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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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ローザの恋

「見てみて!ディオだよ~」


ジュリが嬉しそうに芽に変化したバッジを見せると、カルロが機嫌の悪そうな顔で睨んだ。


「もー何度も聞いたわ!」

「まあまあ、ジュリも嬉しいんだろ。いいじゃないか、クラスでまだ数人しかいないんだから」


昇級試験で学年一位のシェリアを筆頭に、何人かはひっそりと階級を上げていた。けれどそこまで多くはなく、ジュリは早い方だと言える。


「卒業までには、もうひとつ上の葉の形であるトリアが必須らしいですよ。まあ、あと二年以上はありますから」


ライがのほほんと話していると、師長が入ってきた。


あれ?今日は魔術の授業じゃないよね?


普通の歴史の座学だったはずだと、時間割を確認する。


「はい、席について下さいねー?この時間の担当の先生が都合で来れなくなりました。なので臨時的に僕が預かります」


今日は何をするのかなと魔術の教科書を出していると、今日は教科書はいらないですと言われた。


「今日はせっかくなので、健康診断をしましょう」


ん?とクラス全体が不思議そうな顔をした。実は健康診断は毎年行われている。ここに通う子供たちは殆ど貴族なので、皆が一斉に並んだりすることはない。主治医たちが各部屋にやってきてそれぞれの体調管理を任されている事が多い。


「ああ、言い間違えました。詳しく言えば魔力診断です。なので衣服を脱ぐ必要はありませんよ」


女生徒のざわざわした声に反応したのか、師長は言い直した。


魔力の診断…?


何となく、聖女試験を思い出してジュリは不安になった。


「難しい事ではないですよ、簡単に魔力の通りや現在の魔力量などを見るだけです。入学式に配られた時計を持ってきてくださいね」


師長のやる事に疑問しか持てない生徒たちは、同じく不安げな表情で従っていた。


個別でするらしく、皆順番まで暇なので周りと雑談をしている。ジュリは懐中時計を探してごそごそしていた。


「あった…えっ!?」


普段使わない為、鞄の奥底に入り込んでいたらしい。それをパカッと開くと、ジュリはびっくりした。針が2の位置に動いている。あんなにピクリとも動かったかったのに。


驚き顔のままカルロに向き直ると、カルロがびくっとした。


「増えてる…!」

「あ…?あぁ…減ったら大変だろ」


顔で喜びをうまく表現できないので、驚いたまま手をあげ下げすると、カレンに何かの儀式のようで怖いと言われた。


「だって全く動かないから、この時計壊れてるんじゃないかと思ってたんだもん!嬉しいよ」


他の人は順調に成長していってるのを見ると、ジュリだけ置いていかれてるような気がした。正直、人と違う事が怖いのは、村での過去を引きずっているのかもしれない。ずっと異端だと言われ続けて疎外されていたから、もうひとりぼっちは嫌だった。


「はあ?そんなん…」


カルロが何か言いかけると、ジュリの名前が呼ばれた。行ってくるねと皆に言って、師長の待つ別室の扉を開けた。


「失礼します」

「どうぞお掛けください」


机と椅子しかない小さな小部屋に、師長が笑顔で座っていた。椅子に座って真正面から向き合う形になった。


「何するんですか?」

「普通は契約精霊を見せてもらいます。それで個人の潜在的な魔力量などは大体わかりますね。元々の量が少ないと契約できる精霊もある程度制限されますから。ただ君達はまだ二年生なので…」


そう言って透明な水晶玉のようなものを見せられた。


「…何が見えますか?」


透明な水晶玉と思ったが、じっと見ていると何か小さな点のようなものが見えてきた


「青と赤の光?と、あと二つ白いものがチカチカ光ってます」


ふふっと笑って、師長が得意げに話し出した。


「これは僕の魔力で作ったもので、自分には四色の宝石に見えます。僕の魔力に近い程、よりはっきり見えるようですね」


えっ?と目を大きく広げて見ても、はっきり見えるのは青と赤の光だけだ。


「これってもしかして水属性と火属性ですか」

「そうですよ。精霊と契約するとその属性を扱いやすくなりますからね、光に見えるのはなかなか優秀です」


つまり他二つの属性はまだまだという事だ。光は見えても色はわからなかった。


「全色見えたのはまだ一人しかいません」


全色という事は聖女候補だ。ジュリ達のいつものメンバーはまだ呼ばれていないから、シェリアかローザのどちらかだろう。


シェリア様かな…?


