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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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巨大迷路

扉の先に出てきたのはどこまでも続く迷路のような場所への入り口だった。ジュリよりも何倍も高い壁に囲まれた威圧感ある空間に足が竦む。


ここって学院じゃないよね?どうなっているんだろう


場所的には訓練所に続く広い空間ではあるが、こんなに面積のある場所でもなく、もちろん沢山の壁に囲まれてるわけでもない。


そんな事を思っていると先生たちから注意が入る。


「ギブアップする場合は照明石を地面に叩きつけて割ってくださいね~。光が垂直にあがるのでその場から動かないように」


そういえば、始まる前に各自に石が渡されていた。これはそういうものだったのかと石をポケットから取り出して見る。淡い黄色の小さな石だった。


「この迷路も術式でしょうか?素晴らしいですね」


シェリアが楽しそうに迷路を見る中で、上級生たちは我先にと中に突進していった。そして状況がわからなくて右往左往してた一年生たちは取り残される形となった。


「私達はゆっくり参りましょう。どうせ上位入賞は無理ですもの」

「あら、競技は全力でやらなければ楽しめませんわ」


あまり乗り気でないローザと違ってシェリアはやる気満々だった。シェリア様って大人しいだけの令嬢じゃなかったんですね…!


一年生たちがバラバラと出発する中で、ジュリ達も一緒に扉の向こうに飛び出した。中の通路は思ったより広くて三人が広がって歩いてもまだ余裕がある。所々穴の開いている場所や焦げたような跡があるが、あれはもしかして罠だろうか。


何個かの分かれ道を進むと、行き止まりに扉のようなものがあった。扉に何か模様のような物が書かれている。


「これは火属性の模様ですね」


あっそうだ、授業で習ったフォティアの記号だ


しかしそれが何の意味があるのだろうか?不思議に思いながらジュリが扉に手を置くと、フォティアの記号が一瞬光ったと思ったら、扉が消えた。


「え!?」


びっくりして二人を振り返ると、シェリアはキラキラした笑顔で面白そうな顔をして、ローザは面倒くさそうな顔をしていた。対照的なお嬢様方が面白く、ローザは進めないならもう退場する気だったに違いない。


「私は何もしてないんですけど」

「そうですね、わたくしも見ていましたがそんな素振りはありませんでした。なら扉に何かしらの仕掛けがあったと思うのが妥当です」


扉の先はさらに道が続いており、行き止まりの場所も通れるようになった。とりあえず進みましょうとシェリアに促されて、ジュリ達は扉のあった場所をくぐる。


すると不思議な事に、今通った場所を振り返ると壁になっており、引き返せないようになっていた。


はっ?どうなってんの?


「まあ、進むしかないという事でしょうね。行きましょう」


先ほどと同じような通路に罠の跡があり、誰かが通った後だとわかる。扉を開ける方法は間違ってはいないのだろう、たぶん。


そしてしばらく進んでいくと、行き止まりに先ほどと同じような扉があった。今度は火属性の模様ではないものが二つ並んでいる。


「えっと…これは」

「ネロー、水属性の記号ですね」


そうだった、自分が水が得意属性なので術式の授業でやったはずなのにすっかり忘れている。これは試験の前にかなりの復習が必須だなとジュリは思った。


今度も同じように扉を触ってみるが何も起こらない。


「…??開かない?」

「ならここで終わりですわね」


ローザ様、諦めが早すぎる


ふとシェリアがジュリと同じように扉に手を置くとネローの模様が二つ光って、扉が消えた。


「あっ…!」

「この模様は同じ属性を持っている魔術師が触らなければ開かないんですわ。そう考えると、四属性を持っている私達はかなり有利な試験ですね」

「なるほど!あれ?でもこれって競争競技ですよね?協力してやるなら人数がかなり残ると思うんですけどいいんでしょうか」

「まだ最初ですからね。いきなり少人数になってしまっても面白くないでしょうから」


そういうもの?と思いながら進んでいくと、今度の道は戦闘があったのか荒れ果てていた。もしかすると進むにつれて危険度が増してくるのかもしれない。


迷路の分岐も倍ほど増えていて、どっちに進もうか悩む場面も出てきた。


「なら分かれて探しましょうよ」

「それは流石に危険だと思います」

「そうですね、扉を見つけてもまた同じ仕様なら結局人数がいりますし」


ローザの分かれて探す意見には、二対一でジュリ達のまとまっていた方が良いとの意見が採用された。


一番右の道を選んで進んで、扉が見えたのは同じだったが今度は先客がいた。


「アルス?」

「おっ誰か来るの待ってたんだよね~」


なぜかアルスが扉の前で座っていた。周りに人気はなく一人のようだった。


「なぜお一人で?」

「あと二人いたんだけど、一人は勝手に別行動、もう一人で罠にかかってリタイア」


うわあ…と思いながら確か彼は騎士で組み分けをしていたはずだ。ただいつもの三人組ではなかったらしい。


「カイルとディアスは別の組だよ。騎士は少ないから三組くらいしかいないけどね」


そういえば属性別に分かれた方がいいとか言ってたような?アルスの得意属性は他の二人とは違うって事かな?


扉を見ると土属性の記号二つと風属性の記号が一つ書かれている様だった。


「ここで君達に会えたのは幸運だね。属性に対する縛りがないなんていいなあ」

「けれど私達は三人しかいませんから、結局最後まで進むには人が必要ですわ」


最初の扉はひとりでも開いたが二つ目の扉は二人必要だった。何個開ければ終わりなのかわからないが確かに人数集めが必須そうだった。


「何となく、アルスはカイル様たちといつも一緒だから一人だと不思議な感じだね」

「ははっまあ間違ってないかな。多分僕の人生はずっとカイルの側だと思うし」


どういう意味?と聞いたら、アルスの家系はカイルの家系の護衛というか側近として代々仕えているらしい。カイルの父親が団長だが、アルスの父親も副団長で今も共にいるらしいとの事。身分も侯爵と伯爵と近いものがあり、生まれた時から自分の将来は決まっていると言った。


「カイルがまあいい奴だからさ、僕はいいんだけどね」


そう言ったアルスの横顔は確かに嘘ではないのだろうが、少し憂いを帯びているようにも見えた。


「…アルスがもし他にやりたい事があるならカイル様は応援してくれるんじゃないかな。絶対に父親に倣わなきゃいけないの?」


アルスはふっと笑ってジュリの頭を撫でながら言った。


「貴族間の友好関係ってのも結構大事なんだよね。でもそうだな、もし僕に何かやりたいことができたらカイルに相談してみるよ」


それはどこか諦めの入った、心配してくれるジュリを宥める為だけの言葉に聞こえた。いつも明るい彼の背景が少し曇ったような色を帯びていることにジュリは初めて気づいた。


「さっさと進みましょうよ、人数は足りているのでしょう?わたくしさっさと終わらせたいのですけれど」


そんな思考をぶった切ったのは肉体労働はお好きでない、そろそろ限界に達しそうなローザの言葉だった。


アルス、ジュリ、シェリアで扉を触るとそれぞれの模様が光り、扉が消えた。それを見計らってさっさと進もうとローザが足を踏み入れた瞬間、あるはずの足場がなくそのまま落ちてしまう。


「きゃあ」

「ち…うわっ」


アルスが俊敏にローザの手を取るが、片方の手で身体を支えるものを掴むことが出来ずに二人一緒に落ちて行った。

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