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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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霧の校舎

それは唐突な担任の言葉から始まった。


「明日から探求祭が始まります」


クラス全員何言ってるんだという顔で、担任の顔を見つめた。


説明が書かれた紙が配られ、それを読んでいくと【霧の校舎】で職員室を目指す事。チームを組んで協力しても可。1・2年、3・4年合同と書いてある。


「昇級試験も含まれているので頑張ってくださいね」


それ面倒だから一緒にしたとかじゃないよね!?


ジュリはそんな事を思いながら、近くのカレンと話をするために、くるりと後ろを向いた。


「ねえこの霧の校舎って何?」

「私も知らない」


周りをみても知っている人はいないようだった。どういう事?


「自分で探し当てろって事じゃないか?」

「何のヒントもないのに?校舎ってここ以外ないよね?」


地図を見ても校舎の他には大きな建物は寮くらいだった。


「寮が入口ってのは流石にないでしょう。男女分かれているのですから平等ではない」

「誰でも入れて、見つける事の出来る場所か。それでも途方もないな」


みんなでざわざわしながら、今日の授業は終わった。




次の日、ジュリ達四人の他にもう一人チームに加わりたいという人物がいた。


「ジュリ!」


嬉しそうに引っ付いてくる男の子は一年生のミカだった。


そっか、一年生と合同だったね


カルロが少し嫌そうな顔をしたが、特に誰も反対しなかったのでジュリ達は五人で挑むことになる。周りを見ても、各々自然とチームが出来ている様だった。


「あの…」


声をかけられて振り向くと、大人しそうな女の子が何か言いたそうにしていた。


「私ひとりなので…良かったら混ぜてもらえませんか?」

「えっと…?」


見知らぬような顔だったので、一年生かなと思ったらカレンがクラスメイトだと言った。


「官僚コースの女子だな」

「ああそういえば、見覚えがあるような?」


ライも同調したので、ジュリが覚えてなかっただけのようだ。クラスメイトの顔は何となく覚えていたと思うのだが…。


「セツとお呼びください。よろしくお願いします」

「よろしく」


にこっと笑った顔は何だか切なげだった。


そして教師による壇上挨拶のようなものが始まった。やる気なさげな生徒たちを見回して、ミハエル先生が、ふふっと笑った。


「今回の企画者はレヴィン先生です」


それを聞いた瞬間、一同からうげっという心の声が漏れた気がした。あの人の試練なんて絶対えぐいに決まっている。


「今回の合格者への祝福ですが、回復薬、惚れ薬、忘却薬から選べます。ミルゲイ先生のお手製なので効果はお墨付きですよ」


惚れ薬という単語が出てきたあたりで、周りの目の色が変わった。恋に生きる学生たちは、それで一気に活気づいたようだった。いつもながら恋愛イベントの多さよ…


「回復薬や惚れ薬はわかるけど、忘却薬ってそんなに貴重なものなの?」

「精神に作用する薬は作るのも難しいですし、材料も高価ですよ。それに忘れるという事は時に救いになる事もあります」


へえ…


そう思うと万能薬の一種なのかもしれないなと思った。回復薬さえまともに作れないジュリには、一生かかっても作れないのではないだろうか。


霧の校舎への探索が始まると、ジュリ達も何組かに分かれて探す事にした。そして集合時間と場所を決めておく。


「ジュリとミカは校舎下から。カルロとライは校庭全般。私とセツは校舎上から探す、集合時間は厳守だ」

「厳守なの?その時間までに間に合わなかったら?」

「その場合、残る二組でそいつらを探しに行く。消えたとしたらそこに入り口がある可能性が高いからな」


なるほど


みんなは了承して、一度解散した。




ミカは上機嫌でふふっと笑いながらジュリと歩いていた。


