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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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救護室

夢を見た。

ジュリは長女のはずなのになぜか自分の上に姉がいる。

姉は泣いてジュリを責めていた。


ごめんなさい…ごめんなさい…


姉に手を取られて暗い方へ進んでいく。


そして途中で反対の手を後ろから掴まれて、振り返る。




目を開けると、何人かが言い争っているような声がする。


「流石にやりすぎだと思います」

「けが人が出てないのが不思議なくらいですね」

「いや、僕たち吹っ飛ばされて救護室に運ばれたけど」


ふっと周りを見回すと、カルロやライそしてアルス達騎士三人組が視界に入った。そして扉の開く気配がしてミハエルとカレンが入ってきた。


「あ、気付いたか」


カレンがジュリの様子に気が付いて声をかけると、その場に者たちが一斉に振り返った。


「ジュリさん良かったです」

「ジュリちゃん~ごめんね守ってあげられなくて。あの三つ編み魔術師ほんと頭おかしいよね~」

「今後あの先生にだけは、常識を語ってほしくはないな」


それぞれが好き勝手言ってるのを見て苦笑していると、ミハエルの後ろからその三つ編み魔術師が入ってくる。


「目が覚めたのですね、良かったです」


笑顔でそういう師長と対照的に、その場の人物たちの顔色がお前がいうかと怪訝な顔色に曇る。


「先生、今回は小さな女生徒にあんまりです。何の説明もなく僕らもただ混乱するばかりで、何も出来ませんでした」

「手荒な事をしたのは謝ります。ですけれど、彼女は自分の精霊を止める術は持ってなかったでしょう?」


精霊…?


よくわからないという顔をするジュリに師長は説明しましょうと言ってくれた。そしてひたすらうるさすぎる周囲に、貴方達黙ってもらえますかと言っても聞き入れてもらえなかった為、追い出してしまった。


室内には師長とミハエル、ジュリの三人だけとなった。


「何から説明しましょうか。何でもお答えしますよ」

「あの…精霊って、シグナは精霊だったんですか?私はずっと人間だと思ってたんですけど」


ちょっと不思議だなと思う所がなかったわけではなかった。どこに住んでいるのかもわからないけれど、会いたい時にはいつもいて、ジュリの事情などをよく知っていた。


「僕が貴方に何かしら精霊と契約しているのではないかと思ったのは、聖女試験の時です。他人と魔力の循環をして気持ち悪くなったでしょう?」

「はい」

「高位精霊は他人の魔力に敏感です。低級なら問題はそこまでないのですがね、授業で説明した通り他人の魔力を拒絶する事が多いのですよ。だから僕は魔力の循環は出来ません」


そういえば、聖女試験では師長は見ているだけで、他の魔術師が循環役になっていた。彼らは高位の精霊と契約してない者たちなのだろう。


「ただ、それだけでは精霊の正体がわからないので…まあ実力行使と言うか、精霊たちは契約者を攻撃されると守ろうとするので出てきてくれるかなあと思ったのです」


途中楽しくなって夢中になってしまいましたがという師長の言葉は捨ておく。


「でも、私シグナと契約なんてした覚えないです。水晶の花だって渡したことはないし」

「彼とはどこで出会ったのか覚えていますか?」


シグナと…?あれ?


「5歳くらいまではずっとひとりだったのは覚えているんですけど、いつの間にかいたような…」

「それはおかしいですね?幼いから記憶が曖昧だと言うのも理解はできますけど…。呼び出したのか、偶然出会ったのか…」


うーんと考えている師長にもよくわからないようだった。


「契約については、実は水晶の花、自分の魔力になるんですけど、それでなくてもいいんですよ。魔術師の一部、髪や大事なものとか。血は精霊は嫌がりますからね」

「大事なもの?」

「まあ、覚悟の強さというかそれによって契約内容に違いが出たりしますね。例えば魔術師の名前なんかでも契約できるんですよ」


シグナはジュリの名前を知っている。契約したとしたらそれだろうか?


「名は時に体を縛りますので、かなりリスクの高い契約でもあるのですよ?だから僕は自分の名前を普段教えませんし、魔術師たちの名前もあまり口にしません」


そういえば、師長はジュリの名前を読んだことはあっただろうか?


「私達が知っている師長の名前…はもしかして偽名ですか?」

「ええ、そうですよ。よくわかりましたね」

「貴族は領地の名前か姓を名乗るのだと教わったので。師長はどうみても良いとこの方な気がします」


師長は一瞬ふっと笑ったが、その顔が今まで見たことのない顔だったので不思議に思った。


「え…っとじゃあシグナはどうなったのでしょう?いませんよね?」


ジュリはキョロキョロと周りを見回したが師長とミハエル以外に人気はなかった。廊下でもぞもぞ人の気配がするのは、カルロ達かもしれない。


「彼は、貴方の体調がもう少し良くなるまでは出てこないかもしれないですね。枯渇は酷いと命にかかわりますし」

「枯渇?」

「魔力の枯渇です。僕が貴方の魔力をぎりぎりまで奪ったのです」


最後のあの首をつかまれた動作だろうか。とても寒くて、具合が悪くなって意識がなくなった。


「精霊が人の姿や実在あるもののように顕現できるのは、魔術師と契約しているからです。彼らは僕らと違う世界に属するものですからね。だから貴方の魔力が尽きれば、あの少年は実態を保つことは出来ないというか、無駄に貴方の魔力を奪い続けて生命を脅かすことになるんです」


最初に師長が言った、ジュリはシグナを止める術がないはこれに繋がるのか。大元の力を断って契約している精霊を無力化したという事なのだろう。…たぶん。


「私がそんな事になって、シグナは大丈夫だったのでしょうか。し…死んだり…」

「精霊が死ぬというのはあまり聞きませんね。別の精霊や魔物に食われるという事はあるみたいですけど、今回蒼龍さんは彼を止めただけです」


ジュリは少しばかりほっとして、シグナが無事ならよかったと思った。


「ただ不思議なのが、彼は貴方に精霊だとも契約の事も言ってなかったのですよね。なぜでしょうね?言いたくない事情があったのでしょうか?」


それはジュリも思った。シグナは村でも徹底的に人間のふりをして、ジュリに接していたはずだ。


「こればかりは彼に聞くしかないでしょう。精霊として貴方の前に出てくるのも本意ではなかったでしょうから、うまく話し合いをされてください。そし是非、僕とお話を…」

「はい、ストップ」


ジュリと師長はそう口を挟んできたミハエルを同時に見た。


「レヴィンちゃん、貴方校舎の修繕を忘れてないわよね~?そしてその後にしばらく謹慎が決定事項として通達されると思うから確認しとくようにね?」


師長がげっと言うとミハエルがお話は終わりよね?じゃあ行くわよと師長をひっぱってどこかに出て行った。もしかして校舎を直しにいったのだろうか?でもどうやって?


彼らが出て行ったと同時に、カルロ達が入ってきて大丈夫かと心配された。師長の信用は地に落ちたようだ。


「あの三つ編みどこに行ったんだ?」

「多分、壊れた校舎を直しに行ったみたいだよ?どうするか知らないけど」

「師長は建築魔術もできるのですか?へえ、さすがですね」


建築魔術は水と土などを掛け合わせた専門魔術になるという。才能はあるのに、性格に難があると大変だなとジュリは思った。


シグナと次はいつ会えるだろう


少し気怠い身体を起こして、周りの友達の明るい声の中で、ジュリはひとりあの水色の髪の少年の事を思っていた。

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