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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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女性騎士

ジュリは、三年生の二人と進んでいたが小さなジュリは彼らと歩幅が合わない。はひはひ言いながらついて行ってるとレイリが気づいた。


「あっごめんね。そうよね小さいものね」

「だから荷物になるっていっただろ」


ジュリは無言で鞄を漁り、授業で習った水属性の陣がかかれた紙を取り出した。そしてそれをジェイクの前に広げて指でトンとする。


「ぐわっ冷て!!」


細い水がぴゅーと飛んで行ってジェイクにヒットした。満足したジュリがくるくると紙を戻すと首根っこを掴まれた。


「お前な~ほんとふざけんなよ!あの変態魔術師に言われてなきゃ、お前なんてここで捨ててってやるのに」

「え?もしかして師長に何か言われてるんですか?」


変態で誰もが通じる師長はやっぱりおかしいのだなと思った。


しまったというような顔をしながら黙るジェイクを見ながら、彼はそこまで嘘がうまいようではなさそうだ。


うーん?師長が関わっているならあまりいい事ではないだろうと、ジュリは聞かなかった事にした。


そしてレイリの方が何やらごぞごぞと魔術の陣をまとめたような物を見ていた。そして徐にジュリの方へ陣を向けて魔術を発動した。


「跳躍」


ふわりと緑の陣が浮かび上がったので風属性かなと思ってたら、ジュリの足元に暖かい風が巻き付いた。すると足がとても軽く、数メートルなら跳べるくらいの浮遊感もある。面白い。


「風の魔術ってこんなこともできるんですね!師長は風よとか炎よとか属性の名前を言ってる事が多かったので」

「応用魔術って言うのかな。術式は決まってるんだけど、人によって単語は変わったりしてもOKなの。ただ自分や周りの精霊に分かりやすく言ってるだけだから。ジェイクなんて“跳べ”だけだからね」


へーと聞きながらぴょんぴょん跳ねていると、そういえば傷は痛まない?と聞かれた。頭より足の怪我の方が酷かったので手持ちの回復薬を飲ませてくれたらしい。痛みも傷もないので今初めて知った。


お手数おかけしてすみませんと言うと、なぜかジェイクが全くだと怒り出した。


「前に師長に攻撃された時はシグナが助けてくれたんですけど、ちょっと喧嘩してたから出てきてくれなかったのかな」

「シグナ?」

「私の契約している精霊なんですけど」

「ああ、精霊ならまあ今回は仕方ないかもね」


その答えがよくわからずどうして?とレイリの顔を見上げた。


「精霊は魔術の攻撃には敏感だけど、物理の攻撃って言うのかな?そういうのに咄嗟に反応するのは難しいみたいね。彼らにはそもそも人間と同じ肉体がないから」


レイリは魔術師が指示するとか、顕現した状態なら別だろうけどねと続けた。


「そうなんですか」

「だから魔術師に攻撃するなら武器でってのは昔から言われてるわね」

「え?昔からって魔術師に敵対するような組織があるんですか?」


魔術師はこの国では尊敬されることはあっても憎まれる事なんて聞いたことはなかった。


「いるいる、どんな事にも反発する組織ってのはあるもんさ。魔術なんて人間が使っていいものじゃないとか、命がけずられるとか、悪魔を生み出すなんてのもあったな」

「悪魔…?」

「まあ、魔術師が優遇されてるのは本当だから、魔力が少なくてなれない貴族や平民なんかには不満が出るのは当たり前かもしれないわね」


そういえば、学院も出入りの人達の検査は厳しいし、門には常に雇われた兵士が見張りにいた。あれは魔術師の卵たちを、そんな者たちから守る為だったのかもしれない。


ただ何となく、悪魔と言う言葉がジュリの耳にしばらく残った。




しばらく進み、何度か罠やちょっとした攻撃も受けたが、ジェイクが騎士と言うだけあってそれなりに強かったので、ぼけっと見ているだけで良かった。やっぱり試練に慣れている上級生は強い。


