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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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厳正の精霊

ジュリは急いで起きて、避けようとしたがこれは間に合わない。ぐっと目を閉じて痛みに備えたが、触られる様子もなくて、目線をあげると男が震えていた。


伸ばした手をもう片方の手で押さえ、何かに抗っているように見える。目が合った涙を流す顔は、ちゃんと人間だった。


この人…


その時男が青い炎に包まれ、それに繋がっている植物も一緒に燃えた。


「えっ!?」


その炎は不思議と草木などには燃え広がらずに、男と植物だけを焼いていた。横に降り立った青い鳥を見ながら、ジュリは話しかけた。


「貴方が何かしたの…?」

「私が手を下したわけじゃない」


よくわからずに首を傾げると、最初に条件を提示しただろうと言われた。


「私の前で偽らない事。己の言葉だけでなく心も同様に。この男は自分の意に反する事を、私の前でした。お前もあのまま精霊に委ねて心を偽り続ければ、きっと焼かれていたのはお前だっただろう」


私がシグナに守られていた時の事を言っているのだろうか。確かにあの時、何もしない自分を歯がゆく思った。


「お前はあの男の望みは何だと思う?」

「…あの人は私を助けようとしてくれたよ。少しでも自我が残っているなら、きっともうこんな事したくなくて、泣いているんだと思う。解放してあげたい」


気配もなく、後ろから近付いてきた師長がゆっくりと言った。


「騎士団は皆、同じ志を掲げるのですよ。弱気を助け、最後まで己を盾にして、この国の為に戦うとね。女子供を手にかけるのは、彼の信念に反する事だったのでしょう」


火が消えて倒れたままの男に青い鳥は近づいて、何かを囁いたようだった。そして男が目を閉じると、もう一度大きな炎に包まれた。


「炎を受け入れれば、悪も善も等しく輪廻の輪に帰るだろう」


そして炎が収まると、もう植物も男の影すら何もなかった。


「あの花には巻き込んで悪いことをしたな。まあ度を過ぎて人間を狩っていたから仕方ないか…」


鳥が植物を庇うような発言に少しびっくりした。ジュリは騎士の人達が犠牲になったのに?と思うと、師長がこちらを見ながら笑いかけた。


「ここに生息しているものは、生きるために、自分の領域を守るために人間を襲うのです。私達も学院に侵入者が入れば攻撃します。それは悪い事だと思いますか?」


ここで生きる者たちにとってはジュリ達が侵入者だ。人間だけを優位に考えるのは、確かにおかしい。


「ジュリ」

「わっびっくりした」


シグナがいつの間にか近くにいて、ジュリに怪我がないかじろじろと見分していた。そして目を吊り上げながら怒られた。


「あんな無茶は二度としないで」

「でも私だって何かしたくて…」

「状況と自分の力量を考えて行動して。無謀と勇敢は違う」


はい、その通りです…


昔から説教モードのシグナに、口では絶対に勝てない。彼が心配してくれてるのもわかるから、結局ジュリが謝る羽目になる。


「ごめんなさい…」


やや顔を伏せながら謝罪すると、シグナは笑って抱きしめてくれた。


そしていいかと口を挟んできた青い鳥は、ジュリに向き合って話し出した。


「わかっただろう?私の炎は敵味方関係なく、愚かな選択をすれば焼き尽くすだろう。それでも契約を望むか?」


ジュリはじっと鳥を見て、シグナを一瞬見た後に頷いた。


「それは貴方が私が道を誤らないように、厳しく見てくれるって事だよね。それならお願いしたいかな。シグナは私には甘いんだもの」


シグナは少し顔を歪めた後に、師長の笑い声が聞こえた気がした。


鳥がすいっと頭を降ろし、ジュリに服従するような姿勢をとったと思ったら、手の中に青い羽が落ちてきた。それはジュリの手の中ですうっと消えたと思ったら、鳥の姿が人型に変化した。


「えっ!?」

「貴方は今、この方の魔力の一部を受け取ったでしょう?契約はこちらから差し出すだけでなく、相手から求められることもあります」


師長の説明を聞きながら、目の前の少年を凝視した。髪は薄い赤色で先の方が少しだけ青い、姿はシグナと同じくらいの年代の少年に見えた。彼は騎士のように跪いたままジュリに微笑みかけた。


「私は“厳正”を冠する炎の魔物、種族は(ラン)です。よろしくお願いします、ジュリ」

「え、よろしくお願いします…?」


いきなりの丁寧な言い回しに、少し驚いて狼狽してしまった。


「えっと貴方の事はなんで呼べばいいかな?」


ジュリが尋ねると、目の前の彼も不思議そうに首を傾げた。あれ?っと思って師長に助けを求める視線を送ると、シグナを一瞥して説明してくれた。


「今名乗ったでしょう?精霊は普通は種族の名前で、呼びますね。名前をつけることもない事もないですが…」

「えっと、じゃあ貴方の事はランと呼べばいいの?」


はいと頷かれて、そういうものなのかと思った。


あれ?シグナは何なんだろう?


