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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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青い鳥

ジュリは森の上空から下を見下ろしていた。

シグナに抱えられながら。


「大丈夫?ジュリ」

「うん…でもジェイク先輩は…?」


爆風に煽られながら落ちていく最中、ペンダントに魔力を込めたようで、颯爽とあらわれたシグナに助けられた。当たり前だがそれはジュリだけで、ジェイクは一人で落ちてしまったようだ。


問いかけると、シグナは何を言っているかわからない、というような顔で言った。


「何かいた?」


せめて誰って言って…


騎士であるジェイクなら、爆風や木々をうまく使って死ぬことはないかもしれない。しかし怪我を負っている可能性が高い。


「私の先輩なの。どこに落ちたかわかる?」

「わからないって言ったら諦めてくれる?」


ジュリが首を振ると、シグナはため息をついた。


「…あそこら辺から、奇妙な気配がする」


爆発地点から少し離れた所を指さしたシグナに、どういう意味?と聞くと、嫌な感じと漠然とした答えしか返ってこなかった。


森に下りてみると、思った以上に暗い。木々が豊かと言えばそうだが、厚く覆われた草木が不気味に見えてくる。


思わずシグナにしがみ付く様に近寄ると、彼は一点をじっと見ていた。その方向をジュリも見ると、木に絡まったジェイクが逆さになって、こっちを睨んでいた。


「わっびっくりした!」

「びっくりしたのはこっちの台詞だ!いきなりお前だけむしり取りやがって。助けるならこっちも助けろよ」


がさがさと自力で降りてきたジェイクは、所々軽傷を負っていた。むしろ落ちてこの程度で済んだのは、運が良かったかもしれない。


「とりあえず手当しましょうか」

「お前の殺人薬はいらないからな?」


多分レイリを失神させた回復薬の事を言っているだろう。あれは悪かったと思っている。むっとした顔で医療魔術を学んだので、手当の知識があるというと治療させてくれた。


その間なぜかシグナが少し離れた所からこちらを見ていた。


「シグナどうしたの?」

「そいつに近寄りたくない」


またシグナの人嫌いかなと思ったが、何となくいつもと違う様子だった。


「もういいぜ。俺は近寄らねえから安心しろよ」


不思議そうにジュリが首を傾げると、俺は精霊に嫌われるんだよとジェイクが笑った。


「嫌われる?」

「そ。だから契約してる精霊もいないし、これからもする事もないだろうな」


ジュリのクラスの騎士達は、精霊と契約はしていたはずだ。ジェイクみたいにしないという選択はできるものなのだろうか。


「んーとな、精霊との契約って何個かあってな。普通に契約するのと、譲渡だっけ?なんか他の人間に引き継ぐ方法」


高位精霊の引き継ぎは、確かアルス達が言ってた気がする。ジュリは頷きながら話の続きに耳を傾けた。


「後は憑依、主従契約。これは俺もよく知らんが、普通の契約より強い縛りがあるみたいだな」


それも師長が言ってたような


「そして寄生、改造での契約。俺がこれになるんだが、まあ邪道になるんだと」

「え?さっき契約している精霊はいないって…?」


訳が分からず尋ねると、ジェイクはああと頭をかいた。どう話そうか考えあぐねているように見える。


「俺も全部理解してるわけじゃないんだが、寄生型ってのは精霊の力の源みたいなもんを取り出して、別の物に移し替える技術だそうだ。そこに精霊の意志も自我もない、ただ適合者が触れると勝手に契約して解除はできなくなる。そいつが死ぬまで」

「何それ…何でそんな事!?」


俺が知るかとジェイクは、自身の剣を抜いた。少し赤みを帯びた大剣で、手入れの行き届いた様子から大切にされているのがわかる。


「それがこれな。これは俺の兄貴が使ってたもんでな」

「お兄さんがいるんですか?」

「血が繋がってるわけじゃなく…お前貧民街って知ってるか?」


ジュリは貧しい平民の娘だったが、それよりも下がいるのは知っていた。奴隷制度は何十年も前に廃止されたが、それに似たような境遇の子供達は未だにいた。子供の売買は認められず、奉公に出る年齢まで育てられない家庭は子供を捨てるのだ。


