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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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魔術師の道具屋

そろそろ仮面舞踏会もお開きかなと思っていたら、色鮮やかな赤いマントが視界に映った。皆装いは煌びやかだったり、派手だったりするのだが、マントを身に着けている人はいないのでとても目立つ。


そして別の意味でも目立っていた。貴族は踊りがメインで飲食は嗜む程度が多いようだったが、その人物は、なぜかずっと飲食スペースの隅でもりもり食べている。


薄暗く顔が良く見えないので、少し近寄ってみると…。


「ジェイク…先輩?」

「あ?」


仮面もつけていないので、間違いようがなかった。何してるんですかと聞くと、お前はバカかと返って来た。むか。


「飯食ってるのが見えないのか?こういう旨いもんがタダで食える時には、食っとかないと」


それはジュリも全面的に同意する。


「そのマント、目立ちますね。お洒落ですか?」

「は~?お前、学院長の話全く聞いてなかっただろ」


ジュリはぎくりとした。なんか偉い人が話してるな~とは思っていたが、夢の世界に誘われていた。


「これはな、特化術師の証だ。試験終わって学年別の優秀者の表彰があっただろ?それとは別に、全学年で四つの属性のトップに送られるんだよ。おれは火属性の一番って事」


素直にすごいと思ったが、褒めろ敬えと言われて口が反射的に閉じてしまう。そして苦笑しながら、ぬっとジェイクの後ろから現れたのはレイリだった。


「ジェイクはそれで学院に入ったようなものだもの。こいつ態度横柄でしょ?でも実力がある奴には、この学校甘いのよね」


つまりは実力主義って事だよね


それはいい事だなとジュリが思っていると、レイリが思い出したように話を続けた。


「ああそうだ!前に言ってたカタスティマの事だけど…」

「えーっと…魔術師の売店でしたっけ?」

「そうそう!今年はちょっと早めに業者が入ってたから、近々行けるようになると思うのよね。良かったら一緒に回らない?穴場の店なんか教えてあげる」


授業日程が終わってから帰省支度の期間中に、行けるようになる場所らしい。これは話を聞いた時から楽しみだったので嬉しい。


一応カルロ達にも聞かないといけないので、返事はそれからにしてもらった。


最後にフロアを振り返って、仮面の少年を探してみたがやはり見つからなかった。本当に誰だったんだろうと少しだけもやもやして、初めての仮面舞踏会は終わった。




帰省期間は授業もないので、ほぼ自由に時間を使える。カレンやライは帰省組で、しばらく会えなくなるのがちょっと寂しい。


そして今日はジェイクやレイリたちと待ち合わせして、みんなで魔術師の売店に行く日だった。ジュリは昨夜、明日が楽しみ過ぎて寝られずに、寝坊してカレンに笑われた。


「どうやって行くの?地図には載ってるけど、こっちって壁しかないよね?」

「ああ、この時期だけ通れる専用通路があるの」


そして壁の前につくと、何人かの生徒も群がっていた。


「バッジがあるでしょ?それを壁に見せるように掲げて」


ライがバッジを壁側に突き出すと、ぎょろっと目玉が一つ出てきて、ライのバッジをじーっと見る。カルロが気持ち悪っと叫んでいる。


そしてパチッと目が閉じたと思ったら、今度はでかい口が出てきて長い舌がライに巻き付いたと思ったら、一口で食べられた。


「ぎゃー」

「うわあ」


ジュリとカルロが叫ぶのを見ながら、ジェイクがその反応を満足そうに笑っていた。


「最初はびっくりするわよね。カタスティマの店員たちが用意した通路道具らしいわ。結構古くからあるもので、もう店にも売ってないからどうなってるかわからないのよね」


レイリが慣れたように説明するのを聞きながら、ジュリはもうちょっと普通の通路は用意できなかったのかと思った。


絶対製作者、面白がって作ったよねこれ


ジュリが壁に向かってバッジを見せると、また目が出てきてじーっと見る。そしてなぜか口はないのに、笑われたのがわかるように目が細まった。


「えっなんか笑われたんだけど!」

「ああそいつね、階級で見下すみたいなのよね。私も一年でエナの時笑われたわ」


性格悪っ!


