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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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医療魔術

ジュリは時間割を見ながら、午前中の授業の確認をしていた。一年と違って二年は少しだけ授業内容が複雑になっている。


「ねえ魔術(医)って何?」


カレンが目を輝かせながら、医療魔術の授業だと答えてくれた。


「医療?魔術って傷を治したりできるんだっけ?そういえば師長がしてたような?」


以前爆破事件で、師長が怪我人を一斉に癒したのを思い出した。でもあれは、師長の魔術と言うより精霊の魔法に近いのではないだろうか。


一瞬だったからよくわかんなかったけど、あれがそうなのかな?


医師の母に憧れて、薬師を目指しているカレンは大いに興味がある分野らしく、始まる前からうきうきしている様だった。


「先生は誰なのかな」

「魔術に関するものは師長のはずだが」


魔術は専門分野に細々と分かれており、それぞれの教師に教わるものだが、各学年で教師を共有しているために人員が足りない。その為にどの分野でも応用の利く魔術師は、師長も含めて重宝されているようだった。


「でもあの三つ編み、繊細な治療は苦手とか言ってたぞ…」

「えっ?そんな事いつ言ってたの?」


カルロの言葉にジュリが不思議に思って問うと、ああそうか、お前覚えてないんだなと言われた。


よくわからずに首を傾げていると、教師らしき人物が入ってきた。師長ではない。


「こんにちは!医療魔術を担当するティアです。よろしくねっ」


元気よく挨拶してくれた教師は、この間会った女性だった。流石に今日はローブを着ているので教師だとわかる。


「あっ」


ティアが何かに気づいたようにジュリを指さして、見られたこっちはびくっと反応してしまった。


「や~この間はごめんね~?頬にキスをするのが挨拶の国があってね?直前までそこにいたものだから、この国ではそんなものないって忘れてたんだよ。教職員室で怒られちゃってさあ」


ジュリはクラス中に注目されながら、なははと笑う女性に話しかけられて、心の中でもういいから!はやく授業に移ってえと叫んだ。


カルロはお前また何したんだ?という目でこちらを見ていた。


何もしてない。されたけど


「本当は宮廷魔術師の偉い人?が教えてるはずだったんだけど、専門の教師が帰って来たなら任せますって逃げたっぽいんだよね」


逃げた?今逃げたって言ったよね?


多分師長の事だろうが、そんなに医療魔術は苦手なのだろうか。


「まあ教える事は同じだから、今日は医療魔術とは何なのかってのを学んでいってね。じゃーそこの君!医療魔術ってどんなイメージ持ってる?」


カルロが当てられて、少しだけ考えるような顔をした。


「え…傷を癒したり、病気を治したり…」


うんそうだねと、半分は当たりだよと言ってくれた。


「私達医療魔術師は、確かに傷を癒したり病気を治す事ができる。けれど傷を治すには人体の構造を学ばなければ、病気の原因が特定できなければ、その術式は構成できない。薬草や手術などで民間でも治せない病は魔術でも治せない。だから私達は日々学ばなければならない」


