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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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上級生

ジュリは二人が落ちて行った落とし穴らしきものを、急いで覗き込んだが暗くて何も見えない。しかし遠くでローザの悲鳴とアルスの声のようなものが反響している。


「きゃああぁぁぁ…きゃっ何!?」

「ああああぁぁぁ…むぐっうわっちょっ」


何かにドスンと落ちたような音がした後、ばよんと跳ねるような音がしてそれ以降二人の声は聞こえなくなった。


最後の何!?そんな面白い退場の仕方されたら、悲しめないんだけど!


シェリアも覗き込んだが、これは無理ですわねとさっさと諦めた。確かに、降りてももう一度登れる手段はない。


「流石に怪我をしないような対策はされてたようですし、照明石があがってこないのでどこかに通じているのかもしれません」


そういえば、そんなものも渡されたなとポケットに手を入れて思い出した。


「でも多分、二人じゃ次の扉は進めませんよね?」

「ええ、どなたかと合流しなければ。けれどもうかなり人数は少なくなっているかもですね」


自分たちはそれなりに最後尾に近い出発だった。早い人はもうゴールについているかもしれない。結局人がいる間に進まないといけない早い者勝ち競争なのだ。


落とし穴を避けて踏み出したものの、人気はなかった。ここまでくると低学年は辿り着けず、高学年はもっと先まで行ってしまっているのか。壁も蔦のような物が這っていて、気持ちおどろおどろしい。


ジュリがおそるおそる進もうとしたら後ろで悲鳴が聞こえた。


「きゃああ」

「シェリア様!?」


蔦が意思を持った生物のようにシェリアに巻き付こうとしている。しかし彼女は炎の術式を使って蔦を焼き切った。


シェリア様すごい!陣を描かなくても魔術使えるんだ


ちなみにジュリはまだ出来ない。授業でも何度頭の中に思い浮かべても無理だった。


しかし蔦の量が多く、口や両手にまで巻き付いてきて流石に一人じゃどうしようもなくなってくる。ジュリも駆け寄ろうとしたが、目線を合わされ首を振られた。


どうしよう…!私じゃ助けられない


術式の紙は持っているが、今発動したらシェリアまで巻き込まれてしまう。細かな魔術はまだ習っていない。道具もやや毒よりの回復薬しかない。


「誰か…!」


ジュリは助けを呼ぼうと、出来るだけ大きな声で周囲に呼びかけた。すると誰かがジュリの横を風のように駆け抜けて、剣で蔦を切ってシェリアを救出した。


「え…あ、ディアス様?」


ディアスはシェリアを横抱きにして着地する。


おおっこれ騎士物語で読んだ!リアル騎士かっこいい!


そしてジュリの後ろから大丈夫?と声をかけてきたのはカイルだった。二人は偶然近くにいたのか、ジュリの声を聞いて駆けつけてくれたようだ。


「お二人がいてくれて助かりました。ありがとうございます」

「僕は何もしてないけどね、君達二人だけで進んできたの?」


そう言われて、アルスとローザが一緒だったが落とし穴に落ちたことを説明した。


「方向音痴のアルスがひとりで?それはすごいな」

「むしろアルスがここまで来れたことが奇跡だな」


カイルたちのアルスの評価は相変わらずで笑ったが、特に心配していないのは信頼の証かもしれない。多分。


シェリアが降ろしてくださいませとディアスに訴えていたが、彼は聞いているのかいないのか、微動だにせずに真正面を見つめながらそのまま抱えている。そこはかとなく桃色の雰囲気が漂っているような気がしないでもないのは気のせいだろうか。


「シェリアどこか痛めた?なら離れないようにそのままの方がいいかもしれない。ここは僕らでも迷って未だに扉を見つけられないから」

「カイル様達は迷ってたんですか?今まで分かれ道はありましたけど、そこまで迷うような道じゃなかった気が…」


二人が言うには、進むにつれて道が変化していくらしい。それで最初は三人組だったはずなのに、一人はぐれたとの事。


このまま固まって進もうという事になり、ジュリはシェリアを助けようとして入り口付近に投げ出した荷物を取りに行った。これでよしと思いながら肩に掛けたら背後からドゴッという大きな音がしてびっくりして振り向いた。


「え!?」


なぜか今までいた場所に壁が出現して、カイル達と分断されジュリは孤立した。どれだけ分厚いのか特殊な加工がされているのかあちら側の声は全く聞こえない。


いやいや、今まで道だったじゃない!?そんな何の前兆もなく変化するの!?