そしてべろんと舌が出てきたと思ったら、声をあげる暇もなく暗闇に引きずり込まれた。浮遊感を感じたと思ったら、ペッと吐き出された。


「あいたっ」


ぼてっと倒れるジュリに、大丈夫ですかと先に着いたらしいライが手を差し出してくれた。有難く手を取って周りを見ると、景色が一変していた。


「なに…ここ?もうすぐ冬だよね?」


空気がやや暖かく、春のように花が咲き乱れていた。


「何か魔術を使っているんでしょうか?」

「違うわ、魔術道具よ」


レイリたちもこちらに来たのか、慣れているようにすたっと着地した。


「魔術道具?」


ジュリが不思議そうに尋ねると、ゆっくりとある方向を指さした。そちらに目線を動かすと、沢山の店が広がっていた。


うわあ…私の村より大きいよ


魔術師の店というくらいだから、不思議な道具やらが売っているようなイメージだったが、食べ物も売っているようで何だかいい匂いもする。


入学準備で城下町を探索したことはあるが、あれほどの人気はないが生徒たちの楽しそうな声が響いていた。


「ほら行くぞ」


ジェイクがさっさと進むのを、レイリが待ちなさいよと続く。一年生たちもぞろぞろと後に続いていくのを見ながら、ジェイクは俺は引率の教師じゃねえってのと文句を言っていた。


並んでいる店の通りを歩きながら、ジェイクやレイリはたまに立ち止まっては、何か新しいものが入ってないかチェックしている様だった。


そしてそっちのババアはぼったくりだとか、こっちよりあっちの店の方が品ぞろえがいいなど、営業妨害まがいの情報を教えてくれる。


「お前寝坊したって言ってたけど、金持ってきたよな?」


カルロが話しかけてきたので、入学準備で余ったのがあるとジュリは鞄に手を入れた。


…あれ?


ジュリはやらかしたという顔をしながら、カルロは嘘だろという顔を返した。


「何しに来たんだよ…」

「うう…お金持つ習慣がなかったから…」


二人が話していると、横からそれを聞いていた店員らしき女性が笑っていた。


「ここは初めてなのかしら?お金がなくても大丈夫よ」

「えっそれはどういう…」

「おい反応するなチビ!金がなかったら身体ってのは、世間のお決まりだぞ」


せいかーいと言った女性に、カルロは警戒してジュリを守る様に自分の後ろに下げた。


「あらやだ。変な想像しちゃった?別に無理な事は言わないわ、ここは魔術師の店なんだからそれに見合ったものになるけど」

「見合ったもの?」

「魔力よ」


そう言って女性は、砂時計のような物をジュリの前に置いた。しかしなぜか砂が入っていなかった。


「これは?」

「これの上に手を置いてみて」


よくわからないが、言うとおりに置いてみたらなぜか砂が落ちてきた。


えっどうなってるの?


さらさらと流れる砂は何色も混じっているような色合いで、どんどん溜まっていく。すると引き返してきたジェイクに、あーあとため息をついた。


「おっ前何カモられてるんだよ」

「私カモられているの?」


人聞きの悪い事言わないでと女性が文句をいいながら、ジェイクの方を睨む。


「この子がお金持ってないって言ってたから、教えてあげたのよ」

「はあ?金持ってない!?お前何しに来たんだよ」


それはもうカルロから聞いたから!


「これはね、自分の魔力を目に見える形で換金するやり方ね。砂時計以外にもいろいろあるけど」


なるほど、これ私の魔力なのか


「貴方、四属性なのね。もうけ~」


お礼に店の物をなんでもひとつだけあげると言われた。


「この魔力が儲けになるの?どうやって使うの?」

「私達が作る魔術道具って、自分が持ってない属性の物も作ったりしなきゃいけないのよね。客の需要にこたえて。だから他人の魔力をもらったりするの」

「魔力をもらう?」


この砂時計は魔力を溜めて、それを他人が使う事もできるものらしい。なにそれすごい。


ジュリは同じような形の、小さめの砂時計を選んだ。同じように触るとさらさらと砂が流れていく。その色がとても綺麗で、ジュリはずっと手の中の砂を眺めていた。

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