生徒たちの願いがこもったものだったり何となく想像つくじゃないですか。ただこれの意図がよく…?本当のようでも嘘でもあるような」


そんなのいつ調べたんですかと聞くと、僕が昔から教師だったとでも?と返された。師長が学生の時に同じように興味を持って、調べたのだろう。


「みんな怖い話が好きですよね~まあ学院のような閉鎖的な空間では、娯楽の一つなのかもしれませんね」


好きじゃない人も若干いるだろうけど、とジュリは後ろにいるやっと起きたらしいカルロを見た。そんな話をしているとミルゲイ先生の薬学室に着いた。


あまりの大人数にこんなに薬のストックはないと怒られた。理不尽。


「普段はこんなに霧の校舎に招待されませんからね」

「そうなんですか?」

「大体一学年に五人もいません」


聖女候補が全て呼ばれているのを見ても、目利きが出来ると言うのは本当なのかもしれない。ジュリは四属性というだけでそこまで秀でているとは思わないが、契約してくれた高位精霊が二人もいる。


でもあの霧の幻…。向き合う相手って自分の弱みみたいなものなのかな?


ジュリの名前を呼んでいた少女は幼かった。それこそ今のジュリよりも。あれは誰?


そんな事を思っていたらカレンに声をかけられた。


「聞いているか?」

「え?何?」

「回復薬、惚れ薬、忘却薬のどれにするかって。作って置いてくれるとさ」


そっか、その為にここに来たんだよね


一番生徒に人気がありそうなのは惚れ薬だろうか。でもジュリにはそんな薬に頼りたい相手はいないし、使った相手に後で怒られそうだ。


「じゃあ…忘却薬で」


カレンが興味深そうになんでだ?と聞いてきた。


「惚れ薬は使う機会ないし、回復薬は自分で作れるから」


消去法で選んだだけだが、カルロから回復薬は作れる?冗談だろ?と言われて、後で学院七不思議を教えてやろうと思った。




数日後ジュリは、音楽室の側を通った時に何となく窓から覗き込んだ。


ここが噂の音楽室…。夜中じゃないしなあ…


「何してるの?」


背伸びして窓に手をついている奇妙な姿に、思わず声をかけてくれたのはレイリだった。


「レイリ先輩、こんにちは」

「俺もいるだろうが」


横のジェイクが文句を言うと、気がつきませんでしたとしらばっくれた。もちろん気がついてはいた。


「それで何してたの?中に入りたいの?」

「いいえ、ここって七不思議のひとつだなあと思って」

「ああ、先日の霧の校舎絡みか。あれも七不思議だっけか?俺は入れた事ないんだよな」


私は招待されましたと威張ったら、ぐにっと頬をつねられた。悔しかったらしい。痛いんですけど。


「先輩たちも七不思議知ってるんですね」

「この学院で知らん奴はいないんじゃねえの?みんな暇を持て余してるからな」

「あら、私は全部は知らないわよ」


ジュリがじゃあ七不思議を回って見ましょうかと言うと、レイリが楽しそうに同意した。ジェイクは俺も行くのかと面倒そうだがついてくるようだった。


「音楽室と美術室は知ってるわ。まあどこにでもありそうな二つよね」

「あと霧の校舎は行きようがないが、職員室には入れるんじゃね」


ジュリ達は職員室に向かう事になった。先生たちが沢山いるのは少しだけ緊張する。そんな様子にジェイクはわかると同意しながら頷いた。


「俺も行くたびに小言いわれるからな。出来れば近寄りたくねえ」


うん、多分違うかな。ジェイク先輩ほんと何してるの…


職員室には殆ど先生たちはいなかった。投書箱はどこだろうときょろきょろしていると、これじゃねとジェイクが奥の隅に置かれている箱をがっと掴んだ。ちょ、乱暴…!


でもほんとだ、投函口がない


普通の箱のようだが、ジェイクが力任せに開けようとしてもびくともしなかった。


「貴方達何してるの!?」


先生に見つかって急いで職員室を出ようとすると、箱を持っていたジェイクだけ捕まった。ごめんなさいと思いつつ、レイリがジェイクは慣れてるからと積極的に置いて行った。大丈夫なの…?


