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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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影の護衛

年末の連休が終わると、二年生に必要な材料のリストと、国から支度金が支給された。


「また街に出ないといけないんだね?でも一年生よりは買うものが少なそうだね」

「器具なんかは使いまわせるからな。お前、またはぐれるなよ」


カルロに睨まれながら、ジュリはぎくりとした。去年は速攻はぐれてしまって、カルロが探しまわってくれたのだ。


外に出る場合ローブは着てはいけない事になっている。魔術師学院の子供たちは、ほとんどが貴族出身なので誘拐される可能性が高いらしい。


「市民に紛れる格好をするって事だよね?でも令嬢達は髪色からして無理じゃない?どうやって買い物するのかな?」

「良いとこの貴族が自分で買うわけないだろ?召使に買わせるか、屋敷に商人を呼ぶんじゃねえの」


あ そっか!


確かにローザが街で買い物してる姿は想像できない。シェリアなら楽しんでしそうだが、家の者に止められそうだ。


ジュリ達は外出許可を貰いに、師長の元に向かった。


「護衛を付けた方が良いと思いますよ」


開口一番にそんな事を言われながら、二人は顔を合わせて不思議がった。


「表通りは大丈夫でしょうけど、今回は裏路地の店に行かなきゃいけないでしょう?」


材料の中にちょっと変わったものがあるようで、治安の悪い場所にある少し離れた店に、行かなければいけないらしい。


「でも私達、兵士を雇うお金は持ってません」


今回支給されたのは、二年生の準備費用だけで、少し余っても小遣い程度にしかならない。師長は少し思案して、では僕が護衛をつけましょうと言ってくれた。


「師長が一緒に来るんですか?」

「いいえ、僕が信用してる方に頼みます。見つからないようについていくので、普段通りにしてて構いませんよ」


カルロは大丈夫なのか?と怪訝そうだったが、ジュリは一応お礼を言って退出した。




久しぶりの外の街はとても賑やかだった。ジュリ達くらいの子供も元気に走り回っている。


「危険な気配はまるでないよね…?」

「危ないのは裏路地って所だけなんだろ。ほら、さっさと買い物するぞ」


今回はカルロについて、一緒に買い出しを始める。しかしジュリが驚いたのは、カルロが値引き交渉を毎回する事だった。


「たけーよおっちゃん、こっちは二個まとめて買うんだから、もうちょっと安くなんねえ?」


そして全てを定価より少しずつ安くして購入している。塵も積もればと言うように、値引きされた分のお金は予定の残金よりもかなり多かった。


「カルロすごい…こんな買い物の仕方があるんだ?」

「露店なんてかなり高く設定してたりするんだから、値切り前提だよ。安すぎてもダメだが、それなりの物を安く手に入れるのは、商人の基本だからな」


商人になる事はないだろうが、ジュリはまた新たな知識を学んだ。


そして問題の路地裏は思ったよりも人気もなく、暗い雰囲気の通りだった。何でこんな所で商売しようとするんだろうか…。


ジュリがびくびくしながらそっとカルロの手を握ると、彼はびくっとしながらジュリを振り返った。


「あ、ごめん。驚かせちゃった?この通り怖いよね…」

「い、いや!そうじゃないけどっいきなり握るな」


そう言われたので、手を放すとなぜか再び握り返された。


「放せとはいってないだろ」

「…?どっちなの?」


ジュリはわけがわからないながらも、そのまま二人は手を繋いで寂れた店に入った。入って早々カルロが蜘蛛の巣のようなものにひっかかって文句を言う。店内は不思議な香のようなものが漂っていて、少し煙たい。


「何なんだよここは!どういう店だよっ」

「ここは一般人には売れないものも取り扱っているからね、学院の子供だろ?ほらバッジを見せな」


答えてくれたのは老婆のような見た目の、店主だった。バッジを見せると必要な物がわかっているのか、何も言わなくても商品をいじり出した。


「この商品は匂いが強烈でね、この密封容器がおすすめだよ。ちょっと値は張るがね」

「うわっ臭っせえ!そんなの持って帰れるかっ選択肢ないも同然じゃねえか!汚い商売しやがって」


どういう事?とジュリがカルロに聞いた。


「こういうのは抱き合わせ商法って言ってな…このババアめ」

「失礼な、私はまだ二十歳だよ」


ボケるのはまだ早いだろとカルロが苛々しながら睨むと、ふわりと香の煙が舞ったと思ったら、その煙の奥に座る店主の姿が若い女性のように見えた。


ジュリはあれっと思いながら目を擦ると、また老婆の姿に見える。どうなっているんだろう…?


