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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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水晶の花

ジュリの精霊は森で探すという事になったようだが、じゃあすぐにとはいかない。


「内密にとは言いましたが、学院には許可を取らなければいけません。森への立ち入りと貴方は二学年なので更に許可がいります。騎士への連絡もありますし、日程を改めましょう」


結構大事なんだなとジュリは頷いた。さらにシグナにも了承してもらっておくように言われた。危険な所にいくのなら、彼の力も必要なのだろう。


「私は全然強くもないのに…精霊だけが強い魔術師なんているんでしょうか」


たまたまシグナが最初に契約してくれたおかげだったとも言える今の状況が、ジュリには少し居心地悪かった。


「僕は精霊も魔術師の力の一部と思っています。高位の精霊と契約できたというだけで、魔術師としての価値は十分あります」


まだ納得できていないような顔のジュリに師長は思案した。


「精霊は力で従うと言いましたが、結局最後は心で従うのですよ。契約した後も彼らと理解を深めなければ、力を発揮できませんからね」


そういえばシグナも必ずしもジュリの言う事をきくわけではなかった。出てきてと言ってもしばらく無視してたなとジュリが思うと、目の前の人物は面白そうに話を続けた。


「そうですね、もし人々に忌避されるような、犯罪者と契約する精霊がいたとしましょう。さらに道を誤り罪を犯し続ける主人に、それでも精霊は最後まで共についていくでしょう。自分の信じたものを疑わずに。彼らは強いから、正しいから、尊敬しているから、必ずしも従うのではないのです」


ジュリは言葉を発さずに、師長の言葉に耳を傾ける。


「世間の常識や倫理など関係なく、自分が選んだものが正しいのだと、自分の心に従うのです。とても実直で自由な存在だと思いますね。人間は誰もが誠実でいたいと思っても、生きていく上で色んなものが邪魔してきます」


師長はどこか精霊を羨ましいと思っているのだろうかと見上げると、ふふっといつもの笑顔を向けられた。そして切り替えるように別の話題に移った。


「今日は召喚は出来ないでしょうから、属性別の水晶の花を作ってください」

「属性別?」


以前作った時は、得意属性の色に染まった覚えがある。


「属性を自分で選ぶことなんて出来るんですか?」

「持っている属性なら出来るはずですよ。魔術を使う時にそれぞれの属性の陣を使いますよね?」


まずは染めたい属性陣を用意して、その上で水晶を咲かせたらいいと教えてもらった。


確かにこれなら特定の属性を使いやすいが、得意属性ではないものは少し使いにくいようで、かなり魔力を込めなければ水晶は変化しないらしい。


周りも苦労している子が多いようで、横でカルロが唸っている。


「んぐぐぐ、くっそ…」


カルロの陣を見てみると、水属性のネローの陣が見えた。


「カルロ、大変そうだね」


ジュリが話しかけると、必死そうな声でうるせえと言われた。


「カルロさんの得意属性は火属性でしたか?なら水よりも風や土の方がやりやすいかもですよ」


さらにその隣でもう終わったようなライが、にこにこと話しかけてきた。


「どうして?」

「属性には相性があるんですよ、火は水で静まり、水は土に覆われ、土は風に流され、風は火に煽られる。教科書に書いてありました」


それを聞いていた師長が言ってなかった!?みたいな表情で急いで皆に説明していた。


師長さあ…


「けど結局は水属性も使えなきゃいけないんだろ?なら、後回しにしても同じなら今する!」


負けず嫌いは男の子だなあと、ジュリは兄弟を思い出してほんわかした。


「ライは魔術の使い方が上手いんだね?」

「僕の育った国でも似たようなものがあったので」

「似たようなもの?」


ライはにっこり笑って教えてはくれなかったが、自分が魔術を使うコツなんかを教えてくれた。


「例えば水晶の花なんかは、現実でも種がいきなり花にはならないでしょう?まずは芽が出て蕾になってなどゆっくり想像していくと、魔力が通りやすかったりしますよ」

「そういえば魔術はイメージだって言われた事ある」


ジュリはゆっくりと水晶に魔力を流していくが、うまくいかない。得意属性の水の時はずっと簡単だったはずだが、こんなに違うものなのだろうか。


「精霊と契約しているとまた違ってくるみたいですね。契約すると魔力が混じるので、その属性が使いやすくなるらしいです」


だから水属性が使いやすかったのかな…?


