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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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体術訓練

「おはよう、カルロ」


朝教室で挨拶すると、カルロはおはよと普通に接してくれた。あれからお互いの距離感は元に戻った。


そんな二人の様子に、カレンやライは気付いていただろうが、何も言わず聞かないでくれた。これはジュリとカルロの二人の問題であるのがわかっているから、本人たちが言わない限りこれからも聞いてこないだろう。


ただカレンは挙動不審のカルロが面白かったのか、元に戻ってつまらんと言っていたそうだ。


「今日は体術訓練だね。身体動かすの好きだからちょっと楽しみ」

「着替えるのが面倒だな」


訓練所には行った事はあるが、授業では騎士コースの者たち以外は初めてだった。


「今年の術技大会までには、少しでも強くなっておきたいしね」


目標はアーシャ様だ。足元にも及ばないのはわかっているが、夢は大きく持っててもいいだろう。ぐっとジュリが拳を握りしめていると、周りの三人がぽかんとした表情でこちらを見ていた。


「今年は術技大会ありませんよ?二年に一度の催しですから」

「…えっ!?そうなの?」


なんと今年は術技大会がないらしい。


「一応昇格イベントはあるみたいだけど、直前までわからないらしい。事前に対策されるのを防ぐためか知らないが」


ええ…?


「過去は音楽祭、狩猟祭など企画担当の先生にもよるみたいですね。まあ術技大会も同じようなものですし…」

「祭りがつけば何でもいいって感じだな」


カルロの突っ込みに、ジュリも無言で同調して頷いていた。




訓練所に集合すると、男女二人の若い先生が待ち構えていた。二年生は簡単な護身術から始めるといわれた。今年の初めにカルロと誘拐されそうになったのを思い出して、確かに必要かもと思った。


手本を見せてもらって、片方が襲う役と技をかける役に分かれる。ジュリはカレンと組んで、隅の方へやってきた。


「さあ、やるぞ」

「えっいきなりやるって言われても…!?どう…」


周りを見回すと意外にも、皆出来ているようだった。


ええ!?貴族の令嬢も多いのに、なんでそんなに簡単に習得してるの!?


そんな事を考えていると、カレンに投げ飛ばされてジュリは宙を舞った。


あ 空きれい


もちろん天井しか見えないが。背中の痛みを覚悟したが、叩きつけられても訓練所の床はなぜか痛くなかった。歩いている時は普通の床だと思っていたが、何か特殊な加工をされてるのかもしれない。


「うう…カレンは何で見てすぐに出来るの?」


しかも躱すだけでなく、大技が決まって投げ飛ばされた。


「護身術は必須科目だったからな」


どうやら貴族の教育の中には護身術もあるらしい。周りの令嬢達が難なくこなしているのも納得だった。ジュリはわかりやすくやり方を教えて欲しいと言ったが、カレンの説明はよくわからなかった。


「だから手を掴んでくっと引っ張って、ひゅっと投げてだな…」


手を掴んでからわからないよ…


反対側ではカルロとライが組んでいたが、ライは流石に上手で軽く往なしたり、わざと受けたりしていた。それが気に入らないのかカルロがむきになって、突撃している。


「ねえライ、何かコツはあるの?」

「え?何か特別な事が要りますか?」


あ ダメだ


ジュリのいつものメンバーは全滅だったので、他の人に聞く事にした。


少し離れた所で、もう終わって暇そうにしている三人組の騎士を見つけて近づいた。ジュリに気づいたその内の一人が、ひらひらと手を振ってきた。


「ジュリちゃん?どしたの?」


アルスが気安い態度で話しかけてきたので、ちょっと説明をするとなるほどと言って、横の赤髪の少年を指さした。


「体術ならディアスが上手いよ。教えてもらえば?」


ディアスはものすごく困った顔をしながら、首を必死に振っていた。無表情が多い彼の、こんな顔は初めて見る。


「無理だ。力加減がわからない」

「あ~お前は小動物とか触れないもんな。力加減がわからなくて怖いって」


私小動物!?そりゃチビだけど!


