術技大会
そろそろ一年が半分も過ぎようとした頃、授業の前に担任の先生が組み分けを決めますと言い出した。ジュリは何の組み分けなのかわからず、首を捻りながら隣のカルロに聞いた。
「ねえ、組み分けって何かするの?」
「年間行事の書かれた冊子貰っただろ?入学式に」
確かに入学式には沢山の文字の書かれた書類がいっぱいあった気がする。ただ、ジュリはその頃文字が読めなかったので、ちゃんと読んだ記憶がない。
何の行事なの?と期待を込めた目でカルロに続きを促すと、嫌そうな顔をしながら答えてくれた。
「術技大会だよ。一年から四年まで参加する結構大きい行事」
「それは何をするの?」
うーんと唸りながら、カルロもよく知らないようだった。まあ当り前だ、自分たちは一年生なのだから。するとひょっこりとライが会話に加わってきた。
「競走競技でしょうか。教師たちが仕掛けた罠を、自分の魔術で潜り抜けて一番早くゴールしたらご褒美が待っているのだとか」
ご褒美に反応したのがカルロだったが、それは詳しく知らないと言うと興味が失せたようだった。
「お前なんでそんな詳しいの?」
「年の功ですかね」
また年寄りくさい事をいいながらライは笑みを浮かべた。
組み分けはなぜか属性別で別れた方がいいらしく、四属性を持っている聖女候補たち六人は三人ずつわかれる事になった。
箱の中に二種類の色の水晶が入っていてそれをひいていくのだが、最初に引いた三人でなぜかすでに組み分けが決まってしまった。
カルロ、カレン、ライの三人とジュリ、シェリア、ローザの三人に分かれた。蒼白なジュリにカルロ達三人が気の毒そうな顔で見てくる。
そんな目で見るなら代わって…
学院に通って暫くたつが、シェリア、ローザとはあまり話したことはなかった。同じ四属性でも平民と貴族では派閥が違うので、日頃から一緒にいるという事は殆どない。
「ごめんなさいね、貴方達四人が仲が良いのはわかっているのだけど」
「そんな、シェリア様のせいじゃないのに謝らないで下さいよ」
「そうですわ、私達が嫌ならお一人で行くといいと思いますわ」
なんかすでに仲が険悪なのだけど…
「元々二年生からは組み分けなんてありませんもの。能力の低い一年が組むのは危険を避けるためでしょ?結局優勝者は一人なんですから、最後まで全員一緒に行動する決まりはありませんわ」
「そうなのですかー優勝者のご褒美って何なんでしょうね?」
ローザのきつい言葉を全部スルーするジュリに、シェリアがうふふと笑って答えてくれた。
「私達一年生が優勝する事なんてまずないでしょうね。殆どは三、四年の方々ばかりでしょう。技術も知識も学年が上の方には敵いませんもの」
まあそうだろうなと思いながら、では当日はよろしくとそれぞれ席に戻って行った。それを見計らったようにカルロが近づいてきて、結構仲いいじゃんと言われた。
「うーん?私が知らな過ぎて色々説明してくれてただけだよ。でも危険もあるっぽいね?魔術師同士で戦ったりしないだけいいけど」
「俺たち戦えるだけの術はまだ習ってないだろーでも競争なんだから上級生ではそういうのもあるんじゃないか?」
ちなみに自身が契約している精霊も含めて、道具も何でも有りな大会らしい。ちょっと不安に思いながらも授業とは違う行事イベントは楽しみだなとジュリは思った。
そして大会当日、一年から四年までの生徒が一斉に集まり、こんなに多くの人混みを見るのは入学式以来だった。今日はローブではなく魔術師たちは動きやすい術着で、騎士たちは簡易鎧のような物を着ていた。一年生はほぼ手ぶらだが、二年生から上はかなり道具やら防具やら着こんでいて本気度が伺える。
「ハイ、みなさん~今日は楽しい楽しい術技大会です。自分の成長を試すチャンスでもありますので頑張ってくださいね~」
挨拶はミハエル先生で今回の大会の責任者でもあるそうだ。では今回の優勝者への祝福ですがと続くと、周りの目の色が変わった気がした。
ん?