横で苦戦しているカルロを見ながら、ジュリは話しかける。


「ねえカルロ、どっちが先に咲かせられるか競争しない?」


はあ?と必死な形相でこちらを見ながら、カルロに睨まれた。


「いくよー?よーい…どん!」

「は?…まっ」


かなりの時間をかけてジュリは赤い花、カルロは青い花を咲かせた。負けまいとがむしゃらに頑張ったカルロは、ぐったりと机に突っ伏して倒れていた。


「カルロさんの勝ちですね。流石ですねえ」

「…誰よりもさっさと終わって、鑑賞してる奴が言うか。お前はいつも誉め言葉が、適当だよな」


やや首を傾けながら睨むカルロに、にこーと微笑みながらライが話しかける。ジュリは机の上の赤と青の水晶の花を見ながら綺麗だなと思った。





中庭の池の近くで、ジュリはシグナと会っていた。


「それでね、カルロは新しい水の精霊と契約できたんだよ」


特に興味なさげにふーんと言っているシグナに、聞いてる?と話しかけると聞いてないと返される。


「シグナって何でそんなにカルロが嫌いなの?」

「別に嫌いじゃないよ。好きでもないけど、興味ないだけ」


水の輪っかを作って遊び始めたシグナに、そうだこれとジュリはポケットからあるものを取り出した。


「授業で作った水属性の水晶の花だよ。精霊と契約する時ってこれをあげるんだって」

「くれるの?」

「私はシグナと契約した時何もあげてなさそうだったから。今更でごめんね」


薄い青色の花を受け取ったシグナは、まじまじと無表情で見ている。何も言わないし、表情も変わらないのでジュリは少し心配になった。


「気に入らなかった?失敗はしてないと思うんだけど」


シグナはゆっくりとこちらを向いて、話しかけられたのに今気づいたとばかりに首を振った。


「嬉しい…」


少し照れたようなシグナの表情は初めて見た気がする。もしかしてすごく喜んでくれているのだろうか。


そういえば、シグナに何かあげたのって初めてかも?


村に居た時は誰かにあげれるような物は、何も持っていなかった。けれど今は自分の意思で、誰かを喜ばすような事ができるのがとても嬉しい。


ジュリがふふっと笑うと、シグナも笑ってありがとうと言った。


「あっそうだ!あのね、私は四属性だから四つの精霊との契約が必要なんだって。今度森に精霊探しにいくんだけど…」


また精霊は自分だけでいいと反対されるかなと思ったが、シグナの反応は少し違った。


「四属性の精霊を集めるの?ジュリが?」

「聖女候補として必須だって言われたよ。やっぱり嫌?」


嫌というか…と怪訝な表情で歯切れの悪い返答をするシグナを、不思議そうに見つめた。


「四属性の精霊を集めるのはやめたほうがいい」

「どうして?」

「術師が四属性の精霊と契約すると悪いことが起こるかもしれない」


悪い事って?と聞くと、それはよくわからないと言われた。


「でも師長も四属性で、多分四つの属性の精霊と契約してるよね?」

「うん、だから必ず起こるわけじゃないのかもしれない」


よくわからずに首を傾げてみると、シグナは心配そうな顔でジュリを見ていた。


「まだ契約できるかもわからないし、そこまで心配しなくても大丈夫だよきっと」


それでもシグナは納得できないように、ずっとジュリに貰った水晶の花を見ていた。

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