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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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水の音楽

シグナがいるとミカと話が出来ないので、シグナに帰ってもらう事にした。少し不満そうだったが、それなりに魔力を消費したのか文句を言わなかった。


そして膝をついて、ジュリと目線を合わせると髪を撫でながら言った。


「ジュリはちょっと抜けてる所あるから、気を許さないでね」

「ここには、危害を加える人はいないよ?」


わからないでしょと言って、すうっとシグナは消えた。それを見ながらミカがにこにこしながら話しかけてきた。


「シグナは君が大好きだよね」

「それは…シグナが私の精霊だからだよね?人の好きと精霊の好きは違うんでしょ?よくわからないけど」


ミカは不思議そうな顔をして首を傾げた。


「確かに契約した精霊は主人を特別に思うけど、個性はあるよ?適当に従ったり、友達のように接したり、それこそ恋心を抱くのだっているよ?人間と同じだよ」


えっ!?とその発言には少し驚いた。本に精霊と人間の恋物語なんてあるでしょと言われたが、虚構のものだと思っていた。


「どうして精霊が人型をとると思う?人と関わりたいからだよ。ただ精霊は基本的にはその感情を言わない、というか求める事はしない」

「どうして?」

「不毛だと知っているから。同じだけの歳を重ねて老いる事も出来ない、抱きしめてあげる暖かい肉体もない。精霊の姿は術者の魔力で顕現しただけに過ぎないしね」


気持ちはあっても望むことは出来ない、それは悲しい事ではないだろうか。何となくそう思ったら顔色を読まれたのか、ミカが苦笑した。


「人間が受け入れるのは簡単だけど、精霊はその人間が死んだ後もずっとひとりで想っていくんだよ。そっちの方が可哀想じゃない?」


だから恋を育まない方がいい、愛を伝えない方がいいと言うのはまた違うんじゃないかと思ったが、ジュリは置いていく人間の立場なので、そうだねとしか言えなかった。


そんな二人の会話を黙って笑顔で聞いている人物がいた。


「師長、いつも騒がしい人が黙っていると不気味なんですけど」

「そこは不思議だとか言って下さいよ」


研究対象をじっと観察しているような感じで、居心地が悪くて声をかけずにいられなかった。そして師長がミカに楽しそうに声をかけた。


「とても興味深い魔闘でしたよ。属性変換はどこで習ったんですか?」

「本で読みました。僕の家には魔術の本がたくさんありましたから。フォンベールでは落ちこぼれ扱いであまり外には出してもらえなかったので」


本を読んだにしても、限界があるのではないだろうか。同じようにジュリは教科書を読みこんだが、水をぴゅーっと出すくらいしかできなかった。


「まあ特化術師は規格外の方が多いですけれど。火属性の特化術師もそうでした」


火…?っていうとジェイク先輩の事かな?


「ある日学院に殴り込みに来ました。独学ですでに高い戦闘能力を持っていましたね」


ジェイク先輩何してんの!?


そして師長はミカの方を見て、笑顔で話しかけた。


「君がどんな魔術師に成長するか楽しみです」




師長が用は済んだとばかりに訓練所を後にすると、ミカと二人になった。カルロ達は下でアルス達と話している様だった。


ミカを見るとにこーと微笑まれた。


「眉間に皺よってるね」

「…何で私の事知ってるの?どこで会ったの?」


勝負は勝敗なしだったから教えられないよと言われた。むかっ。


「ふふっジュリは魔術で人と争うのが嫌なんだね」

「傷つけたり傷つけられたりするのは嫌だよ。しなきゃいけない理由もないよね?」

「理由があればいいの?宮廷魔術師の仕事のひとつはこの国の防衛だよ。誰かや何かを守る為だと思えば訓練もありじゃない?」


実践的な意味では魔闘は必要になってくるようにも思えた。ただシグナを精霊として使うという行為が嫌だなと思ったのだ。精霊でもジュリにとっては大切な友達や家族と同じだから。


