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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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暴走

シグナはジュリを抱きしめた腕を緩めて、片手を取って誘うように中庭に出た。

そして中庭の小さな池の中に飛び込むように落ちた。


「はっ!?」


それを見ていたカルロとカレンは、何をしているのかと追いかけたが、池の中には誰の姿もなく二人は忽然と消えた。




「わっ」


水から顔を出して、ジュリは横で手を繋いでいるシグナを見ながら言った。


「いきなり何するの!?…!?あれ?ここどこ?」


池の中に一瞬沈んだだけと思ったが、再び水面に顔を出した時周囲の景色は学院ではなかった。森に囲まれた湖畔のようで、ジュリが見覚えのある場所ではなかった。


「二人で静かに話したかったから、近くの湖に繋げたんだ。水のある場所ならどこでも行けるからね」


しかも湖からあがるとなぜか服は濡れてなかった。彼が何かしたのだろうか?


「シグナは本当に人間じゃないんだね」

「僕が嫌になった?」


ジュリはびっくりして急いで首を振った。


「私がシグナを嫌いになる事なんてないよ!でもなんで言ってくれなかったの?」

「ジュリは魔力を嫌悪していただろ?それなのに魔の者と契約なんて、失望されるかなと思ったんだ」

「私はシグナと契約したの?いつ?会った時の記憶も曖昧なんだけどシグナは覚えてる?」


そうか、ジュリは覚えてないよねとシグナはなぜか納得したような顔で頷いた。


「ジュリは幼かったからね。君は命が危なかったんだよ?契約は精霊と魔力が混じるから、一時的に生命力が増すんだ」

「え!?私何か事故にでもあったの?それでシグナが助けてくれたの…」

「まあ、うん…それだけじゃないけど。きつい記憶みたいだから僕が少しだけ手を貸して曖昧にしてるんだ。ただ、契約を解除したら思い出すと思う。ジュリがもうちょっと大きくなるまでは思い出してほしくないから、解除はしないで欲しい」


少し言い淀んだシグナの言葉に引っかかりながらも、多分ジュリの為に言ってくれてるのがわかるので肯定した。


「解除したらシグナとお別れしなきゃいけないんでしょ?だったら私も嫌だよ。精霊だから、人間だからとかで一緒にいたわけじゃないもの。私とシグナは友達でしょ?」


ここでやっと不安そうな顔をしていたシグナが笑ってくれて、ジュリはほっとした。


「良かった。ジュリの反応だけが怖くて本当の事を言えなかったんだ」

「私もずっと村にいたら今も、魔力を持った異端の自分を恨んでいたかもしれない。でもここに来て、同じように魔力を持ったいろんな人と会えたから。自分が特別じゃない、みんな同じだよと言われる事がこんなに嬉しい事なんだなって知ったの」


話を聞いていたシグナは少し曇った表情をして、じゃあ僕はもう必要ない?と聞いてきた。


「シグナはシグナだもん。誰の代わりにもなれないよ。また会えて嬉しいし、傍にいてくれるなら一緒にいたい」

「うん」




湖にもぐって再び顔を出すと、今後は学院の池だった。シグナはいつの間にか居らず、池からあがると今度はびしょ濡れだった。ジュリに気づいたカルロとカレンが飛び出してきて、駆け寄ってくる。


「お前、どこに行ってたんだよ!?服のままどこかで泳いでたのか?」

「あれ?二人とも待っててくれたの?」


そんな事をいいながらくしゃみをすると、カルロが自分のローブを抜いてジュリに被せてくれた。そのまま風呂に直行するぞと手を取られた瞬間、カルロの頭上から水が降ってきた。


突然びしょ濡れになったカルロにカレンも目を丸くする。


「は、は~~??何だよこれ!」


カルロは自分の頭上を見上げて、何もないことを確認すると今度は腑に落ちないように怒り出した。


「不思議だな?誰かがバケツでもひっくり返したのか?」

「誰だよっ」


結局二人で濡れネズミになりながら、寮の風呂に急いだ。




次の日の授業は師長の魔術の授業だった。謹慎中でも授業だけは彼にしかできない事もあるために、穴をあけるにはいかず、参加が認められたようだ。


「では前回は精霊召喚を行ったので、召喚陣を作成しましょう。これは自身の精霊の召喚を手助けする事にもなります。言うなれば、精霊と自分との間に瞬間的に繋ぐドアを作ってあげるようなものでしょうか」