そしてやっと行き止まりに扉のようなものが見えて、三人は近寄った。


「この扉、属性がかかれてないわ」


ジュリも背伸びして見てみたが、確かに何も書かれていない。無地のような状態の扉だった。


「じゃあ何もせずに開くんだろ」


そう言ってジェイクがドアノブに手をかけると、がぶっと噛まれた。ドアノブに。


「はあああ!?いてててて」


そしてそのままパカッと開いたが、扉の先は真っ暗な闇でジェイクを吸い込むような風が巻き起こった。


「くそっ…この…」


扉の角を必死に掴みながら、どうにか吸い込まれるのを耐えるジェイクにレイリが魔術を放つ。


「抱擁」


風の帯のような物がジェイクに巻き付いて、命綱のように扉から彼を救い出した。そして呑み込めなかった扉がそのままバタンと閉まった。


「あっぶねええ…罠か?」

「方角は間違ってないと思うんだけど、別の扉を探した方がいいかしら」


そんな事を言っていると急に扉が増えた、そしてさらに倍に、どんどん増えていく。


「え!?」

「どうやら逃げ出すのは許さないって事か?」


そしてランダムに何個かの扉が開いたが、今度は吸い込まれるものではなく、何体かの黒い獣が現れた。大きさ的には小型から中型でそこまでではないが、数が多い。


騎士がジェイク一人と、多分レイリは風属性が得意なら回復や援助系の魔術師だ。ジュリは水をちょろっと出す事しか出来ず、二人だけでこの数は無謀に見えた。


「お前はチビ守っとけ!」

「う、うん」


そう言ってジェイクは果敢に飛び出したが、すぐに囲まれて傷だらけになっていった。どう見てもすぐに限界が来そうな気がする。レイリはジュリを守るような魔術と、ジェイクに対する補助の魔術を使い続けとても辛そうだった。ジュリはポケットに入っている石を握りしめて使うかどうか迷った。


「水簾」


女性の声が聞こえたと思ったら、水の槍のようなものが獣に降り注いだ。そして舞うように剣を振るって獣をなぎ倒していく姿に、ジュリは目を奪われた。


水の騎士だ、かっこいい。それも女性騎士って珍しいよね?


一年生でも騎士は男性ばかりだった。反対に魔術師は女性が多かった気がする。


「大丈夫ですか、レイリさん」

「ルビィ?じゃああの人は…」


もう一人の女性は魔術師らしく、彼らも騎士と魔術師の二人組らしい。でも女性騎士って初めて見た…。

白に近いプラチナブロンドを一つにまとめて、少し高い位置で括っている。遠目からでもキラキラして見えた。


優秀な助けで粗方獣は片付いたようで、ジェイクともうひとりの女性騎士は剣を収めた。すると扉がひとつに戻り、四つの属性の記号が現れた。


「まさかアンタがここに残ってるとはな、公爵令嬢様」


公爵…?って確か王族にしかもらえない爵位じゃなかったっけ


そんな人が騎士になんてなるものだろうか?と思っていたらルビィと呼ばれる女性がやってきた。


「アーシャ様とお呼びくださいませ、ジェイク様!」


はいはいと言いながら、小さなルビィの頭をあやす様にぽんぽんと叩いて、彼女はむうっと膨れていた。何だか彼女とは仲良く慣れそうな気がする。


「四年生はもうほぼいないだろう、後は二、三年が少し残っている様だが」


一年はほぼ全滅したのかなと、知り合いの顔を思い出しながらジュリは心配になった。そしてじっとアーシャに見られてドキッとした。とても綺麗なアメジストの瞳をしている。


「小さいな?お前の連れか?」


ジェイクはお荷物と一言だけ答えていた。あとでまだ水をぴゅーっとかけてやろう。


「誰か回復薬持ってませんか?レイリさんがちょっと辛いらしくて」


ルビィがその場の人達に声をかけたが、レイリは自分に使ってくれた分が最後だったようで、ルビィたちは持っていたらまず尋ねはしないだろう。みんながここまで満身創痍だったのが伺えた。


「もしかしたら効かないかもしれないけど、私が…」


ジュリがそう言って鞄からごそごぞと漁っていたのは、自分で作った回復薬だった。なんか色がおかしくないか?とジェイクが突っ込んだが、レイリはそれを受け取って一口飲んだ。


そしてそのまま、起きなかった。


ジュリは獣は倒せなかったのに、三年生の魔術師を倒してしまい、ジェイクにとてもとても怒られた。

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