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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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別れ

ミカと温室に入ると何故かカレン達だけでなく、たくさんの精霊がいた。


何これ!?


ジュリが入り口付近に立ち止まって目を丸くしていると、カレンが説明してくれた。


「最初は普通に作業をしていたんだがな、学院祭が終わったらすぐに卒業式だって話になって…なぜかこうなった」


説明を聞いてもよくわからず、何か薬のような物を作っている師長に目を向けるとちょうど目があった。


「僕らの頃は卒業式は自身の精霊も一緒に祝う行事だった、という話をしたんですよ。そしてこの魔物が好きな…そうですね、お酒のような物を配って騒ぐのです。まあ、暴れた精霊に校舎を破壊されたり、怪我をする生徒が続出したのですぐに禁止になりましたけど」


カルロが大昔は生徒の扱いが適当だったんだなと言うと、師長から僕を何歳だと思ってるんですかねと突っ込みが入る。


「この温室のみなら僕の結界があるので、出してもいいですよと言ったんです。最後ですから」


師長がお酒のようなものを作る為に、また薬草を引っこ抜いているのはいいのだろうか?


「そっか、なら私も呼ぼうかな。みんな楽しそうだし」


そしてジュリは火と風と土の精霊を呼ぶと、カズラはさっそく順応してみんなに溶け込んだが、オトは静かに隅の方でちびちび飲んでいる様だった。うーん、個性があるな。


そしてランはあいつはいないのですねと小さく呟いて、興味深そうに他の精霊たちに近づいて行った。ジュリもいつも側にいた水の精霊がいないのが寂しく感じた。


ミカはジュリの隣に座って、普段は見れない友達の精霊と交流を育む。ジュリの首に赤い襟巻みたいなものが擦り寄ってきた。


「ジュリに懐いているね。下位みたいだけど知ってる精霊?」

「あっカルロの精霊だよね。最初の召喚の授業で見た気がする!元気そうだね」


赤い毛のふわふわと戯れていると、いきなり尻尾を掴まれたと思ったらそのままどこかに飛んでった。


「えっ!?」


後ろにはちょっと酔っぱらっているランが馴れ馴れしいとご立腹である。


ちょっと!?ふわふわちゃんを投げ飛ばしたよ!?


基本精霊は嫉妬深いと聞いたのを思い出した。シグナは特別あれだったが、ランも酒の勢いと同じ火の精霊だったのが癇に障ったのだろうか。


そして今度はキッとミカを見据えてさらに絡んでくる。


「私はこいつも気に入らなかったのです。“私の前で偽りは通用しない”お前は何を企んでいる?」


あああこれダメなやつ


すっとランの魔力が広がった気配がしてジュリは慌てた。ランは厳正の精霊で、彼の前で嘘をつくと炎に焼かれてしまう。どうにか魔力の効力を解こうとする前に、ミカが口を開いた。


「僕はジュリの為にならない事はしない。いつだってジュリの味方だよ」

「奴のような事を…」


ランが歪めた顔で呟くと、酔いが回ったのかそのまま倒れた。奴とは多分シグナの事だろう、二人とも仲が悪かったからね。



それぞれが騒いでいる途中で、ミカが空を見上げて呟いた。


「…過ぎたね」

「え?」

「このくらいの時間だったでしょ?」


その言葉でジュリは何を言っているのか理解した。二人にしかわからない、あの惨劇の時間である。


「もう大丈夫って事かな?」

「さあ、けれど今日はもうあの日の時間と繋がってはいないって事だね」

「そっか…」


ジュリは安堵のようなどこか不安の残るような、長い息を吐いた。


「ジュリはこの時間で満足しているんだよね。なら過去は変えない方がいいと思う」

「どういう意味?」


そしてミカはみんな揃っているから丁度いいと、白い便箋を五枚出した。


「これは今から僕たちが書くんだ。過去のジュリに向けて」

「過去にって…書かないとどうなるの?」

「確証はないけど…この手紙を受け取ったのは僕たちには過去だ。けれどこれからしなければいけない未来でもある。過去を変えれば別の時間軸が生まれるけど、するべき未来を変えてもまた変化するんじゃないかと思うんだ」


ミカは危険は出来るだけ排除しておきたいと言った。ジュリにはよくわからないが、自分たちは手紙に助けてもらったのだ。ならば助けを求めている過去の自分がいるなら、同じように助けてあげたい。


皆を集めると、ミカが事情を知らないカイル達に説明する。


「へえ、でもなんでこんなに複雑な文章にしたの?わかりやすく書けばいいのに」


アルスの指摘に大変頭を悩ませたジュリも賛同する。


「指定場所を七不思議にしたのも、当事者に見つからない事を警戒しての事なら文章もそうだろう。第三者に見つかって二人の名前があればどうする?」

「…どちらかに届ける?」


そっか、そういう危険もあるんだ


「あと断定した未来にしない為でもあるな」

「わっ」


ジュリの後ろからアガレスが顔を出すと、師長が興味ありげに近寄って話しかけていた。そういうの後にして!


