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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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火の試練

青い炎の鳥に追いかけられて、ジュリ達は逃げていた。


「何で!?何でいきなり怒り出したの…!?」


ジェイクが俺がいるからだろと答えてくれた。


「言ったろ?俺の精霊の力は邪道なんだよ。普通はお前の精霊のように嫌がって近寄って来ないけど、たま~にあんな風に怒り狂う奴がいるんだよな~。そういうのは同族を思っての事だろうから、真面目な奴なんだと思うぜ」


でもそれはジェイクのせいではないのに…。彼が非道な行いをする人間ではない事をジュリは知っているが、精霊たちにとっては解りようがない。


「ともかく二手に分かれよう。多分アイツの標的は俺だろうから、お前らは師長とさっさと合流しろ」


シグナはそれを聞いた瞬間、ジュリを抱えてその場を離れた。


距離を取ると、本当にこちらには来なかったようだ。ジュリを降ろすとシグナが警戒するように辺りを見回した。


「とりあえず師長を探さなきゃ…。あの人がいればジェイク先輩も助けてくれると思うから。そんなに離れてないと思うんだけど」

「あの変な魔術師?」


変な…


もう突っ込むのも面倒なので、そうだよと言うとシグナが周囲の木々よりも高い噴水のような水を出した。


「冷た…!何してるの!?」


高い位置から水が降って来るのを見ながら尋ねても、シグナは何も言わなかった。そして数秒たったくらいだろうか、草木をかき分けて出てきたのは師長だった。


「おや、目立つ目印をありがとうございます」


そっか、こちらを見つけてもらうためにシグナは水を出したんだ


ジェイクとはぐれた経緯などを簡単に話していると、師長の足元に黒い大きなものが目にとまった。


ん?と師長の足元をよく見ると、誰かしがみ付いている。師長はまるで何もないかのように話しかけてくるが、気になってしまってジュリから突っ込んだ。


「師長、足に…?誰ですか?」

「誰でしょうね?」


なにそれ?


「それより、先ほどの青い鳥とはあれですか?」


ぎょっと後ろを見ると、炎は纏ってなかったが確かにあの時の鳥が、ジュリの後ろの木にとまっていた。驚いてシグナの袖を掴むが、青い鳥は特に攻撃的な雰囲気ではなかった。


「あの、何か御用ですか?」


ジェイクを追って行ったのではなかったのだろうか。何故ジュリの方へやってきたのか不思議だった。


「お前が契約を申し込んだのだろう」


そうなのですか?と師長がきいたので、そうだったかもと返した。その後すぐに逃げる羽目になったので、まさかちゃんと話をしてくれるとは思わなかった。


ジェイク先輩が真面目な奴と言ってたけど、やっぱり当たってたのかな?


「契約してくれるんですか?」

「試練を受けてもらおう」


ジュリが試練とは、と聞き返そうとしたら、師長の足にしがみついていた男が助けて下さいと叫んだ。ジュリとシグナはびっくりして男を凝視し、師長は面倒くさそうな顔をした。


「条件はふたつ。ひとつはそうだな、その男の望みを叶える事。その際にそこの魔術師の助けは許さない。お前だけの力で解決しろ」


一斉に師長の足元の男に視線が集まる。


師長の助けはダメって事?シグナは私の力の一部って事なのかな


「もうひとつ、私の前で偽らない事」

「偽らない?何にですか?」


全てにおいてと言われて、ジュリは首を傾げた。今も特に嘘は言っていないが、青い鳥が満足するまでそれは続くのだろうか?よくわからなくて、先に必死にしがみ付いている男に話を聞く事にした。


「…僕はこの男の依頼は、受けるべきではないと思います。ここは精霊の森。魔術は使えませんよ」


師長がそう言うとジュリははっとして、水の魔術を使ってみようとしたが出なかった。ただシグナはいるので、魔力が使えないというわけではないんだろう。


「…ほんとだ」


青い鳥が口出しは許さないと言うと、師長はため息をついて黙った。シグナを見ると、自分が居るから大丈夫と言われるように微笑まれた。ジュリも頷いて、とりあえず男に説明を求める。


