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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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大人禁止区域

ジュリは騎士二人、精霊二人と暗い校舎内を進んでいく。


「カイルやアルスも変な扉開けてここに来たの?ディアスは?」

「いや、教室の扉の側で女性が泣いていて声をかけたんだが…」

「そのまま押されて、三人で廊下に放り出されたらここだったんだよ。そういえばディアスいないな?」


どうやら霧の校舎への入り口は他にもあるようだ。ふうんと聞いていると、カイルが何か聞きたそうにちらちらとこちらを見ていた。


「僕はその、何か口走らなかっただろうか?ちょっと記憶が曖昧で」


少し顔を赤らめて顔を伏せるのを見て、あの泣いていた時の事かなと思った。アルスも何のこと?と不思議そうな顔をしている。


「私も必死だったから、忘れちゃった」


カイルが少し驚いた顔を見せて、ジュリの思惑に気づいたようだった。カイルもアルスが居る前で、自分の失態を話されるのは嫌だろう。こういう気遣いはカイルに教えてもらった。


彼は何も言わずに、優しく笑ってくれた。


「ジュリ、止まって」


シグナがジュリの前に庇うように出て、誰かいると言った。確かによく聞くと前方から足音がしてくる。騎士二人がさらに前に進み出て剣を構える。


ゆっくり歩み出てきたのは、ディアスだった。


「おまっ何一人で迷子になってんだよ」

「気づいたら霧の中に一人でいたんだ。迷子になった覚えはない」


ジュリは自分達もそうだったよと言うと、アルスは詰め寄るのをやめた。自身もおかしくなってた自覚はあるらしい。


「ディアスはどうやってあの霧を潜り抜けてきたの?変な幻を見なかった?」

「幻かはわからないが知り合いと会った。少し話をしたら霧は消えた」


ジュリは不思議そうに首を傾げる。霧の攻略法があるってことかな?自分はどっちかというと、精霊の力で強制的に消したが、もしかして正攻法じゃなかったのかもしれない。


しばらく進むと階段が見えたので、職員室をそんなに上階には作らないだろうと思い、下に続く階段を選んだ。


「あっ」


階段の上から見えたのはセツを背負ったカルロとライだった。二人の名を呼ぶと気付いてくれたようで、こちらに合流してくれた。


「よかったーカルロ達は無事だったんだね」

「何が?」


あれ?っと思って大変だった上階での事を話すと、カルロ達は顔を見合わせて頭を振った。


「俺たちはそんな霧は見てないぞ。この階は殆ど周ったと思うけど」

「上の階だけだったのでしょうか?まあ、厄介そうですから出会わずに幸運でしたね」


そして後は少し離れた教室の一角を探すのみだそうだ。よし、一緒に探そうとしたらジュリの精霊たちが何か警戒するかのように、ジュリを後ろに隠した。


「えっどうしたの?」


二人はじっとカルロ達の方を見ながら、何かを怪しんでいる様子だった。なのでカルロの間に、騎士たちを挟んでその後にジュリが続く形となった。なんなの?


先に進むライたちが教室の扉を開けると、そこは霧はなかったが、ただの教室でもなかった。


「わあ…」


一面の白い花が咲き乱れた花畑に、星が輝いている夜空が広がっていた。そこにぽつんと教卓のようなものがあって、とても不釣り合いに見えた。


「教卓の近くに誰かいますね」


皆が近づいていくと、教卓にいた二人組はこちらを振り向いた。


「カレンとミカ!?」


ミカはともかくなんでカレンがと思ったら、セツとはぐれて階段を下りたらなぜかこの校舎にいたとの事だった。


「二人とも変な霧に襲われなかった?」

「ああ…だがすぐに助けてもらって何ともない」

「助けてもらったって誰に?」

「ローザ様やシェリア様と今まで一緒にいてな。霧は彼女らを避けるように消えて…先ほど出て行ったはずだが、会わなかったか?」


会ってないよねとカイル達に聞くと頷かれた。しかし人によってなんでこうも違うんだろう?