シグナからそういう事は聞いたことないなと彼を見上げると、言いたいことが伝わったのか何も言わずに答えてくれた。


「僕の種は蛟。シグナって名前はジュリからもらったんだよ」

「えっ!?私が名付けたの!?」


全く覚えがない事実に驚くと、ふふっと笑われた。でもとてもいい慣れた名前だと思った。ずっと昔から知っていたような…。


思考をぶった切るように、師長が手をぱんっと鳴らした。


「では目的も果たせたことですし、暗くなる前に帰りましょうか!僕は疲れました」


師長そんなに疲れる事しましたか?


そしてさくさくと風の精霊を使って帰り支度を始める師長に、何か引っかかりを覚えてジュリは話しかけた。


「何か忘れてませんか?」

「そうですか?」


師長とお互いに少し考えながら無言でいると、シグナがあの口が悪いのは?と言ったところで、はっとした。


「あっ」


二人はジェイクの事を忘れていた。





帰りは師長の精霊に頼って、快適な空の旅をしていた。

ジュリの精霊たちは帰ってもらって、今はジュリとジェイクと師長の三人だけだった。あの後師長が何をしたのか、簡単にジェイクを見つけて合流した。もちろん置いて帰ろうとしてたとは言ってない。


「ジェイク先輩もありがとうございました。あの後何してたんですか?」

「あの鳥をまいてから、いい感じの魔獣を見つけたから狩ってた。素材は買うと高いんだよ、使わん部分も売れるし、いやー大量だったわ」


彼はもしかしてこの為に、ジュリの精霊探しについてきてくれたのでは…


「大丈夫でした?他の魔物に襲われたり…」

「魔物は襲うもんだろ?あーもしかして俺の特異体質の事?お前には話したんだっけ」


彼は精霊には嫌われるという事。それを知っているジュリは頷いた。するとがしっと掴まれて、ここだけの話というようにジェイクにしてはひっそりと話し出した。


「お礼ならさ、お前も協力しろよ。この剣についてはまだわからん事もあってな、俺はあと一年しかないんだ」

「一年…?あっ卒業まで…?」


彼は学院の最高学年だ。卒業してさらに二年学ぶ場があると聞いたが、それは学院ではないのだろう。


「兄貴が死んだのも四年生の年齢だった。正直この学年になんかあると思ってる。悪魔集会っていう変な噂もあるしな」

「悪魔…?」


前に話していた魔術を嫌悪する組織だろうか。魔術を学ぶこの学院に?


その時はよろしくと言いながら、ジェイクはその話題を打ち切った。後はマントの愚痴が始まったので師長の元に逃げ出した。


師長と無難に体調の話をした後は、ジュリと契約した精霊の話になった。


「鸞は鳳凰に連なる鳥です。強い力を持った魔物はそれだけ扱いも難しい。けれど従順な個性のようできっと貴方の力になってくれるでしょう」

「そんな高位の魔物が、何で私と契約してくれたんでしょうか」

「さあ…少なくても彼らは主と認めないと死んでも契約しません。何かしら貴方に契約する意義を見出したのでしょうね。気になるなら、直接聞いて下さい。彼は貴方の精霊なのだから」


そしてもうひとつ、行きがけに気になっていた質問の続きを聞いた。


「ああ、四属性の精霊を集めると起こる事ですか…。そうですね、僕は特に悪い事は起きませんでした。むしろ契約できる精霊が増えて良い事でしたね」


んん?これは本当にシグナが言っている事と同じなの?


困惑していると、師長がちょいちょいとバッジを指さした。


何の事?と自分のバッジを見ると、仄かな光を放っていることに気が付く。なんと種の形から芽に変化していた。


「えっ!?先生これって…!」


バッジを確認して、おめでとうございますと笑ってくれた。


「ディオですね。高位精霊と契約出来たのですから、当然でしょう。その力をどう伸ばすかは貴方次第です」


はいと頷きながら、やっと魔術師として目に見える成長が出来たようで、とても嬉しかった。

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