「僕は騎士団の第三部隊の…兵士でした。大きな植物に襲われて…仲間たちとはぐれて…彷徨っておりました。どうか彼らを…助けてもらえません…か」


えらくボロボロだが、鎧のような物が見えていたので、兵士というのは本当なのだろう。怯えているのか、話し方もちょっと流暢ではないというか、聞き取りにくい。


「新米の兵士だったのでしょう。自分の身も守れないなら、森の討伐に参加すべきではなかったと思いますよ。他の者の為に僕らを危険に晒しますか?」


しゅんとする兵士の男に、ジュリはそのはぐれた場所は遠いのか聞いてみた。


「いいえ…そんなには。場所も大体わかっております」


そして案内するかのように、ふらふらと歩きだした。


…なんか変だな


ジュリは師長に行くだけ行ってみてもよいか聞いてみると、僕は助けられませんよと了承してくれた。師長はこれから何が起るかわかっているのだろうか。


森の中を歩くと少し開けた場所に出た。大きな花を咲かせた植物のようなものの前で男は立ち止まった。


「ここ…?誰もいないようだけど」


ジュリがキョロキョロして周りを見ると、男がいきなり笑い出した。ひえっと言うと、シグナが後ろに庇ってくれるような姿勢をとった。


「何…!?どういう事?」


師長は特に驚いた様子もなく、けれど男から視線は外さない。男の背中からツルのようなものが伸びて、捕まえようとするのとシグナが防いでくれた。


青い鳥は何もせずにじっとジュリ達を見ている。


「魔術に関する事以外なら、口をだしても?」


師長が尋ねると、鳥は少しだけ首を傾けて頷いたように見えた。


「この森は人間を襲うと言ったのを覚えていますか?魔獣だけじゃなく、人を惑わせる植物なども存在します。鎧が古かったので最近の兵士ではないと分かっていたんですけどね。人間をおびき寄せる為に使われている、あれは死人でしょう」

「死人…!?でもさっきまで自分の部隊の話もしてたのに…?」

「生前の記憶があるのかはわかりませんが、ここに連れてこられたなら操られているのは確定でしょう」


ではあの人の望みって何なのだろう?なぜあの鳥はそんな条件を…?


シグナが反撃するように、男に水を叩きつけていた。腕や足を貫かれても、男は倒れない。まるで生ける屍のようだった。シグナはジュリに見せないように後ろに庇ってくれた。


「僕がどうにかするから。ジュリは見なくていいよ」

「シグナ…」


本当に、それでいいの?


ジュリは村でも嫌な事は見ないように、感じないように、目を閉じて通り過ぎるのを待っていた。それは自分がされている事だから、自分が我慢すればそれでいいと思っていた。けれどこれは自分がしている事だ。シグナに守られて、何も見ないで、知らない内に相手の命を奪いあう。


横を見ると師長はけして目をそらしていない。きっとジェイクがいてもそうだろう。相手の命の重みも自分の命の大切さも知っている人たちだから、目をそらさない。


シグナは自分の一部で、シグナがする事は自分が責任をとらなければいけない事だ。だから自分が目を背けて逃げていいわけない。


ジュリはシグナの陰から出て、男を直視した。シグナの驚いた声が聞こえた気がしたが、自分がしている事を真正面から見つめた。男は不規則な動きで、笑っていた。笑って泣いていた、まるで助けてくれと言っているかのように。


ジュリは顔が引きつるのを感じたが、どうすればいいのか必死で考えた。


シグナの水じゃ助ける事は難しいかもしれない…。


男をよく見ると、足の付け根から同じようなツルが伸びているのが見えた。それは大きな花をつけた植物に繋がっており、あれが本体だと気付いた。


ジュリは自分の鞄から、初期に作った回復薬を出した。薬学の先生にこれは毒だと散々言われたものだった。魔術が使えないのだから、道具に頼るしかない。


それを持ってシグナの側から飛び出して、走りながら花に向けて投げた。べちゃっと転ぶのと同時に薬はヒットして花が悶えるようにツルを揺らした。


効いた…?


「ジュリ!」


シグナの焦ったような声と同時に、男が近くに倒れているジュリに近づいて手を伸ばした。

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