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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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再会

あれから三日経ち、ジュリの魔力は戻ったと思うのにシグナは出てきてくれなかった。


「チビの精霊だったとはなあ…」

「人型をとれるってのは高位精霊の前提条件みたいなものらしいな」


師長に聞いたシグナの事をカルロやカレンに言うと、特にジュリを不気味がったりはせずに、二人ともそうなのかくらいの返答が戻って来た。精霊よりも師長の暴走の方が印象が強いらしく、カルロはまだ悪態をついていた。


「それでジュリさんは彼を精霊として使いたいのですか?」


ライの質問にジュリは思いっきり首を振った。


「シグナは友達だもの。出来ればもうあんな風に戦ってほしくはないよ…」


高位という事はそれだけ強力な力を持っているのだろう。傷つけたり、傷つけられたりと危ないことはして欲しくないというのが本音だった。


「カルロの精霊は温かそうでいいよね」

「だろ?なんかかっこいいよな!赤ってのもいい」


珍しく無邪気な子供みたいにはしゃぐカルロをみてちょっと笑ってしまった。男はかっこいい玩具が大好きだからなとカレンがぼそっと呟いた。


「でもシグナ出てきてくれないの。どうしてだろ?」

「正体をバラすのは不本意だったんだろ?顔を合わせにくいんじゃないのか?」


それも聞きたいんだけどとジュリが言うと、カレンは思いついたように話し出した。


「召喚ってのはこちらから呼びかけるものなんだろう?待つだけじゃなくて呼ぶことはできないのか?」

「あ~なるほど。でも契約した精霊ってどうやって呼ぶのかな?授業の精霊召喚の方法とは多分違うよね」

「そういえば、師長はどうやって精霊を召喚してるんだろうな?陣のような紙は持ってなかっただろ?なのに、何体もポンポンと召喚できるものなのか?」


師長が精霊を呼ぶ前に手を掲げると、陣のようなものが見えた気がしたのを思い出した。きっと師長なら詳しく知っているだろう。




「ダメです」


師長と話がしたいとミハエルに許可を取りに行ったら一蹴された。


「レヴィンちゃんは反省中だから魔術に関する事を断たせているの。いつも四六時中、研究や実験をしている分、それがないと物凄く大人しくなるのよ~おもしろいわよ~」


だから急ぎじゃないなら謹慎が解かれるまで待ってねと言われて、それ以上何も言えなかった。


「あの、ミハエル先生。契約した精霊を呼び出す方法知りませんか?」


シグナと会いたいのに会えない事を説明すると、契約した精霊は名前を呼べばよいと言われた。契約した時に精霊は自分の名前を相手に伝えるのだという。


そうなの!?とカルロの顔をみると頷かれた。話せない生物ですら、契約時に名前が頭の中に思い浮かぶらしい。ミハエルはそれを、名前を読み取り支配するという表現に置き換えた。


「ただ精霊側は呼ばれてることが分かっても契約者がどこにいるかわからないから、すぐには来れないのよね~。だからそれを助けるために、召喚陣を携帯したりしてるの」


そう言って、ミハエルは腕輪のような物を見せてくれた。真ん中の宝石に陣のような模様が見えた。


「まさか、師長の手のあれって…」

「レヴィンちゃんは面倒だからって自分の両掌と甲に陣を彫っちゃったのよね~も~狂気的よね」


ジュリは痛そうな方法に青ざめ、周りも大体同じような感想のようだった。


陣の種類も何個かあるようだが、一番簡単な属性の陣で名前を呼ぶ方法を教えてもらった。ジュリ達は中庭で、先生に借りた召喚陣の布を広げて試してみる事にした。ライは用事があるからと途中で別れた。


「私、精霊召喚も一度も成功してないんだよね。なんか嫌な予感がするんだけど…」

「やってみないとわからないだろ」

「う、うん…」


自信なさげに水の陣に魔力を注ぎながら、シグナの名前を呼んでみた。しばらく待ってみたが、うんともすんとも言わなかった。


ほらねー!