何となくそう思いながら、今度は懐中時計を差し出した。


「魔力が多いと動きにくいでしょう」

「多いんですか?」

「少なくてもまだ2の位置から動かないのは、貴方だけですね」


それって落ちこぼれって可能性はなく…?


「正直魔力と言うものは、身体のどこに蓄積されているのかわからないんですよ。血のように目に見えるものではないので、はっきりした魔力量はわからない。しかも解体は医療魔術師しか出来ませんし、残念です」


…何が残念なの?


彼が医療魔術師でなくて良かったと思う。今の興味の対象が魔術関連から、人体に移るのはなんか怖い。それはそれで立派に医療魔術に貢献はするだろうけど。


火属性の召喚陣を作るのを手伝ってもらう約束をして、帰りにローザに声をかけるように言われた。


「ローザ様、呼んでましたよ」

「…わかりましたわ」


その後は、カルロ達の元に戻って何をしたかの問答をしていたら、いきなり大きな音が小部屋から響いた。何かを投げたような、ぶつけたような音だった。


「な…何っ?」


扉から強い足取りで出てきたのは、ローザだった。


シェリアやアルス達が宥めているように見えて、彼女は泣いているように見えた。何かあったのだろうか?


次に呼ばれたカルロが出てくる時に、懐中時計らしきものをローザの元に届けていた。もしかして投げつけたのは、それだったのかもしれない。


「これ、忘れ物だってさ」

「貴方、見ましたの?」

「見てねえよ」

「正直におっしゃってかまいませんのよ。私より平民の貴方の方が優秀だって!」


そう言って、受け取った懐中時計を再度投げつけた。ひゅっとジュリの側の壁に当たって、留め具がはずれたようだった。


ジュリが拾おうとしてびくっとした。彼女の針の位置が9を指していて、ほぼ一周に近い。


もしかして魔力量が少ない…?


確か少ないと使える魔術の幅が限られるんだっけ


ジュリは針が進まなくて悩んでいたが、ローザは進み過ぎて悩んでいたのだろう。カルロが危ないだろと泣きながら怒っているローザに食って掛かる。貴族とか関係なく、態度が変わらないカルロほんとすごい。


「あのさあ、優秀とかそういうのどうでもいいんだよ。泣くのは勝手だが、周りに当たり散らすのはやめろ」


生粋の貴族であるローザは、そんな物言いをされた事はないのだろう。ぽかんとして涙は引っ込んでいた。


「魔術師にとって魔力はとても権威に関わるものなのよ。これからの進路や貴族内の扱いだって…」

「そんなお貴族様の都合話されたってわからねえよ。泣き叫べば何か変わるのか?当たり散らせば解決するのか?」


カルロはこの懐中時計を見ていないようなので、彼女が何に嘆いているのかわからない。単純に物を投げて、周りに危険を及ぼした事を怒っているのだろう。


シンと静まった教室で、ローザが口を開いた。


「…そうね。貴方の言う通りですわね。貴族として不遜な態度だった事を詫びますわ」


殊勝な態度のローザにカルロの方が少し驚いた。


「貴方は平民にも貴族にも同じように接するのですね。魔力の低い者を、見下したりする気持ちはありませんの?」

「はあ?魔力がそいつの全てじゃないだろ?何も変わらねえよ」


ちらっとジュリを見ながら言われたので、ん?と思いながらカルロを見返した。その場はそれで何事もなかったように終わった。ように思われた。




それから何故かローザがカルロに突っかかってくるようになった。


「まあ、こんな初歩的な魔術も出来ませんの?」

「あああ、うるせえな!」


それを見ながら、カレンは恋だなと言ってライも桃色の空気が見えますと、笑っていた。


「ローザ嬢は伯爵だったか…。まあ宮廷魔術師になればなくはない縁だが…」

「でも婚約者がすでにいましたよね?」


それはジュリも思ったのでアルスに聞くと、僕は自由恋愛主義だと笑っていた。


「だってさ、良かったね」


やっと帰って来たカルロに話しかけると、何がだよと返された。


「え、だからローザ様と結婚できるかもしれないって事」

「はあ?なんでそうなるんだよ!?」

「ローザ様ってカルロの事好きじゃない?私ですら見ててわかるもの」

「なっ…」


良かったねと笑うと、カルロが爆発した。


「だから!俺が好きなのはお前なんだけど!」


カレンとライがあっという顔をして、ジュリも目を見開いた。そして言った本人が一番しまったという顔で固まっていた。

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