いきなり一人になってしまったジュリは一気に不安になりながら当たりを見回した。進める道は右しかなかった。


結局一人で進んでいくと前方に二人ほど人がいた。目の前に大きな壁があるからジュリと同じく塞がれてしまったのかもしれない。声をかけようと近寄ってみるジュリだったが…


「火炎」


……え?


「貫け!」


男が何かしら術を発動したのか赤く光った剣を、壁に向かって勢いよく振り下ろした。すると壁は砕けたが衝撃と粉々になった石の破片が当たって、ジュリは昏倒した。






男性と女性が何か言い争っている声が聞こえる。


「だからージェイクは大雑把すぎるのよ。もっと綺麗に切りなさいよ」

「そんな細々した事が俺にできるか!」


ジュリが目を開けると道端に寝かされていた。その周りに知らない二人の男女がいて、年齢はジュリよりかなり上のように見えた。


「あ、目が覚めた?ごめんねえ~この馬鹿のせいで。小っちゃくて可愛いね、一年生?」

「おいチビ!いるならいるって言っとけ!こんなの気付くはずねーだろ」


この男の人、気性がカルロっぽい


「私は魔術師コースの三年レイリ、こっちの馬鹿が同じく三年騎士コースのジェイクよ」

「魔術師コースの一年のジュリです」


よろしくと握手して、どこも痛いところがない事に気づく。もしかして薬か魔術か何かしてくれたのかもしれない。


話し方から貴族ではないのかなと思って見ていると、ああと気付いてくれたようで笑って話してくれた。


「貴族の挨拶ってお堅いよねえ、彼は平民だし私も貴族って言っても親の爵位は男爵だから、気軽に話してくれたら嬉しいな」


ん?平民?平民で騎士ってすごいんじゃなかったっけ?


記憶を漁っているとジェイクがジュリに話しかけてきた。


「それで、一年が何でここにいるんだ?一人で来れるような所じゃないだろ」


はぐれてしまった事を話しながら、そういえばこの人たちもなぜ二人なのか聞いてみる。


「…?術技大会は魔術師と騎士の二人組が基本だろ?毎年種目が違うから何があるかわからんが、魔術と武力の両方がないと進めない事が多いからな」


知らなかったのかだせえと笑われて、ジュリは無言で睨んでいたがレイリに大人げないと叩かれていた。


レイリが危ないから一緒においでと言ってくれたが、ジェイクは荷物を増やすなと文句を言っている。もしかして荷物って私?


「アンタ仮にも騎士でしょ。弱きを助けなさいよ」

「俺はそういう綺麗な志は持ってないんだよ、せめて金をよこせ」


騎士どころか追いはぎのような発言をするジェイクを見ながら、カイルと会ったら喧嘩になりそうだなとジュリはひっそり思った。


レイリが透明な板のような物を出して、魔力を使うと矢のような物が現れてくるくると回ったと思ったら一点を示した。そしてこっちねと進みだす。


「それ、なんですか?」


手渡されて見てみると板の上に、風属性の記号と何かが混じったような模様が書かれていた。方位がわかるものらしく、これは便利だなーと思った。


「カタスティマに売ってるわよ、ええっと敷地内にある魔術師用の売店と言うかあれはもう小さな街ね。一年生が行けるようになるのは年の終わりくらいだったかな」


へーとちょっとわくわくしながら、寮に入る時に見た地図に店が並んでいるのを思い出した。


「で、お前属性何個?一個?二個?」


話をぶった切ってジェイクがジュリに話しかけてくる。口を尖らせながらジュリは答えた。


「四個です」

「え?じゃあ聖女候補なの?ここまで来れたのも納得ね」


いやそれは偶然です


それを聞いてジェイクは怪訝な表情になり、何かを思案しながらさらに質問してきた。


「聖女候補?もしかして水の高位精霊とか持ってないよな」

「え?水の精霊と契約はしてますけど」


何で知ってるの?と思いながらジェイクを見上げると、しばし間があってジュリをじろじろと見た後にはあと特大のため息をついた。


なんなの!?


よくわからないながらも、ジュリはとりあえずついて行くしかなかった。

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