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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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冠する名

ジュリはシグナと別れても、まだ中庭に留まって池を見ていた。


悪い事って何だろう…?


シグナは基本的にジュリのやりたい事を尊重してくれる。魔術師になる事も本音はあまり快く思っていないのかもしれないが、ちゃんと協力して助けてくれる。そのシグナが忠告するのだから、本当に心配するような事があるのだろう。


師長は何も言ってなかったよね…?


そんな事を考えていると、背中にもふっと何かが飛んできた。


「えっ!?」


ジュリはびっくりして振り返ると、細長い三本のしっぽが見えた。背中には何かはしがみ付いているらしいが、全体が見えない。


「なになになに!?」


必死に叫んでいると、後ろから足音と聞き覚えのある声が聞こえた。


「ルビィ!」


プラチナブロンドを綺麗に靡かせながら、少し早歩きで近寄って来るのは、最高学年の女性騎士だった。


「アーシャ様…?」

「…ああ、術技大会でジェイクたちと一緒に居た子だな。すまない、誰もいないと思っていたんだが」


自分の名前を知っていたので不思議に思ったのだろう。少し間をあけて思い出してくれたようで、柔らかい笑みを見せてくれた。


そしてジュリの背に手を当てて、ひっついているものをとってくれた。それを見てジュリは目を丸くした。


「猫?アーシャ様の飼い猫ですか?」


しかしよく見ると、猫よりも大きくて尻尾は三本ある。この学院はペット禁止なのか、動物を飼っている生徒は見たことなかった。アーシャは腕の中の獣を愛しそうに撫でながら、答えてくれた。


「ああ…この子は魔獣だ。幼い時から一緒に居る」

「はい!アーシャ様とずっといますにゃ」


うわっ喋った!しかもルビィって…


ジュリの記憶では術技大会にいたルビィは、魔術師っぽい女の子だったはずだ。不思議そうに見るジュリにふっとアーシャが笑うと、水属性の陣のようなものが見えたと思ったら精霊があらわれる。


「私の精霊のネレイドだ」


ふわふわとした髪が長い、女性の姿をした精霊だった。彼女は自分のするべきことがわかっているのか、ゆっくりと魔獣のルビィを撫でる。


…えっ!?


すると目を疑うようなことが起きた。魔獣の姿から、人間の女の子の姿になったのだ。目をごしごしと擦るジュリを見ながら、アーシャは笑った。


「ジュリ…だったか?君の精霊も高位なら知っているだろう?私の精霊は変化なんだ」

「はい?」


何を言っているのかわからず、ジュリは意味を求めてアーシャを見上げた。


「知らないのか?」

「私は自分の精霊の事もまだよくわかっていなくて…」

「そうか。高位の精霊は特殊な能力を冠した名を持っている」


その特殊な能力は、人間の術式には構成できないらしく、精霊にしか使えない魔法というものらしい。


「私の精霊は“変化”のネレイド。水が姿形を変えるように、モノの形を変えることが出来る。そう見えているだけの幻なのかわからないがな」

「それ、私にばらしちゃってもいいんですか?」

「知ったところで、使えないしな。それにルビィの入学許可は下りている。彼女は強く頭もいい、私の相棒なんだ」


ルビィは照れたように、アーシャにくっ付いた。魔獣に人のふりをさせるのは、結構大変なんじゃないだろうか。


そこまでしても、一緒に居たかったんだろうな


「魔獣を人に化けさせてまで、入学させる事に意味はあるのかと思っているな?」

「えっ」


お前は分かりやすいなと笑われて、ジュリは俯いた。


「護衛と言えば聞こえはいいが、大半はないな。これは私が一緒に居たかっただけの、ただの我儘だ」


私も一緒にいたいですとルビィが必死に主張しながら、ぴょんぴょん跳ねている。


「私の身分的に、友人として近寄ってくる者はいないだろうからな。孤独になる事がわかってたから、私の心の拠り所としてルビィが必要だったんだ」


ジェイクみたいに本音でずかずか話してくる人はほとんどいないから、とても貴重だと笑っていた。


あの人は失礼すぎると思います


「でもアーシャ様は言葉遣いも…何ていうか貴族らしくなくて、とても話しやすいと思います」

「ああ、騎士になるとどうしても命令口調が癖になってしまうんだ。逃げろをいちいち逃げてくださいませなんて言ってられないだろう?」


なぜだかローザの口調に変換されて、ジュリは笑いを堪える様に口を覆った。


「貴重なお話をありがとうございます…あっ」


先ほどの事を思い出したジュリは、彼女に聞けば何かわかるかなと考えた。


「四属性の精霊を集めると、何が起るか知っていますか?」

「四属性…?いや、知らないが。そもそも私は三属性だから、集められないからな」


そうか、聖女候補でないとわからないのかもしれない


アーシャは自身の精霊に聞いてみたが、首を振るだけで答えてくれなかったようだった。


「わからないな…けれど君の精霊が忠告したのなら、それはきっと意味がある事だと思う。精霊は主の為にならない事は決してしないから」


ジュリもそう思うので、強く頷いた。


「魔術師長に聞けばいい。多分あの方に聞いてわからない事は、この国の魔術師の誰に聞いてもわからないだろう」

「あの人ってすごい魔術師なのはわかるんですけど、ちょっと変ですよね?」


アーシャは口元に手を当ててふふっと笑った。笑い方まで上品すぎて、平民のジュリが普通に話をしていていいのか不安になってくる。


「そうだな…。あの方は少し古い魔術師だと思う、今はミハエル先生のような複合魔術が主流だろう?授業では創作魔術と言うが。けれど魔術師長はいつも原理を追い求めている少ない魔術師のひとりだ」


いきなり難しい話になって、ジュリは半分は意味が分からなかったが、何かすごいんだなと頷いた。


「あの方は講師として学院に居るが、本業は宮廷魔術師だ。私や…王太子が幼い頃に、私達の警護をしてもらった事があるが、あの方ほど頼りになる方はいないと思ったよ」


まだ学院に通うくらい若い師長が、すでに宮廷魔術師として仕えていたらしい。


「そんな若くして…あっ四属性だったから?」

「親だったか…師…?確か、誰かの跡を継いたんじゃなかったか?私も幼くて覚えていないが」


そういえば、師長にも師匠がいたと言っていたような…?優秀な魔術師だったのかな


結局いつも最後は師長に聞くような形になるが、あの人はあの人でちゃんと答えてくれない事も多い。多分知っているが、言えないという事なのだろうが、それが何故なのかよくわからない。


とりあえずシグナが言った四属性の事は、ちゃんと師長に聞こう


そう思いながらジュリは彼女たちに別れを告げて、中庭を後にした。ふと後ろを振り返ると、アーシャがルビィを優しく見つめて撫でていた。


それが何だか自分とシグナのように思えて、心の拠り所という言葉が誰よりも分かる気がした。



ジュリは寮に帰る途中に、すれ違った女性に声をかけられた。


「教職員室、どこかな?」

「あ、えっと…」


新任の先生かなと思って見上げると、顔が見えなかった。胸で。胸でかっ!!


しかも背も高いのもあって、大人の女性だなあと思いながらジュリが動揺しながら説明すると、うふふと女性は屈んでやっと顔が見れた。結構若く日に焼けた肌が健康的だと思った。近づくと何故だが消毒液の匂いがした。


「ありがと!」

「んきゃ」


頬にちゅっとキスされて、初めての感触にジュリは飛びのいた。


「授業で会ったらよろしくね」


去っていく女性を見ながら、ここには変わった先生しかいないの?とジュリは疑問に思った。

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