それぞれの属性で一番簡単な陣を教えてもらって、各自取り掛かっていたが、ジュリだけ師長に招かれて教卓の方へ行く。


「高位精霊はちょっと陣が複雑なんですよね。簡単な陣でもいけなくはないんですけどちょっと負担がかかるので、二度手間にならないためにも最初からこっちにしましょう」


そう言われて見せられた陣の模様を見て、ジュリは顔がひきつった。


これを書けと…!?ちょっと…?これでちょっと複雑なの?


僕も手伝うのでと、二人で作業に移った。かなり難しくて、ジュリはもたもたしながら進める。


「そういえば、君の精霊とはお話はできましたか?」

「はい。和解出来ました」

「そうですか…あっそこ違いますよ」


そう言って、師長がジュリの手をとって書き順を教えようとした瞬間、水の薄い膜のようなものが現れて師長の手を弾いた。


「おや?」

「え?」


何が起ったかわからないジュリに、師長が失礼と言ってさらにジュリの手を握った。すると水の膜が針のようになり師長の方へ飛んで行った。


「水よ」


師長の周りに似たような水の膜が現れて、水の針を飲み込んだ。ジュリがぽかんとしているとジュリの後ろに姿を現した人物に驚いた。


「ジュリに触らないでよ」

「シグナ!?」


師長はまた会えて嬉しいですと呑気に挨拶している。周りの一部は気付いたようで、またあの惨状になるのかと避難をはじめた。


「なっなんで…?」

「精霊は嫉妬深いと言ったでしょ?君、彼と主従契約してないでしょう」

「主従…?」

「精霊を従わす方法です。個性はありますが、こんな風に生活に支障をきたすと困りますしね」


ジュリはシグナを見ながら、やめてと言ったが聞き入れてもらえない。


「なんで?シグナは村でも優しかったし、誰かに敵意持つような子じゃなかったよ?」


ただ、村ではジュリはシグナと一緒にいても、誰かを交えて話したことはなかった。いつも一人でいたからこんな前例は起きなかったとも言える。


「どうしますか?ここでまた被害がでるようなら、僕が彼を服従させなければいけません。けれどそれは彼も望んでいないでしょう。貴方が止めることが出来ますか?」

「…やります」


ジュリはぐっと拳をにぎりしめてシグナと向き合った。


「シグナ、やめて。ここには私に危害を加える人はいないよ?シグナが力を使ったら教室がめちゃくちゃになっちゃう」

「そこの男は前にもジュリに危害を加えたでしょ?大丈夫だよ、ここがどうなってもジュリだけは守ってあげるから」

「シグナ、そうじゃないの。ここには私の大切な友達もいるの、無関係な人を巻き込むのはダメだよ」

「僕はジュリだけが大事。他はどうなってもいい」


どうしよう、シグナは私を大切にしてくれるけど、他の人にその気持ちを向けてくれることはないの?


ジュリは考えて考えて、どうにかシグナに思いとどまってもらおうとさらに続けた。


「…シグナがこれ以上、私の友達を危険に晒すなら、契約を解除しなきゃいけない。でもそれは嫌だよやめてよ」


契約を解除と言われて、シグナは師長に対する戦闘態勢をといた。そしてわかったと言ってすうっと目の前から消えた。辺りが静けさを取り戻すと師長がジュリの元にやってきて、興味津々で聞いてくる。


「本当にできるとは思いませんでした。どうやったかお聞きしても?」

「これ以上暴れるなら契約解除するって言いました」


師長はふむと言いながら少し怪訝な顔をした。


「それで、首輪もつけず大人しく従わせたんですか?精霊は必ずしも契約者の言葉に従うわけではないんですけどね。意に反するような事なら尚更…」


それは師長が酷使している可能性はないのだろうかと思ったが、ジュリは黙って聞いていた。師長は少し考えている様子でさらに続けた。


「どうしても契約解除したくない理由でもあるのでしょうか?貴方の精霊は興味深いですね」


契約解除したくない理由…?


それはあの時話してくれた、ジュリとの出会いに関係しているのかなとふと思った。

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