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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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仮面舞踏会

学院祭は入学式をした講堂を使うようで、前に訪れた時とは別物といってもいいくらい飾り立てられていた。大きなスペースはダンスを踊るためだと思われる。


まずはお決まりの偉い人による長いお話。これだけの規模の開催をするなら、貴族の親を含めた沢山の出資者などがいるのだろう。


交流の場って言ってたから、それなりに大人たちにも利があるんだろうな


子供の縁組は家に関わる大きな問題なのはわかるが、それ以外の形で繋がれる機会も多いのが学院祭だ。ただ社交や恋愛だけじゃなく、色んな思惑が隠れてそうで貴族は大変だなあとジュリは思った。


「何他人事のような顔をしてるんだ?四属性の魔術師はそれなりにお誘いがあると思うぞ?」

「流石にこんなチビにはないだろ、まだ!」


カレンとカルロが話すのを聞きながら、そういうえば宮廷魔術師は貴族と同じくらいの権限を持てるんだっけと思った。そして元平民でもこれだけ優遇されるのに、少し違和感を感じた。ジュリは四属性と言っても何か特別出来るわけでも、能力が高いわけでもない。


「まあ誘われると言っても、一部の貴族だけだろうがな。侯爵は家柄を重んじるから同等の格式ある貴族相手を選ぶだろうし、男爵ほど低いと結婚相手の財力を求める場合もあるだろう」

「貴族って大変なんだね?私は平民だから何も持ってないのに、それでもお誘い何てあるのかな」


身分のみで相手を選べる子爵や伯爵などの中にはいるかもしれないと言われた。宮廷魔術師は栄誉ある位で、四属性を一族に入れるのを望む者も多いのだと言う。


そう考えると四属性で位の高い貴族のシェリアは物凄い数の縁談が来そうだ。それを抑えるために、幼い頃から相応の婚約者を決めるのかもしれない。


そんな話をしていると、各学年が出そろった場はとても華やかな雰囲気になった。

三、四年の各代表者が中央に出てきて、まずは一曲踊るらしい。


あっアーシャ様だ


綺麗なプラチナブロンドを今日は下して、薄い黄色のドレスを着ている。


「アーシャ様素敵だねえ。あの人の剣技もすごく綺麗だし」

「なんでお前が知ってるんだ?」


カルロが不思議そうに聞くので、術技大会での事を話すと、お前本当に人見知りしないよなと感心された。ライもそれが貴方のいい所ですよと何気に褒めてくれた。


「あの人は王太子の婚約者ですよ」

「王太子って、王様の息子?」

「そう、未来の王様ですよ。確かもう卒業されてるけど彼は魔術師コースを取ってたらしくて、なら自分は王を守る剣になるとアーシャ様は騎士コースを選択されたようです」


なにそれ!?アーシャ様男前過ぎない!?


そういう強い女性の恋物語が一時期流行ったそうだが、女性が騎士コースを取るのは、やはり適正も必要で今もそんなに多くない。


「かっこいいね。私も才能があったら騎士になりたいと思っちゃうくらい」

「二年生からは体術の授業もあるだろうから、武器を持てる機会もあるだろう」


うーん、華麗に剣を振るう自分の姿が想像できない…


そして踊りが終わると、それぞれの社交時間に移ったようだった。男性が女性を踊りに誘ったり、同性同士でお話したりと賑やかだった。


なるほど、踊りたい人は踊っていいんだね


ダンスも貴族の立派な交流のひとつで、男性が女性に好意を示すアプローチでもある。一年生は流石に少ないが、三、四年生は踊っている人も多かった。


ジュリはまず一年生の中でもかなり背が低い為、もし踊れたとしても身長にあった人でないと難しい。今の所カルロくらいじゃないだろうか。そう思ってちらりとカルロを見ると、なんだよと睨まれた。


特に話しかけてくる人はいないので、壁の花もとい、いつもの仲間で飲み食いしながら話していた。これはこれで楽しい。食堂のメニューと違いちょっと豪華でジュリには物珍しかった。