納得できない態度のジュリに、ミカが笑って魔術で水の塊のようなものを出した。器はないが形は水盆のようだなと思った。


するとそこに無数の水滴が落ちたと思ったら、不思議な音を奏でた。


「何これ?音楽…?」

「水滴の大きさによって音が変わるんだ。綺麗でしょ」


ジュリは音楽や楽器に触れる事はほとんどなかった。音楽の教養は貴族の家庭で習うものらしく、学院の授業ではなかったのもあるが、音楽といえば街に出た時に賑やかな曲が聞こえてきたくらいだ。


村祭りは、あまり参加できなかったからな…


「綺麗…優しい音で落ち着くね」

「ジュリが居るから。音楽は弾き手の心を反映するんだ」


ん?と思ったがとりあえず突っ込まずに演奏に耳を傾ける。

凝視しながらじっと水滴を見つめるジュリを微笑ましく見ながら、ミカは話しかけた。


「魔術は武器にもなるけど、結局使い手次第だよ。でも応用を使うには、知識や実践が必要なんだ。精霊を道具として使うんじゃなくて、教えてもらったり助けてもらうって考えたらいいんじゃないかな」

「うん、ん?あれ?私それ声に出したっけ?」

「ジュリの事なら何でもわかるよ」


…ほんと何なのこの人


「これって私にもできるかな?水を落とすくらいならできそうなんだけど」


うずうずしながら言うと、ミカがどうぞと自身の水滴を止めてくれた。音楽がなくなるとジュリは集中して、水よ降れと唱えた。


すると大きな水の塊が水盆の水の中に勢いよくどぼんと落ちて、溢れた水で二人はびしょ濡れになった。


「ああああ、失敗しちゃった…」

「あっは、ジュリは大雑把なんだよ。もっと繊細に水に命令しなきゃ」

「前にシグナにも同じような事言われたんだけど、どうやってするの?」

「イメージかなあ…水に命令しながら自分でも想像しやすいように、魔術師は呪文を使うよね?僕は海の近くで育ったから波に関するものが多いんだけど、自分にあったものを見つけた方が、上達は早いかもね」


そういえば以前レイリ先輩が、自分や周りの精霊に分かりやすく言ってるだけで、何でもいいって言ってたっけ


自分にとっての水のイメージはシグナだった。


小さな水、水滴…。そう考えていたら、シグナが水で小さな針のようなものを作っていたのを思い出した。キラキラと線のように光ってとても綺麗だなと思っていた。


「銀の…水」


目を閉じてあの光景を思い浮かべるように、言葉を紡ぐとひとつの水滴が針のように尖って水盆を突き抜けた。


「おおっちゃんとイメージできたね」


でも突き抜けちゃったらダメじゃない?


うーんと悩むジュリに、なんで銀なの?とミカは聞いた。


「シグナが見せてくれた技を思い浮かべたらできたの。私の水のイメージは全部シグナだから」


そういうと何故かミカが嬉しそうに笑った。

結局ジュリは水で奏でる事は出来なかったが、その後もミカが演奏してくれた。何の曲かジュリにはわからなかったが、懐かしい気持ちになる優しい音だった。





カルロやカレンと合流すると、カイル達はすでにいないようだった。


「あいつは?」

「ミカ?もうちょっと見ていくってまだ上にいるよ」


絶対俺たちと会いたくないだけだろと、カルロが文句を言う。


「結局何もわからなかったのか?」


カレンの問いに、師長との会話も交えて少しだけ説明した。


「会ったことないはずなんだけど、ただ幼い時の記憶がよく思い出せなかったりするから、その時会ってたらわからないかも」

「そうか、では相手が話さないならわからないな。けれど敵視しているような態度ではなかったな?少なくともジュリには」


ジュリは頷いて、先ほど水で音楽を奏でてくれたことも話した。


「チビは楽器弾いたことないのか」

「えっカルロ弾けるの?」


なんとカレンは鍵盤楽器、カルロは笛などが吹けるらしい。いいなあと言うと、機会があれば教えると言ってくれた。


きっと弾いても下手くそだろうけれど、二人が居ればジュリもあの優しい音が出せるような気がした。

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