買い物は無事に終えて店から出ると、外の空気がとてもおいしい。


「何か変な店だったね…?物語に出てくる魔女みたいだった」

「魔女ね…まあ実際は聖女や魔女と呼べるものなんていないしな。人々が良いと思えるものは聖女、悪いものを魔女と言ってるだけで、実際はあのばーさんもただの魔術師だよ」


ジュリがそうかと納得していると、いきなり視界が暗転した。


「え…!?」


布袋のようなものに入れられたのか、そのまま担ぎ上げられる。見えない向こう側でカルロの叫び声が聞こえた。


何…!?何が起ってるの?!


パニックになりながら、ジュリはぐにぐに袋の中で動きながら、抵抗する。


「アンタら学院の貴族なんだろ?親が金を用意したら解放してやるよ」


誘拐…?!え、待って。私達貴族でもなんでもないのに…!


しかし世間一般の常識では、学院の子供は貴族なのかもしれない。お金が手に入らないとわかったら何をされるのか…。ジュリは真っ青になって、逃げだすにはどうしたらいいか考えた。


するといきなり視界が開けて、男たちの悲鳴のような物が聞こえたと思ったら、地面に投げ出された。


「いたっ」


ジュリが起き上がって周りを見ると、何人かの男たちが手足から血を流して呻いている。何が起ったのかわからず辺りを見渡すと、銀色の髪の少年が二本の短剣を持って立っていた。


「ライ…?」

「ジュリさん、こういう時こそ精霊を呼ばないと」


あっと気付いた。鞄の中に召喚陣のペンダントを入れてた事を忘れていた。ライは傍で倒れていたカルロを見ながら、眠ってるだけですねと担ぎ上げた。


「警吏を呼んだので後は任せましょう。二人はとりあえず学院に」

「何…?どういうこと?」


それも学院に戻ってからと、いつも通りの笑顔が逆に怖かった。





「おや、結局バレちゃったんですか」


学院に戻ってカルロを救護室に運んだ後に、師長の所へ行くとそんな事を言われた。


「偵察ならともかく、姿を見せずに守るのは不可能ですよ」

「あの…どういう事?」


この場の三人で、多分ジュリだけが事態をよくわかっていない。


「そうですね、何から…。とりあえず、先ほど言った護衛はライの事です。彼はちゃんと君達を守ってくれたようですね」

「護衛って…。ライがそんなに強いなんて知らなかった」

「僕は元々それのおかげで、学院に入れたようなものですから」


ん?と思いながらジュリが首を傾げると、師長が続けて説明してくれる。


「彼は隣国で暮らしていましたが、魔力があるためにこちらの学院で学びたいと申し出ました。しかしこの国の国民でもない者にすぐに入学を許可する事はできません」


以前ライが話してくれた親と国外逃亡したのは事実なのかわからないが、隣国で暮らしていたのは確かなようだ。


「ただ体術に関してはかなりの使い手だったので、ならば聖女候補たちの護衛としてなら入学を許可するという条件を出しました」

「護衛…?ってじゃあ、ライは聖女候補ではないの?」

「僕は二属性しかないですね。聖女候補して入ったのは君達をより近くで守る為だと思います」


そういえば、師長は術技大会で自分と爆破に巻き込まれたカルロを見張っていたと言った。ジュリの方にはジェイクが、カルロの方には誰が見張っていたんだろうと思ったが…ライがいたはずだ。


「ライは去年も私の買い物に付き合ってくれたよね?それも偶然じゃなかった…?」


はいと言って笑うライは、いつも通り穏やかな笑顔だった。


そこでひとつ疑問が浮かんだ。じゃあ私達と友達になったのも師長の指示なのだろうか。そんな少し寂しそうな顔色のジュリを見て、師長は付け加えた。


「彼は確かに条件を呑んで入学しました。けれど僕は生徒としては何も制限をしていません。何を学び、誰と交流を深めるのか、君達と仲良くなったのは彼の意思です」


ジュリがライをちらりと見ると、彼はにこっと笑ってくれた。


「ジュリさん達と一緒に居るのはとても楽しいですよ」


その顔は確かに嘘を言っている様ではなかったが、まだ何か他にも含みがあるように見えた。彼の笑顔もまた師長ほどではないが、分かりにくい。


師長からは護衛任務を知っている人物は少ない方がいいので、出来るだけ言わないようにと言われた。

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