カレンは誘われたりしてたが、特に興味なさげに断っていた。おお、一刀両断…。


そして夕刻になると、一時中断してまた偉い人の長い話が始まった。ジュリはお腹もいっぱいだし、いつも以上に眠くなったが何とか耐えた。


その後何人かの生徒は会場を後にして帰って行った。多分仮面舞踏会に参加しない人たちなのだろう。





少し灯りが薄暗くなったと思ったら、仮面が配られた。両目だけを隠せるものと顔全体を覆えるものの二つで、ジュリは両目を隠せるものにした。


そして何か強い光がはじけたのが合図だったのか、皆がわあと騒ぎ出した。


「な…なんか不気味だね」


周りを見てぎょっとしながらカレンに話しかけた。仮面だらけの空間は異様な雰囲気で、ちょっと怖い。しかも先ほどの厳かな雰囲気と違って、開放的な賑やかさがある。


やっぱり貴族でもずっと畏まってるのは疲れるよね


右手を見ると、なぜかライが女性に囲まれていた。髪色と服装で仮面をつけていようがバレバレなのは分かるが、なぜにいきなりモテているんだろうか。


さっきまで全く声かけられなかったよね!?


「あの風体だからな。平民だからと気軽に話しかけられない身分の女性たちも多かったのだろう」


銀髪に女性と見紛うくらいの中性的な顔立ちは、年上のお姉さまにも大人気みたいだった。混乱してライを救い出そうとするカルロがぺっと弾き飛ばされる。格差社会…!!


そして左手をみるとそこにいるはずのカレンはいなかった。は、はぐれた…!?

学院祭よりも人も移動も増えていて、小さなジュリはほとんど視界に入らないようで、沢山の人にぶつかられた。


「いたっいたたっ」


その内踏みつぶされるのではと思っていたら、ひょいと掴まれて抱き上げられた。


「大丈夫?あちらに休憩スペースがあるから連れて行ってあげるよ」


顔全体を覆っている仮面をつけている人で、ジュリは一瞬びくっとなったが、ありがとうございますとお礼を言う。顔の表情で人を見ていたジュリには、無機質な仮面はとても怖く感じた。


柔らかい椅子に座らせてもらって、ふうと人心地つけた。


「一年生だよね?初めての仮面舞踏会は驚いだだろう。ここはまあ、ストレス発散の場でもあるから」


はあ、とよれよれしながらジュリが答えると、友達と仲良くやっているかと聞かれた。


「…?はい」

「どんな子か聞いてもいいかい?」


変な質問だなと思いながらも、親切にしてもらってのでまあいいかと答える。


「元商人の男の子で、とっても口が悪いけど面倒見のいいカルロって友達がいます」

「へえ、他には?」

「たまに年寄りっぽい事いうけど、丁寧に教えてくれる年上のライって男の子も…ああ、今あっちで女の子に群がられている人ですね」

「ほう、女の子の友達はいるのかな?」

「カレンでしょうか?人付き合いは苦手のようだけど、とても頼りになる友達です」


それを聞いて男性は黙った。仮面のせいで表情がわからなくて、いきなり黙られるととても怖い。


「その子と…」


何かを言いかけたと思ったら、いきなり身体が浮いた。


…はっ!?


誰かが酔っ払って何か魔術を使ったらしく、ここら一体の人達と椅子やテーブルが浮いていた。そして唐突に重力が戻って、落下する感覚に陥る。


そこまで高く浮いていたわけではないが、背の高さでそれは変わる。ジュリにとっては着地を間違えると怪我をするはめになる高度だった。


落ち…っ


ジュリは落ちて、床に叩きつけられたと思った。けれどむにょっとした感覚にあれっと目を瞬く。


よく見ると透明なものに覆われていて、泡沫の中に閉じ込められているみたいだった。そしてジュリが足を付けるとそれはパッと割れるように消えた。


「何これ?もしかしてシグナ?」


周りを見るがシグナはいない。代わりに目を隠す仮面をつけた男性が近づいてきた。


「大丈夫?ジュリ」

「え?」


背丈はジュリと変わらないくらいで、見た目からそれなりの位の貴族に見えた。

しかし仮面をしてても、にこやかに笑っているのがわかるこの少年の事を、ジュリは覚えがなかった。

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