それは魔術師の知識と医学の知識の両方がいるって事ではないだろうか。とてもつない大変な分野にジュリはびっくりした。


「魔術は万能ではない、けれど不可能を可能にする力を持っているの」


それはどういう意味なのかとカルロが質問した。ジュリも前後で言っていることが支離滅裂な気がした。


「そのままの意味だけど?魔術は何もかも治せるわけではないが、解明できれば長年苦しむ病も壮絶な痛みも一瞬で快癒できるでしょ?十分不可能な事を可能にしていると思う」


なるほどなとジュリは頷いた。ちゃんとした知識さえあれば、素晴らしい職業だと思った。


「以前精霊を使って、周囲の怪我人を一斉に治したのを見た事あるのですが、あれも医療魔術ですか?」


再びカルロが質問すると、ティアはうーんと考え込んだ。


「精霊を使うと魔術ではない可能性もあるからね。彼らの使う魔法の原理はよくわからないものも多い」


精霊の使う魔法は、術式には構成できないものがあるって言ってたっけ…


「元々一般の魔術師が医療魔術を使うのは難しいんだ。命に関わる様なものには、専門の医療魔術師しか対処できないようになっているんだよね」

「なら僕らが学ぶのは何なのでしょう?」


ライが質問すると、ティアは一枚の陣を取り出した。


「君達が学ぶのは自然治癒力を高めるものだよ。これなら医療の知識がなくても誰でもできるからね」


自然治癒力は人間が元々持っているもので、それを増幅すればあらゆる簡単な傷には対処できると言う。


え 便利!


「さすがに怪我をさせたり、人で試すわけにはいかないからね?人形を用意してもらったよ!」


そういって髪が生えた生首の人形と、爪が生えた手の模型のようなものを見せられた。教室中に女子の悲鳴が響き、男子もドン引きしている。


怖いんですけど!何でこれなの…


「他分野の先生が余ったからって分けてもらったんだよね、自然治癒は髪や爪を伸ばしたりも出来るからちょうどいいかなって思ったんだけど」


何!?こんなの使う授業があるの!?っていうかこれもしかして人毛なの?!


突っ込みが追い付かなくて、ジュリがぐるぐる考えながら生首をガン見していると、これがいいの?とティアが生首を差し出してくれた。


言ってない!!


「やっぱりずれた事やっちゃったのかな?医療魔術師って凄惨な現場に行ったりするから、そういう…耐性っていうのかな、死体とか見慣れちゃってて、生徒にどこまで見せていいのかわかんなくなっちゃうのよね」


わかりますとカレンが生首と手を抱えて、会話に飛び込んできた。え、何でふたつ持ってるの?


「私も薬師になりたいんです。多分医療魔術も学ぶと思うのですが、やはり他国に渡らなければいけないのでしょうか?」

「あ~そうなんだ?そうだね、他の国の方が薬草に詳しかったり、医療が進んでたりするからね。ここは何でも魔術に頼っちゃう国だからそういう医学研究は、遅れてるんだよね」

「カレン、外国へ行っちゃうの?」


ジュリがふと呟くと、卒業してからだと言われた。今は皆一緒に学んで毎日会えるのが当たり前だけど、いつかはそれぞれの道を歩んでいく。


それを考えると少し寂しいなと思った。それはきっと今がとても幸せだから。


結局クラスで生首と対決できたのは半分程度だった。騎士コースは狩りなどもしてきた家系の子達が多く、見慣れているのか全員問題なさそうだったが、官僚コースの令嬢たちは近寄りもしなかった。


髪がにゅるんと伸びる時はさすがに気持ち悪くて、ジュリはライにしがみ付き、何故かカルロに怒られた。


聖女候補たちは全員クリアしたようで、ローザがさっさと終わってつまらなそうに、懐中時計を見ているのが見えた。偶然見えた懐中時計の針はすでに半分を示していて、ジュリは驚いた。


私まだひとつも動いていないのに!?


人によってそんなに違うのかと思ったが、二学年で半分は普通なのだろうか?ミハエルは他に何か言っていなかっただろうかと思い出そうとしたが、生首が怖くて集中できなかった。


カレンは医療魔術のコツなどを聞きまくっていたが、他国でも人との触れ合いは大事だよと言われて、人付き合いが苦手なカレンは私には無理かもしれないと落ち込んでいた。


その後、他国で疫病が発生したと聞いて、いつのまにかティアはいなくなっていた。新任として学院に入った時も、同じような事例で風のように飛んで行って数年帰って来なかったそうだ。


医療魔術師は人数も少なく、教職よりもそちらの仕事を優先させる者が殆どで、学院側もそれを了承して採っているようだった。


あの人私達が在学中に帰ってくるのかな?


そして当たり前のように医療魔術の授業も、結局師長がやる事になり泣いていたとかいなかったとか。

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