次に訪れたのは、校舎二階の東階段にある大鏡だった。


「ここ薄暗いし、夜に見たら怖そうですね」

「そうね、でも未来が見えるならちょっと面白そうよね」


二人で見ているが、何も変わらない普通の鏡だった。じゃあ次に行こうかとレイリに言われて、ジュリも続いたがふと後ろを振り返った。


鏡にはジュリが映っている…のだが、いつも見慣れている姿よりも少し大きい。その横にレイリではない男性のような姿があった。顔は見えないが薄紅の髪色をしている。


「…えっ!?」


ジュリの叫びにレイリが振り返り、一度レイリをみてから再度鏡を見たが、そこにはいつも通りの二人の姿しかなかった。


「あれ?」

「どうかした?」


目をごしごし擦って見ても、何も変わらない。不思議に思いながらも見間違いだったと話して、次の場所に向かった。


普段はあまり訪れない離れへの渡り廊下にやってきた。


「ここが思いが伝わる渡り廊下ですかね?でもどういう意味なんだろう?」

「あらこれはわかる気がするわ。ここって告白する場所として有名だからね、そういう事でしょ」


ああ、なるほど。これは生徒が作った七不思議っぽいなあ


二人でそんな事を言ってたら、ジェイクが恨みがましい顔であらわれた。


「お前らよくも俺を囮にしやがったな…」

「普段のアンタの行いの悪さでしょ」


そういうレイリにはそれ以上言わずに、ジュリに八つ当たりするように頭をぐりぐりされた。痛い。


「もう七不思議巡りは終わりましたから!最後の仮面舞踏会は今は無理だしっ」

「は?お前何言ってんだ?最後の一つは墓地だろ」

「え?死者と踊る仮面舞踏会じゃないんですか?」


なんだがお互いの知っている七不思議に違いがあるような気がして、しばらく無言で見つめ合った。


「音楽室、美術室、職員室、霧の校舎、鏡に渡り廊下、墓地だろ」


やっぱり最後だけ聞いたのと違う?


「私は師長に死者と踊る仮面舞踏会って聞いたんですけど、違うんですか?」

「師長?おっさん時代の七不思議じゃねえか」


あ それ師長の前で言ったら怒られると思う


「ジェイク先輩のはどんな七不思議なんですか?」

「声の聞こえる共同墓地…ん?まてよ」


ジェイクは何かを考えるように黙ってしまったので、レイリに共同墓地なんてあるんですかと聞いた。


「そうね、学院でも亡くなった人間は全くいないわけじゃないから、学院関係者も含めて…。遺体はそれぞれの家族に引き取られるから、余程の事じゃないとさすがにないと思うんだけど。裏手に小さな共同墓地というか慰霊碑があるわ」


森もそうだけど授業でも危険な事がないこともないもんね。ジェイクのお兄さんも…


その時ジェイクが屈んで、こっそり話をするようにジュリの肩を組んだ。えっ何?


「多分、舞踏会と墓地のやつは一緒だと思う。以前言った悪魔集会ってのあるだろ?あれの集会場所が共同墓地らしいんだよな」


そしてその集会がいつあるのかわからないが、生徒が夜遅くまで校舎をうろつける仮面舞踏会の夜が、一番可能性が高いのだと言う。


確かに死者が墓地の事だとするなら、繋がる部分はあるけど…


「なんでこんなこそこそ話してるんですか?」

「レイリに知られるとうるせーんだよ。絶対止められるだろ」


ジュリならなぜ止めないと思うのだろう。しかも参加する気なのかもしかして?


「お前の精霊探し付き合ってやった時、協力するって言ったもんな?お前」


言ったっけ…?


ただ助けてもらったのは事実な気がしないでもない。


笑顔で凄まれながら、ジュリは悪徳高利貸しにいつの間にか借金させられたような心境だった。

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