運よく生き延びた子供のほとんどは貧民街に集まり、そこでひとつの家族形成を作っていた。みな家族となり生き延びるために協力し、大きくなった子供は稼ぎに出て小さな子供を養ったりしているらしい。


「そこですげえ有能な兄貴がいてな、兵士候補として王都に呼ばれたんだ。魔力もあり学院で剣技を学んだりもしてたんだってさ」


不器用だったが、頼りになる優しい人だったと懐かしそうに語った。


「けれどある日、この剣だけが返って来て兄貴は死んだと言われた。金になりそうな剣が返って来たのは、誰にも抜けなかったかららしい」


それはなぜかジェイクには抜けて、適合者になってしまった。そして彼は納得できずに、その力を使って学院に殴り込みに行った。


「結果はあの師長にボコボコにされたんだが、入学を条件に真相を調べてくれた。なんでこんな剣を持ってたかも意味がわからなかったしな…まあ少しは分かった事もあったから、ここに来たのは無駄じゃなかった。金も稼げるしな」


少しだけ悲しそうにそれ以上言わないのを見ると、あまり良い理由じゃなかったのかもしれない。学院は平民にはあまり居心地のいい場所ではないのをジュリも知っていた。


「何で話してくれたんですか?」

「別に隠してねえしな。それに俺は少なくても後ろめたい生き方はしていない」


そう言った年上の騎士がとても眩しく見えた。その自信は彼を象徴するかのように、生き様にあらわれていると思う。


「ねえ、もういい?ジュリの目的は精霊との契約でしょ?さっさと終わらせて出ようよ」


二人の会話をぶった切ったのはシグナだった。そして前方に魔物が居ると教えてくれた。


「シグナも協力してくれるんだ?」

「僕は契約にはまだ賛成できない気持ちはあるけど、ジュリを守る精霊を増やす必要性はあるかもしれない。ここは村と違って危険すぎる」


確かに爆破事件やら魔術の授業もそうだけど、色々あった一年だったなあとは思う。ジェイクが先導して草木を分けていくと、岩に一羽の大きな青い鳥が佇んでいた。


「あれか?あんま強そうじゃねーな」

「ほんとだ、でも綺麗だね」


大人しそうな様子で、魔物と言われないと普通に鳥にも見える。ジュリは少しだけ安心して、息を吐いた。


「精霊ってその属性がないと見えないんだと思ってたけど、ジェイク先輩にも見えるんですね」

「あれは魔物だからな。契約しないと精霊とは言わないだろ?まあ見える見えないは契約者の魔力で顕現するんだから、普通は見える。現に俺はお前の精霊が見えてるだろ?」


ふむ?じゃあ以前師長は、わざと見せないようにしてたって事かな?まあ見せない方が魔闘なんかじゃ有利だよね


「…あの鳥強いね。火属性だから僕の方が有利だけど、戦ってみる?」

「待って待って!なんでそう血の気多いの!?」


僕は人間じゃないから血は出ないと真顔で反論するシグナをスルーして、ジュリが行ってみる事にした。二人に任せたらいきなりバトルをしそうだ。


草木をわけて出てきたジュリを青い鳥はじっと見ていた。


「あの、こんにちは。私精霊を探してて…」


言葉が通じているのかもわからず、青い鳥は微動だにしない。しかし逃げたりもしないのを見ると、普通の鳥と違うのは明らかだった。


「人間か」


ひえっしゃべった


少し後ずさりしたジュリの背中に、何か当たったと思ったらシグナがいた。横にはジェイクもいるようだった。


「弱みを見せたらダメ。下がらないで」

「そうそう、野生生物は見下したら一気に襲ってくるぞ」


後ろの二人が話した途端に、鳥の姿が青い炎を纏って臨戦態勢をとった。


「禁を犯した人間め」

「えっいきなり何!?」


ジェイクはあ~もしかして俺?と言って、シグナに睨まれていた。

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