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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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試験の後で

「う…」


ゆっくり目を開けると、カルロの顔が見えて、抱きかかえてくれていた。

聖女試験の真っ最中だったのに、嘔吐して倒れてしまったのだ。


「おい、大丈夫か?」

「カルロ、ごめん…服が汚れるよ、はなして」

「おまえな…」


カルロの怒りの気配を感じたが、ジュリは周りを見渡すとそんなに時間は経ってないようで、倒れる前の記憶通りの人達が居て、こちらを見ていた。


自分の担当をしてくれた年配の女性はなんなのこの子という顔をして、嘔吐物から逃げるようにかなり距離を取っていた。


師長はゆっくり近づいてきて、首筋の熱や脈を測ったりしていた。


「多分、大丈夫と思いますが、別室で休んでいていいですよ」

「あの、私、試験は…」

「君は…」


師長の言いかけた言葉を遮るように、年配の女性が声をあげてきた。


「こんな基礎的な事もできないならば、宮廷魔術師など到底なれません。平民にはやはり荷が重すぎるのでしょう。失格にするべきでは?」


失格なんてあるの?


合否関係なく、魔術師になるべく国に引き取られると聞いていたのに初耳だった。きっと、村に帰ってももう自分の居場所なんてないのにどうしようとジュリは思った。せめて、国からもらったお金を返せとはいわれませんように…。


「この子はすでに国が認めた未来の魔術師です。四属性を持っている時点で、ここにいる名ばかりの魔術師よりも価値はあります。平民も関係ありません」

「ですが、」

「わかりませんか?貴方より、価値があると言っているのですよ」


貴方を強調する言葉と圧のある笑顔に、ひゅっとジュリ達受験者たちが青ざめた。周りの魔術師たちは慣れているのか、顔色も変えずに静観している。


「もうっ!最初の印象は良くしておきたいので、余計な事言わせないでくださいねっ」


師長が茶目っ気のある言い方で、フォローしてきたがもう遅いだろ…とこの場のほとんどの人は思ったに違いない。


ジュリは朦朧とする意識の中で、とりあえず強制送還は免れたようだと安堵して目を閉じた。





次に目を開けると、日はすっかり暮れていた。

王宮の一室なのかやけに広い部屋と大きなベッドに寝かされていたが、たまらず委縮してベッドから降りると、うろうろしながら窓の外を覗き込んだ。


すると遠目からでも見える銀髪の人物が通り過ぎていくのが見えた気がした。受験者の一人だった異国風の人を思い浮かべたが、瞬きをする間にその人物はもういなかった。


あれ?見間違い?


髪色しか見えなかったので別人の場合もあるが、何となく気になってしばらく窓を見ていたがもう人気はなかった。


そういえば、他の受験者はどうだったのかな


そう思っていると、扉が開いてカルロと魔術師長が入ってきた。


「もう身体は大丈夫なのか?」


そういえば不調だったのが嘘みたいに楽になっている。あれ本当になんだったんだろ?


「うん、もう平気。あの…ご迷惑をかけてすみませんでした」


カルロに返答し、師長に礼をとると、軽い感じでいいですよと笑顔を向けられた。


「試験はどうなったのでしょう?」

「そうですね、結論から言うと聖女に現時点で一番近いのは、セレイスター卿の娘、シェリア嬢でした。彼女は特待生として学院に入られる事でしょう」


あの金髪の人か


貴族なのに高慢な態度もとらずに話しかけてくれた、優しそうな人だった。


「君は途中で退出したので、判定不可となりました」

「そうですよね、ならもう聖女にはなれないんですね」

「いいえ?四属性を持っている方々は、誰でもまだ可能性はあります」

「え?」


カルロも初耳だったのか、不思議そうな顔をしながら一緒に話を聞いていた。


「そういう意味で、貴方たちの身柄は国が預かるのです。二次試験は言わば、候補者たちの能力査定と順位決めでしょうか。元々、何も学んでいない子供たちは自分の能力を開花しきれていませんし、その為にまず魔術を学ぶのです。貴方たちの未来に期待していますよ」