「レヴィン先生からは防護石、ミルゲイ先生からは超美白薬、私からは邂逅術が贈られます。またもちろん、成績評価にも繋がるので出来るだけ上位を目指してくださいね~」
美白薬くらいから女子の目の色が変わり、邂逅術で生徒からものすごい歓喜の声があふれ出した。
な、なに!?怖いんだけど
一年生は皆ぽかんとして、上級生たちの熱気についていけないようだった。
「邂逅術って何!?そんなすごいものなの!?」
「俺が知るかよ」
横のカルロとひそひそぼそぼそやってたら、カレンが学院の恋愛イベントだと話しかけてきた。
「邂逅術ってのは、探したい人がいる時に使えばその人と会えるものらしい。ただ学院ではそれは好きな人に使えば思いが通じるとかなんとか。実際は術で無理やり相手を自分の目の前に攫ってくるような力業の術らしいから通じるも何もないと思うがな」
貴族の令息や令嬢が多いのに積極的すぎる…!
むしろ普段礼儀作法にうるさい人ほど、燃えるのかもしれない。気軽に好きな人を誘ったり、誘われたりも対面を考えると難しいだろう。
「学院の人って恋愛に対する意欲がすごいんだね」
「実際卒業後は、家の為に政略結婚がほとんどだろうからな。自由な学生の間は好きな相手と過ごしたいだろうよ」
「そうなの…」
好きな人と両想いになっても、身分的なもので結ばれないのは悲しいなとジュリは思った。ただ位の高い貴族に生まれたという事は相応の恩恵も受けているわけで、義務として果たさなければいけないものも多いのだろう。
「そういう意味では平民の方が自由に感じるね」
「端から見ればそうだな。ただ個人の幸福度なんて他人には計れないからな。私は平民でも十分だと思っていたが、貴族の権利は活用させてもらっている…必要だったから」
そういえばカレンは貴族に引き取られたと言っていたが、あまりよく思ってない印象だった。簡単に大人しく従う性格には思えないが、貴族相手だとやはり逆らえないものなのだろうか。
お母さんに説得されたとか?一緒に引き取られたのかな?
何となく浮かんだ疑問だったが、今話す事でもないだろうとジュリは大会の事に集中することにした。
一年生は最初のうちは、組み分けごとに固まって行動するらしい。シェリア達を探していると、見つけたには見つけたがなぜかカイルたちといる。
「シェリア様!カイル様!」
ジュリが駆け寄ると笑顔でごきげんようと言われた。
「今日は頑張りましょうね。わたくしとても興奮して昨日はよく眠れませんでしたわ」
「シェリアは変におてんばな所があるからな」
うふふと笑っている二人を見ながらジュリは不思議に思う。
あれ?この二人って顔見知りなのかな?かなり親しいような気がするけど
そんな事を思っていると後ろからアルスに肩に手を置かれて、声をかけられた。
「わあっ」
「ふふっあの二人仲いいでしょ~さすがは婚約者だよね」
ジュリはいきなり現れたアルスにびっくりして声をあげてしまったが、それを見かねたディアスにアルスが叩かれる。
なんとシェリアとカイルが婚約者だった事実に驚いたが、二人とも上流階級の方だと思ってたのでお似合いではある。
「俺たちは幼馴染なんだ」
「そうそう、それで幼い頃に両親が身分的に釣り合う二人を婚約者にしたんだよね。仲はいいけどあの二人に恋愛感情はないんじゃないかな~」
アルスがねえ?とディアスの方に返答を求めたが、俺が知るかとばっさり切られていた。
そんな事を言っていると最初の競技の準備が整ったようで、どこからともなく大きな扉が現れた。そして扉が開くのと同時に、皆の熱気が高まって行った。