ジュリが考えていると、ミカがなんでそんなに離れているの?と聞いてきた。ジュリは騎士や精霊を挟んで、ミカ達から大分離れていた。


「なんかシグナ達が止めるの。ねえ、二人とも何なの?」

「僕も聞きたいんだけど、なんで人間じゃないものがいるの?」

「えっ?」


皆の動きが一斉に止まって、自ずと周りの人間の顔を見比べる。カルロが一気に青ざめた。


「けれど、よくわからないんですよね。魔物じゃない、精霊とも違う。だから多分…人間ではないとしか」


ランも同調して話すので、気のせいではないのだろう。黙ってたのはよくわからなかったからか。ジュリはそれはどこにいるのと聞くと、シグナがある人物を指さした。


「…セツ?」


そうだ、最初に違和感を感じた。皆は知っていると言ってたけれど、今ならはっきりわかる。ジュリはこの女の子を知らない。


少女はにこっと笑うと、カルロの背からすうっと消えた。


「消えた…?」


皆がぽかんとしている中で、精霊二人が警戒を解いたので、もう気配は完全に去ったのだろうと思った。


「あの少女が何だったのかは後で考えるとして、とりあえず出ましょうか。ここにはこれ以上、何もないようですし…」


ライが近くのカルロに話しかけたが、彼は固まったまま失神していた。




帰りはライがカルロを負ぶって、ミカはジュリと手を繋いで出口に向かった。まずは騎士が先頭にたって扉を開けて進んだ。


ジュリ達も後に続いて廊下に出た、と思ったのだが。


「あれ?」


いつの間にか中庭の外れにある、小さな温室にいた。ここは貴重な薬草などがあるようで、普段は生徒が入れないようになっている。


カイル達もいて、何が起ったのかと言うような顔をしていた。


「やあ、おかえりなさい。今回は大人数ですね」


師長とミハエル先生が優雅にお茶を飲んでいた。


「えっ?師長?何でここにいるんですか?霧の校舎は?」

「それは君達がクリアして来たんでしょう?入り口は無数にあるようですが、最後は絶対ここに出るんですよね」


はあ?


「わかりやすく説明して頂けますか?」


ライが笑顔で問いただすと、ミハエルは私は先ほど説明したからと師長に丸投げした。そういえば、ローザ達があの部屋を出たはずだから、先にここに辿り着いたのだろう。


「ええっとですね…貴方達は学院の七不思議を知っていますか?」

「七不思議?怖い話ですか?」


怖い話、に気絶しているカルロがびくっと反応した。ライが眉唾物でしょう一蹴したが、師長はふふっと笑って答えた。


「そうですね、僕も調べたんですが四つはデマでしたが、二つは実在しました。ひとつはよくわかりませんでしたね」


調べたんだ?


「その二つが今回の試験に関わっています。ひとつは職員室にある投函口のない投票箱、そして生徒が迷い込む霧の校舎。箱は確かにあるんですが、これは投票するためのものではなく、何年かに一度手紙が届くのです。霧の校舎への招待状がね」

「えっ!?」


この学院の歴史は古く、いつから始まったものかもわからないが、手紙が届くと毎年何人かの生徒が行方不明になるだと言う。


「まさかそんな危険な事を試験にしたのですか?」


熱血な真面目君のカイルは少し怒気は含めて問い詰めたが、師長はとんでもないと首を振った。


「安全は保障されています。帰ってこない生徒はいませんし、誰もが霧の校舎にいけるものではないようです。どうやって選ばれているかわからないのですが、わかっているのは大人は入れないという事です。霧の校舎の主は子供が好きなようですね」


子供が好き…


「そういえば、みんなが知っていると言った女の子が一緒にいました。けれどその子の事私はわからなかった。最後は精霊達に指摘されて消えましたが、関係ありますか?」

「そうですね…主はきっと子供の姿で貴方達について行ったのですね。友達だと思い込まされていたと言った方が正しいでしょうか。貴方は偽りを見破る火の精霊と契約していたから、耐性があったのかもしれません」


ただ今でも霧の校舎の主の目的はよくわからないと言う。何のために生徒を呼び寄せるのか、寂しいのか、それともあの綺麗な花畑を見せたいのか。


「けれど霧の幻は危険なものだと思いました。ただ人によって個人差があるのがよくわからないんですけど」


ディアスのように普通に潜り抜けた人間もいれば、カイル達のように幻に囚われた人もいた。


ジュリがそう言うと、師長は面白そうに口に手を当てた。


「霧の中では向き合わなければならない相手、伝えなければならない強い想いを抱いている相手と出会えるそうですよ?それがたとえ死者だとしても。貴方は誰と会いましたか?」


皆ははっとして、自分が見た霧の中の幻を思い出していたようだった。反対に霧がローザ達を避けていたというのは、向き合わなければならない相手とちゃんと向き合ってる人間の証拠かもしれない。


ディアスもちゃんと相手と向き合ったから、霧は消えたって事かな?


ライ達は最初から主と一緒だったという事だ。霧を見てないのは、見捨てないでずっと負ぶってくれてたカルロ達に感謝してたのかなあなんて思った。


ジュリが会ったのは全く知らない少女だったはずだ。けれど…?


「これを試験にしたのは、ちゃんと意味があるのですよ」


師長は決して手紙が来たから丁度良いと思ったわけではなくと、言い訳を付け足していた。


…ほんとかなぁ


「霧の校舎の主は先見の明があるのですよ。あそこに招待された人間は、将来優秀な騎士や偉大な魔術師になっています。貴方たちの未来が楽しみですね」


それを聞いて、ジュリ達の表情は少しだけ明るくなった。

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