心の中で悲しい突っ込みをしながらジュリはカルロ達に情けない顔を晒した。


「精霊が呼び出しを拒否なんて出来るのか?契約意味なくね?」


カルロの言葉にまったくですよねと同意の言葉が返って来た。が。

カレンもジュリも声を発していなかった。三人はは?と辺りを見渡すと、なんと小さな妖精のようなものが一輪の花を持っていた。そしてなぜか声は花から発しているように見える。


「契約によっては精霊は拒否できるんですよ」

「うわっきもちわるっ」


淡々と話しだす花にカルロは思わずそんな事を言っていた。


「この声、師長じゃないか?」

「あっ本当だ。でも今は謹慎のはずじゃあ…?」


カレンと不思議がって花を見ると、花が笑い出した。これは気持ち悪い


「ふふふ、僕はちゃんと自室にいますよ?魔術も使ってませんし、これは別の方に協力してもらっているのです」


それは屁理屈と言う名のズルでは…?


怪訝な面持ちの三人の思いは一致した。


「精霊の…彼の事が気になるのでしょう?ミハエル先生に尋ねていましたよね?」


どこで聞いてたんですかね?


「強制召喚の陣をお教えしましょうか?僕も彼にとても興味があるのですよ」

「そうしたらシグナは絶対召喚されるのですか?」

「ええ、貴方の前に」


ジュリは少し考えるように黙った。そして、顔をあげて花に向かって話しかけた。


「シグナが望んでいないのに、無理やりそんな事はしたくないです」


彼は精霊だが、ジュリにとっては大事な友達だ。そんな風に契約者の特権を振りかざすと、彼と築いてきた関係が壊れるような気がした。シグナはこんな形での再会は望んでいなかったのに、それでもジュリを助けに来てくれたのだ。


「シグナがまた会いたいと、思ってくれたらでいいです」


カレンもカルロも笑って同意してくれたが、目の前の花だけはそうですかと少し残念そうだった。



先生に召喚陣を返すからとカルロとカレンに先に寮に戻ってもらおうとしたが、待ってると言ってもらったのでジュリは急いでミハエルの元に向かった。途中夕日が沈むのを渡り廊下から見ながら、ジュリは物思いに耽った。


本当はシグナに会いたかった。ずっとずっと会いたかった。許されるなら、どんな方法でも会えるなら試してみたかったのがジュリの本音だ。


でもそんな事できない


理性が本音を押しとどめるのは彼が同じくらいとても大切だから。


「シグナはもう私になんて会いたくないのかなあ」


悲しい独り言を言ってしまうと、思わず涙が溢れてしまいそうだった。ジュリは村では無表情に徹していたが、シグナの前だけでは泣いたり、笑ったりが無意識ながら出来ていた。


少し顔を伏せて、自分の影を見つめているとゆっくりと何かに包まれるような感覚があった。


「え…?」


後抱きにされていて顔は見えないが、少し低い体温と森のような清々しい香りは覚えがあった。


「ごめんね、ジュリ」

「シグナ…」


背が小さいジュリは後ろの人物にすっぽりと抱き込まれる形なっていたが、身体を器用に反転させて懐かしい顔をみあげた。


「シグナ…!ずっと会いたかったんだから!」

「うん、ごめんね。泣かないでよ、僕と会う時いつもジュリは泣いてるよね。悲しいの?」


ジュリはシグナにしがみついて頭をぶんぶんと振った。


「じゃあ笑ってよ。ジュリの笑顔が見れるのは僕の特権でしょ?」


優しい笑顔の幼馴染に促されて、ジュリは笑った。




「笑ってるな、あいつのあんな顔初めて見た」

「でも、泣いてもいないか?」


ジュリを迎えに来た二人は、こっそりと一部始終を見ていた。そしてカレンはカルロを見ながら、ぽそりと言う。


「悔しいか?」

「は?」

「なんか、そんな顔してる」


面白くなさそうなカルロの顔を見ながら、カレンは意味深な笑みを浮かべた。

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