「じゃあカイルかな、教え方は丁寧だと思うけど」

「女性に気軽に触れるわけがないだろ」


これだよとアルスは疲れたような顔をしながら、ジュリの肩に手を置いた。


「じゃあいいの?僕が触っちゃよ?それはもう必要なくてもべたべたと」


同時にディアスに頭を叩かれ、カイルにはゴミを見るような冷たい目線を受けていた。


この三人っていつもこんな面白い事してるの?


貴族らしくはないが、仲が良くて微笑ましい。


結局カイルが最低限触る事になったが、決して不埒な事はしないと誓われた。重すぎるんですけど。



カイルの説明は先生たちよりもわかりやすかった。わかりにくい所はアルスやディアスと模擬演習を見せてくれて、出来るだけ触らないようにしているのも面白い。


「ありがとうございます、カイル様。何だか上手くなったような気がします」

「疲れてない?君は頑張り屋だね。令嬢は運動を嫌がる方が多いのに」

「私は令嬢じゃないですから」


汗をかきながら笑うと、けど僕が休憩したいからと言われて、近くで一緒に座った。ずっと立ちっぱなしだったので足ががくがくしてたのに気づかれていたのかもしれない。


私の事気遣ってくれたのかな?カイル様は多分疲れてないよね?


相手に対する気遣いが紳士的で、ちょっと感動した。


少し離れて座っているアルスやディアスが見えたので、お礼を言っておく。


「二人ともありがとうー!上達したよー」


二人が手を振ってくれたので、ジュリも手を振り返しておくと、横のカイルは不思議そうな顔をした。


「アルスは知ってたけど、ディアスともいつの間に打ち解けたの?」


仮面舞踏会での話をすると、少し考える仕草をした後にカイルが口を開いた。


「なら僕にも二人と同じように、は無理かな?一人だけ敬語使われると寂しいな」

「…えっ?」


学院内の貴族にも序列というものは存在する。特に侯爵の位はジュリのクラスでもシェリアとカイルを含めても数えるくらいしかいない。それだけ貴重な上位の貴族という事だ。


初期のローザの身分に対する厳しさを見ても、貴族内でも相応の態度が求められるのがわかる。反対に下の身分の者に気安く付き合うのは、舐められる要因にもなる気がした。そして、馴れ馴れしい態度は周りからの反発を生む。この場合下の身分のジュリは周りから妬みを買う可能性がある。


シェリア様はそこら辺ちゃんと弁えてる感じなんだよね


だから彼女は一線を越えない。自分にも相手にも利点はない事を知っているから。


関係性からもアルスとディアスだから、カイルと対等に話せているとも言える。うーんと悩んでいると、彼がダメだろうかと悲しそうな顔で聞いてくる。そんな顔しないで!


「父の爵位で相手に(へりくだ)られても、それは友達とは言えないだろう?」


彼は本当にそれだけの意味合いでしかないだろう。誠実で優しい人間なのがわかる。そうやって真っすぐに育ててくれた両親に感謝するべきだとも思う。ただお坊ちゃまなんだなあって。


どんなに民を思う領主も、民の暮らしの本当の苦しさはわからない。経験したことがないから。それと同じなのだろう。そして彼が騎士だという事も大きいのかもしれない。


この人は最初から身分関係なく、女子供を守ってくれてたもんね…


カイルはとても好青年で、ジュリも出来るだけ仲良くなりたいと思うのが本音だった。


「わかった。場合にもよるけど、出来るだけアルス達と同じように接するね」

「ありがとう」


ぱあっと笑ってくれたカイルに、ぶんぶん振りまわすしっぽが見えた気がした。

それが少し可愛く思えて、男の子に可愛いは失礼かなと口には出さなかったが、異性にそう思ったのは初めてだなともジュリは思った。

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