ジュリ達は顔を見合わせて、今一番聞きたいことを尋ねた。


「聖女とは何なのでしょうか?」

「そうですね…答える相手によって見方が変わる存在ですね。貴方たちからみてどんな想像を抱きますか?」

「私は建国神話に出てくる聖女を教えてもらったので、不可能を可能にするような絶大な魔力を持った魔術師に似たような存在でしょうか」

「俺は人々から崇め奉られるような存在ってのが少し信じられません。噂が一人歩きしているようにも、国はただ象徴的なものが欲しいようにも感じます」


ジュリは聖女に否定的な意見を平気でいうカルロにびっくりした。けれど師長は特に気にした様子もなく、少し思案した。


「僕は実際に聖女を見たことはありませんが、扉を開くものというイメージがあります、四つの属性のその先にあるもの…」


四つの属性のその先…?


「あーあと、絶大な魔力はわかりませんが、この国の魔術師の一番上は、今の所僕なのですよ」


ふふっと自分を指さして笑う師長は、偉い人だと思ったが、かなり位の高い人物だったらしい。


「なら、貴方も聖女になれる可能性があるのですか?」


カルロの質問にジュリもあっと思った。国一番の魔術師なのだから、その可能性が一番高いのではないだろうか。


「確かに僕も四属性ですが、その可能性はありません」

「なぜ?」


その質問には、師長は笑顔で答えなかった。話せないという事だろうか。

そしてジュリが倒れた理由も、まだ確証がないのでと話してくれなかった。けれど、病気ではないので安心して欲しいと言われた。そして、魔力の循環も控えるようにと。


最後に、ジュリは何となく気になっていることを聞いてみた。


「私は魔力が低いと言われました。魔術師として学ぶにしても、やっていけるのでしょうか」

「先ほどの方の言い分が気になりますか?あの年齢でまだ相応の精霊と契約できない方の言葉なんて聞くに値しないと思いますが…」


言ってる意味はよくわからないが、さらっと毒をはいているのはわかる。


「僕は確証のない言葉を口にするのは好きではないので、大丈夫とは言いませんが、貴方次第なのではないかと思います。才能のある者は大好きですが、どんなに能力が劣っていても、努力するものを卑下したりはしません。反対に努力を怠り、慢心するものは嫌いです。僕も教える側の人間になるので、過度に擁護や干渉はしませんが、貴方が諦めない限り、決して見捨てたりはしないと約束しましょう」


その言葉に一瞬寒気を感じるが、少しほっとすると師長はまだ仕事があるのでと部屋を出て行った。


「あいつ、胡散臭くね?」


師長が出て行ったと同時にカルロが、ジュリに話しかけてきた。


「でも嘘は言ってなかったようだよ。言えない事は話せないって言ってくれてたし」


自分たちのような子供にいくらでも誤魔化しようはできたと思うが、彼はとても誠実に対応してくれたと思う。嘘をつけば、信用はされなくなると知ってる人だ。しかしカルロはまだ疑心暗鬼の様な顔を崩さなかった。


「でもあの人の表情はよくわからなくて怖いってのはあるかな」

「わからない?ずっと笑顔で話してたじゃないか」


確かに笑顔だったけれど、あれはジュリの無表情と同じような張り付けた表情に似ていた。無理して笑っているというようなものではなかったが、本来の顔色を隠すためと言った方が近いかもしれない。


「だけど、悪い人じゃないってのはわかる。嘘をついて騙そうとする人はもっと親切そうな顔をするから」


ベッドに寝転びながら話していると、少し眠気がやってきて、ジュリはうつらうつらしながら会話を続けた。


「へえー…俺の事も最初はそんな風に警戒してた?」


カルロと最初にあった時の事を思い出しながら、最近色んなことがありすぎて、チビと言われたのが随分昔のように感じた。


「ううん、思わなかった」

「まじ?」

「カルロは…最初から、とてもわかりやすかったから…」


そこまで言うと、眠さに限界を感じて、瞼の重みに抗えなかった。心地よいまどろみの中で、カルロがおいと突っ込んでいるのが聞こえた。

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