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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第ニ章 学院七不思議
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魔闘

シグナがジュリを庇うように後ろにやり、両手には水の玉のようなものが現れた。ミカの方も何かしら呟いて、水の槍のようなものを出す。


ちょ、ちょっ待って!?二人とも性急すぎるでしょ!?


目の前のシグナを止めるように掴むと、危ないよと言われる。いや、危ない事しないで!?


「二人が争う理由ないよね?何でこんな事になるの?」

「僕はまあ、どっちでもいいんだけど。ジュリの精霊に会うのが本命だからね」


ミカが苦笑して答えると、シグナが冷たい目で相手を睨んだ。


「ジュリに攻撃したんだから、僕は許さないよ」


だよねーとミカが軽い感じで、攻撃態勢をとった。こんな所で暴れたらまた周りに被害がでてしまう。ジュリはあたふたしながらも、二人の止め方がわからなかった。


事態の把握がいまいち出来ないまま、カルロが先生の元に報告しに行ってくれる。そしてカレンは対峙し合う二人に話しかけた。


「ここでは野次馬も含めて、巻き込んでしまうだろ?魔術を使うなら訓練所に移動したらどうだ?」


訓練所は耐久性に優れた作りになっており、魔術を使うとしたらそこしかないだろう。シグナは誰を巻き込もうがどうでもいいというような顔をしたが、ジュリが頼むと大人しく聞いてくれた。


以前教室でめちゃくちゃに暴れて、ジュリに契約解除すると言われたのが効いているのかもしれない。




訓練所は騎士見習い達がまばらにいる様だった。入学式の日まで訓練だなんて、偉いなあと思いながら見渡すとカイル達がいた。


さすが熱血騎士!


カイル達はどうしたの?という顔でこちらを伺ってたが、シグナを見て少し顔をひきつらせた。うん、何が始まるか察して逃げて。


もういいよねというシグナの言葉が合図だったのか、無数の水滴がミカに向かって飛んでいく。


「逆波」


ミカの前に波しぶきのようなものが見えたと思ったら、シグナの水を飲みこんだ。


「う~ん…魔術はやっぱり精霊の方が有利だよね。僕ら人間はどうしても術式を構成しなきゃいけないから」


今まさにシグナの攻撃を止めたミカが、そんな事を言う。ジュリはカルロが戻ってきているのを見て、近寄った。


「カルロ!先生は?」


先生なら止めてくれるだろうかと希望を託しながら尋ねると、カルロは渋い顔をして訓練所の上を指さした。


上?


訓練所には二階に登れるようになっており、生徒たちを見渡すことが出来る。そこにはニコニコしている師長がいた。


師長!?あの人しかいなかったの?


そんな顔をしながらカルロを見ると、捕まった教師は師長だけだったと言った。彼は二人を止めるどころか、観戦する気満々なようだった。


ジュリは師長と話をするために、急いで二階に登って行った。


「師長!何でそんなところにいるんですか?」

「ここからなら、よく見えるでしょう?」


それが何か?というような師長の表情に、無駄だろうなと思ったけれど、止めてくれないんですかと質問してみる。


「訓練所で行うなら特に問題はないでしょう。魔闘は立派な競技ですよ」

「魔闘?」


簡単に言えば、魔術師同士の魔術を使った試合らしい。体術訓練の他にそういうのも授業に組み込まれていくようだった。


「貴方の精霊も気になるのですが、もうひとりの特化術師も興味あるんですよね。彼がどこまでの魔術を使うのか入試では未知だったので」

「ミカの事ですか?やっぱり入学前からあんなに魔術が使えるのは、普通じゃないんですね」


普通なんてものじゃないですよと、師長が大げさに手を広げて話を続ける。


「入学前の子供たちの中には魔術を使える子はいますよ。騎士の家系の子達なんかは親に連れられて、幼い頃に狩りを習いますからね。けれど高度な攻撃魔術や防衛魔術は学院でしか学べません。学院の教員免許を持った教師が教えるべき人材を選んで教えるのですから」


