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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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始まりの日

「私、受かるなんて思ってなかった…。落ちれば母さんも納得してくれると思ったのに…どうしよう?きっとこの村には帰ってこれない、シグナと会えなくなるよ」


幼馴染のシグナはいつもの優しい顔で笑ってくれた。


「大丈夫だよ、ジュリがどうしても助けを求めている時は必ず助けに行くよ」

「本当に?約束してくれる?」


そんな事出来ないことはわかってたけれど、たわいも無い約束がジュリは嬉しかった。




少女ジュリは、辺境の田舎の村で六人兄弟の長女として育った。

一般的な平民の暮らしは豊かとは言い難い為、長男以外の子供を早くから奉公に出す親も多く、十歳のジュリも例外ではなかった。しかし、数日後に赴く場所は商家に奉公ではなく王都だった。


この国では公には人身売買は認められていないが例外があり、ある条件を満たした子供は、多額の金銭と引き換えに宮廷が預かるという形をとる。


世に言う“聖女試験”と呼ばれるものである。


昔、ジュリの親に聖女とは何なのか聞いてみたが、親もよくわかってはいないようだった。なぜなら、聖女と呼ばれるものはおとぎ話に出てくるくらい現実味のないもので、本当にいたかどうかわからないものだそうだ。しかし、ある程度の基準を設けている様子を見ると、国は聖女の詳細をもっと知っているのかもしれない。


第一に魔力があること

第二に属性は四つであること


ここまでが一次試験で、貴族から平民まで受けられる。

一般的に魔力をもつ者は位の高い貴族に多いが、平民の中にもまれに現れる。

しかし、平民は魔力のあるなしを調べることなど出来ないので、偶然貴族に見初められるか、明らかに日常生活に実害がある程の魔力を持ったものでないと一次試験など受けられない。


ジュリは後者で、村では魔女と呼ばれ蔑まれていた。

聖女が敬われ賛美の象徴とするなら魔女は反対に侮蔑や嫌悪として使われる。


両親ですら村中にいい顔をされないジュリをあまり快くは思ってなかったようで、聖女試験の一次に通った時は、珍しく御馳走が出た。


奉公に出る事も、王都に行く事も構わなかったが、両親が自分を手放すことを喜ぶ姿が少し悲しかった。そして幼馴染とお別れしなければいけない事も。


出発の日、迎えに来てくれた兵士に挨拶をしていると、一番上の兄だけが見送りに来てくれた。妹や弟たちはそもそもジュリがなぜ、どこにいくのかすら知らない。


「大丈夫か?俺も王都で働けるくらい頑張るから…お前ひとりに辛い思いはさせないから」


村では疎まれ、両親からは見て見ぬふりをされたジュリを不憫に思ったのか、両親以上に可愛がってくれたのが兄のリクだった。


「…兄ちゃんは下の子達をよろしくね」


平民が出世する道はそう多くない。まして王都なんてこんな田舎の村出身の者に仕事を与えるほど人材に困ってはいないだろう。それでも兄の気遣いは嬉しくて、胸が暖かくなった。


「何でそんなに聞き分けがいいんだよ?お前が泣いて嫌がるなら、俺が一緒に逃げてやってもよかったのに」

「そんな事できないよ、お金もいっぱいもらえて家族が喜んでくれて私嬉しいよ?」


こんな気味の悪い子を育ててくれた親には本当に感謝していた。だから、家族を好きなうちに離れておきたい気持ちもあった。


兄は悲しそうな顔をしてもう何も言わなかった。


大丈夫、私は絶対に家族を困らせたりしない



悲しみも陽だまりの様な懐かしさもジュリの十年間は全て村だった。

しかし郷愁を感じるにはジュリはまだ幼く、初めて見る村の外の景色を見ながらこれからの事を考えていた。




そして聖女試験を受けに王都にやってきたジュリに下される適否の無情さをこの時は思いもしなかった。

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