「久しぶりにジュリと二人きりは嬉しいな。学年が違うと意外と合う機会少ないよね」

「うーん、そうだね」

「ジュリは僕と一緒は嫌?」


上の空のジュリを見て少し悲しそうな顔をするミカに、違う違うと首を振った。


「私達の得意属性って水じゃない?何かあった時バランス悪いかなと思って」

「ジュリはもう他の精霊とも契約したんじゃないの?」


ジュリはそうだったと飾りの増えたペンダントを見ながら思ったが、同時にあれっと思った。


「どうしてミカが知っているの?森には一緒に行ってないよね?」

「休日にジュリをデートに誘おうと思ったらいなかったんだもん」


デートって…


「ねえ、私ミカにそんな好かれるような事した?会ってまだそんなに経ってないよね?」

「人を好きになるのにそんな大層な理由なんている?ジュリはまだまだお子様だね」


後輩にお子様って言われた!


小さなショックを受けていると、普通の職員室に着いた。扉を開けても今はイベント中だからか人気はない。


「やっぱりここじゃないよね」

「霧っていうくらいだから、そういう気配があるとまだわかるんだけどね」

「どうして?」

「霧って水蒸気でしょ?水に関係する事なら僕がわかる」


自分も水属性なのに全然わからないんだけど


何が違うんだろうと、ミカの手や顔をぺたぺた触っていると、嬉しそうに何なの?と聞いてきた。その時おいっと声をかけられて振り向いた。


「カルロ!ライ!なんでここにいるの?」

「校舎に比べて外は調べる場所が少ないですから。終わって手伝いに来たら、二匹の大きな猫がじゃれ合ってるように見えたので」


カルロがなんか怒っているように見えたので、えへへと笑っておく。さぼっていたわけではない。


「外は何もなかった。他の奴らもほとんど校舎に集まってるぜ」


じゃあ一緒にと言いだそうとすると、さらに見知った声が聞こえてきた。


「あの…」

「えっ!?セツ?カレンは…?」


彼女がひとりであらわれ、近くにカレンの姿はなかった。何でも上の階の方が人が多く、探している途中ではぐれてしまったらしい。なので集合場所である一階にやってきたというのだ。


「そうなんだ…まあカレンならひとりでも大丈夫かな。集合時間になったら会えるしね」


謝り倒すセツに大丈夫と念を押して、近くを手分けして探したがおかしな場所は見当たらなかった。


「だいたい霧の校舎って何なんだよ!適当すぎだろ!」


無駄に過ぎていく時間にカルロが切れた。ジュリも同じような気持ちだったので、心の中でそーだそーだと同調しておく。


「僕も聞いたことがないのでわからないのですが、師長が作ったものでしょうか」

「私は官僚コースなので文献をよく読むのですが、昔学院には旧校舎と新校舎があったようです。旧校舎で何か事故があって、その時に死んだ魔術師の亡霊が彷徨っているとか」

「は!?霧の校舎ってその旧校舎の事じゃねえよな?俺は魔物も貴族も怖くないが、幽霊だけは無理なんだよ」


青ざめたカルロに、ライがではとっておきの怖い話をしましょうと言い出した。やめてあげて。


「じゃあ地図にも載ってない旧校舎が存在している可能性があるの?」


さあと首を傾げるセツたちと、何度目かになる廊下を歩き続けた。すると後ろからきゃっと声がしたと思ったら、セツが転けていた。足を捻ったのか痛そうにしている。


「大丈夫?」

「すみません、先に行ってください…」

「おいおい、何もないとこで転ぶのはジュリだけにしとけよ」

「カルロ、なんか言った?」


そう言いながら、おぶされと言う動作をした。カルロはなんだかんだ言っても、人を見捨てない。すみませんと俯きながらセツはカルロの背に手を置いた。


じゃあ進むかと前を見ると窓際になぜか扉が見えた。窓の外を見ても、続く道などないのに不自然な扉がある。


「ここさっきも通ったけど、こんな扉なかったよね…?」


何が条件で出て来たのか。人数?それとも旧校舎の話をしたから?


気味の悪さを感じながら、ジュリ達は扉に手をかけてゆっくりと引いた。

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