確かにそうじゃないと、学院の意義はなくなるかもしれないとジュリは思った。交流なども学べるが、やはり一番は自分の魔力の使い方を学ぶことだ。


「しかし彼は最初からすでに高学年程度の魔術の知識があります。精霊とは契約していないようですけど、彼にどうやって学んだのか聞いたら独学だと言われましたよ。ははっ」

「親じゃないんですか?ミカは優秀な魔術師の家の子供だと聞きましたけど」

「ええ、存じていますよ。僕も何人かフォンベール関係の魔術師を教えました。けれど皆最初は普通の子供たちでした」


つまりミカの両親たちが何かを英才教育をしてるわけでなく、ミカが特別って事?


「僕もそれなりに天才でしたけど、ちゃんと師匠がいましたからね」


楽しそうな笑みを浮かべて、研究対象を見るような表情の師長にジュリは、本当にこの人は魔術関連になるとイキイキするなあと思った。


ジュリ個人が気になるのはそこではなくて、なぜミカがジュリの事を知っているのかだったが、それを言うと師長の研究対象の興味に、ジュリが巻き込まれそうだったので言わなかった。


そんな事を思いながら上から二人の白熱する魔闘を見ていると、かなり規模がおかしい。訓練所の三分の二ほどの威力を放っていて、ほとんどの生徒は端の方に避けて観戦していた。


見ていると、シグナが攻撃してそれを相殺しながら、ミカは同じ攻撃を返しているようだった。


ミカは受け流してる…?なんか変な…?


「ふふっなるほど。精霊は魔力の塊のようなものです。持久力じゃ敵いませんから、精霊の攻撃を自身の魔力に変換して返しているようですね。もちろん同じ属性だからできるのでしょうけど」


何それ強くない?それなら私もできるんじゃない?


「もちろん、受け止められるだけの魔力の容量と技術が必要ですけどね」


あ 無理かもしれない


ただこのままじゃ負けはしないが、勝ちもしないという。ミカはどうするつもりなんだろう?


シグナがいい加減飽きたような攻防を繰り返しながら、目の前の標的に話しかけた。


「人間が精霊に敵うわけないでしょ。さっさと諦めたら?」

「確かにそうだけど、人間は精霊にはない知恵を持っているんだよ」


そして次にミカが水で陣のような物を描いたが、それによって発動する魔術は水属性じゃなかった。


「石英」


無数の透明な鉱物がシグナの上から降り注いだ。


「え!?あれって土属性!?」


ミカは水属性しか使えないと言っていたのに、なぜか土属性の魔術を使っている。


「属性変換の陣ですね。あれは魔術道具を作る職人なんかは使える人がいます。ただ魔力は倍かかるのに本来の属性持ちの人に比べたら半分くらいの威力になります。とっても燃費が悪いんですよ」


しかも属性変換の術式は自分の魔力の質や量など、自身の魔力の形を熟知していないと作れないと言う。個人によって陣も変わるのでそれなりの知識が必須だそうだ。


「僕らのような四属性持ちはあまり使う事のない陣ですけどね。それにちゃんと属性の相性も考えていますし。あ、これは授業で習いますよ」


多分この人は属性変換の陣は必要なくても、面白いからと言う理由で自分でその陣を作ってみたに違いない。


「ミカは何者なんでしょう?」

「僕もそれが知りたいです」


そしてその後は師長が二人を止めに行った。器用に闘っていても、ミカはまだ子供で体力や魔力には限界がある。ジュリがミカに話しかけると、平気そうな顔をしていたがやっぱり疲れている様だった。


「ミカ大丈夫?」

「そこはかっこ良かったとか言って欲しいな」


そしてジュリに近寄ろうとするのを、シグナが間に入って止めた。


ミカは笑顔だがシグナは機嫌の悪そうな顔をしている。二人とも全く正反対の表情をしているのに、ジュリには同じような言葉を体現しているような顔に見えた。


お互い何か気に食わないと。

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