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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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受験者の宿

「ジュリは怖くなんかないよ」


懐かしい声の男の子が笑って頭を撫でてくれている。


「シグナだけだよ、みんな私を魔女って言うよ」


そう、男の子名前はシグナと言って、ジュリの幼馴染だ。もっと幼い頃は魔力が不安定で、よく周りに被害を出していた。


「ゆっくり僕に呼吸を合わせて」


彼も魔力を持っており、二人で手を合わせて魔力を循環させ落ち着ける方法はシグナから教えてもらった。


「うん、もう大丈夫だね」

「ありがとう」


家族以外で自分に笑いかけてくれる人はシグナだけで、ジュリは彼の事が好きだった。頻繁には会えないけれど、会えばいつもジュリの事を心配してくれた。





「お嬢さん、もうすぐ王都ですよ」


いつの間にか眠ってたようで、兵士に声を掛けられて目を開けると、眼前に見たこともない様な大きな街並みが広がっていた。村育ちのジュリには一瞬それが街だと理解できなかった。懐かしい夢を見てた気もするが一気に思考は霧散した。


すごい…ここが王様のいる場所


門番は兵士と顔見知りなのか、少し話すと特に問題なく通してくれた。

焼きたてのパンの匂いや綺麗に整備された道、同じ平民らしき人達の服装も心なし裕福そうに見えて、自分が見知っている村とは明らかに文明レベルが違うように思えた。


ジュリは馬車の中で、急に自分の姿がみすぼらしく思えてフードを目深に被りなおした。


「聖女試験を受ける人は沢山いるのですか?」

「魔力を持つ者は多いですが一次試験に受かる方はそうはいません。それにお嬢さんくらい幼い子も少ないかと…」


聖女試験は十歳から受けられるが、親が子供を手放したがらないからと兵士が小さな声で呟いた。


しばらくするとそれなりに大きな宿に着いた。

兵士にお礼を言って中に入ると、人がよさそうな女性が出迎えてくれて、ここは受験者の貸し切り宿なのだと説明してくれた。王都以外から集められた受験者は試験日までここで過ごすらしい。


荷物を置いて談話室らしき場所に行くと、二人の少女がお茶を飲みながら歓談していた。見るからに貴族の服装をしており、ジュリは部屋に入りかけた足を止める。


「あら、どなた?」


最初に気づいたのは、奥に座っていた金髪の少女で笑顔で話しかけてくれた。続いて手前に座っていた薄紫の髪色の少女もこちらを振り向いた。手前の子はジュリの姿を見て、あからさまに見下した目つきをした。


「掃除は後にして下さる?」


どうやらジュリの姿を見て宿の家政婦見習いと思われたらしい。うん、わかります…。

訂正をする気もなく、すみませんと謝罪してドアを閉め、足早に部屋から離れた。


あの人達も受験者なのかな?何人いるのかわからないけれど、あまり部屋から出ないようにしよう


平民からしたら貴族なんて、対等に話せる相手ではなく、何で怒りを買ってしまうかわからない。関わらないのが一番だった。

廊下を急いで進んでいると、ちょうど曲がり角で人とぶつかってしまった。


「すみません、大丈夫です…か…」


ぶつかった相手を見てジュリは青ざめた。先ほどの二人ほど豪華ではないが、どう見ても平民の服装ではない少年だった。受験者の一人なのだろうかと思う前に大声で怒鳴られた。


「気を付けろチビ!ぶつかったのが貴族だったら謝罪じゃすまねーんだぞ」


自分とそこまで背丈の変わらない子にチビと言われて、ん?と思ったがジュリは顔に出さないようにした。先ほどから謝ってばかりだなと思いながらも謝罪しながら、少年の先ほどの言葉が気にかかった。


「貴方は貴族じゃないの?」

「俺は商人の息子だよ。ああ、服装?派手だろ?親父が、聖女試験で王都に行くなら舐められないようにって商品の上物を着せられたんだよ」


お前は平民丸出しだな笑われながら、兄も同じように心配してくれたのを思い出した。


「今は談話室に行かない方がいいぜ。お貴族様が優雅にご歓談中だからさ」


もう行きました…


心の中で突っ込みながら、貴方も貴族が苦手なんだねと言うと勢いよく返された。


「貴族が好きな平民なんかいるかよ!あいつら俺らを働きアリくらいにしか思ってないだろ」

「アリ…?ならあまり関わらないように気を付けなきゃね」


人間ですらないのかと貴族をよく知らないジュリは考えを改めながら言うと、少年に怪訝な顔をされた。


「お前わかってんのか?試験を受けたら合否関係なく、魔術師養成の学園に入れられるんだぞ?貴族ばかりに決まってるだろ」


そうだ、国から多額の金が出たのは、後々に問題を起こさない為の示談金も含まれているだろうが、すでに四属性の魔力持ちとして有用な将来性が買われたからだった。そして魔力をもっているのはほぼ貴族だから、必然的にそうなるだろう。


「なぜ国はそこまでして聖女を求めるんだろうな?平民ですら強制だぜ?おかしいと思わないか?」

「え?」


これからの事を不安に思ってたジュリは唐突に全く違う方向の質問に呆けた。


「俺は商家の2代目になるはずだったのに、魔力があるってだけで、いきなり国に自分の将来は魔術師だと決められた。断れば、商売の許可申請とりあげるって言うんだぜ。めちゃくちゃだろ!聖女がどんなもんか知らないけど、そんな大層なもんならなりたいやつがいっぱいいるだろうから、お貴族様達の中から勝手に競って選べばよくないか?」


確かに四属性は珍しいと兵士も言っていたけど、ここには自分も含めて何人もいる。平民にまで大金をかけて探す聖女とは一体どんなものなんだろう。まるで聖女になる可能性のある人間は誰一人逃さないといわんばかりだ。


「宮廷魔術師の位はヒエラルキーの中でもかなり高い。ここが魔術師の産出国ってのもあるけど、それを平民に与えるのは貴族も面白くないんじゃないかと思うんだが…」

「私、そこまで考えなかった。ただお金がもらえるから家族が裕福になればいいと思って、自分がどうなるかなんて知らなかった。貴方は色々考えててすごいね」

「商人が情報大切するのは当たり前だろ?馬鹿じゃ騙されるだけだからな…もうなれないけど」


少し悲しそうにそう言った少年を見て、自分たちは己の意思に関係なく、家族の為にここに来たのは同じだった。けれど彼は家族と一緒の未来を捨てて家族を守り、ジュリは家族が幸せになれば自分が一緒の未来など必要ないと思っていた。


同じように家族を想っているようで、それは大分違う事のように感じた。


「お前が知らなすぎなんだよ。一次試験受かった時、兵士にも説明されただろ?」

「母ちゃんが話してたけど、私には何も言わなかったから…」


少年はジュリの生い立ちを何となく察してくれたらしく、ジュリの頭をぽんぽんと叩いてチビだもんなと笑って、雰囲気を和らげてくれた。


「俺はカルロ、十二歳。俺の部屋来いよ、暇だから基本的な国の情報を教えてやるよ」

「うん、私はジュリ、十歳」


やっぱりチビじゃんと言ったカルロの隣に並ぶと、背丈はそんなに変わらないように思えた。本人も何となくわかっているだろうが、虚勢を張る姿が微笑ましくて、指摘はしないであげた。

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