「未来を細かく断定すると、その通りに動かないと今の未来に続かないかもしれない。けれど曖昧にしておけば、過程は少し違っても結果が同じなら同じ未来に続く…。何の指示もなければ僕たちは同じように行動するだろうからね」


ミカが考える様にもらった手紙と同じような文章を書いていく。


「そういえば、ローザ様にも出すの?指定場所に捨て置かれたみたいだから他の人の方がいいんじゃ…」


ジュリの指摘にいや…とミカが首を振った。


「結果的にジュリの手元に来たのなら、変えない方がいいと思う」


そして五枚の手紙を書くと、ミカはにやにやしたアガレスに向き直った。


「これを過去に届ける事はできるか?」

「出来るよ。そうだな、一枚につき寿命一年分でいいぜ」


ジュリは何となく予想は出来ていたが、それを聞いたカイル達が目を向いた。


「はっ!?どういう事?」

「おいおい、何の代償もなく人間が時間に関与できると思ってるのか?当然相応のものをもらわないとな」

「わかった」


ジュリが即決したのを聞いて、カレン達も揃ってこちらを見た。ジュリがここに居るために何を払ったのか予想できたのだろう。


「ちょっと待て。なら私も払うものだろ?共に協力したのだから」

「ああ、そうだな。俺達にも払う事は出来るんだよな?」


カレンとカルロの言葉に、アガレスは頷いた。


「まあ、そうだね。皆ですれば負担はそれだけ軽くなるんだろ?」


カイルとアルスが頷きあっているが、ジュリは皆にそんな事をして欲しくて巻き込んだわけじゃない。けれどそれを押しとどめる様に、ミカも当然でしょとジュリの手を握った。


「時間の魔術はそう見れるものじゃないですからね。是非僕も間近で見たいものです」


師長がアガレスに詰め寄っているのを見ながら、結局全員で手紙を届けた。過去のジュリ達に向けて、少しでも幸せな明日に繋がる事を願いながら。




それから間もなく卒業式だった。ジュリの保護者は兄だけだったが、ものすごい顔で泣いていたのを見つけて目を逸らした。


ジュリはカイル達の側に行って、シェリアの事を尋ねた。卒業式はローザは出席しているが、シェリアは眠ったまま、ディアスも参加していない。


「目覚めたらきっと連絡するから心配しないで」

「…何か手助けする事があったら遠慮なく連絡してね」


きっと目が覚めても、ジュリの事は覚えていないかもしれない。けれど許されるなら、またシェリアと友達になりたいと思った。魔術師としてじゃなくても。


次にカルロとカレンの所へ行くと、なぜか見知った人物がいた。


「なんでジェイク先輩が?」

「警護の雇われだよ。ついでに後輩の卒業姿を見ようと思ってな。お前でっかくなったなー」


ジュリは胸を張って見返したが、それでもジェイクの顔を見あげるのは首が痛い。身長では結局カレンやカルロにも勝てなかった。


「カルロはローザ様とローブを交換したの?」


色の違うローブを見ながら目を細めると、チョップを食らった。痛い。


「ローブは仲のいい友達でも交換していいんだよね。カレンが誰かと交換しないなら私としない?」

「ああ、別に構わない」


特に恋愛イベントに興味なさげなカレンが、ジュリのローブと交換してくれる。二人とも聖女候補なので同じ黒だが、カレンの方が少しだけ大きい。


「何か、いっぱい色んな事あったのに、あっという間だったね…」


そう言葉にだすと涙がぼろぼろ出てきた。悲しい様な寂しい様な、そしてどこか幸せな様な気持ちで泣くのは初めてだった。


「うう~みんなに会えて良かった。一緒にいてくれてありがとう」

「最初の頃と違って、随分気持ちを出せるようになったじゃないか」


カルロが笑ってカレンが抱きしめてくれた。あまりに涙が止まらなくて真っ赤になった顔を見て、ジェイクが洗ってこいと送り出してくれた。余程酷かったらしく、泣きじゃくる兄を思い出しながら、やはり兄妹だなと思った。


途中ミカが話しかけてくれて花束をくれた。自分があげた花束を思い出して、ジェイクには悪いことをしたなと今更思う。


「ジュリ、卒業おめでとう。ねえ、卒業したらジュリは一度村に戻るの?」

「え?うん、そのつもりだけど。確か見習いに現場に行くのは始業式よりも遅かったから…」

「それ、僕も行っていい?…シグナを眠らせてあげるんでしょ?」


そう言われて、突然現実に引き戻されたような心地だった。ずっとシグナの石を持っているわけにはいかない。水の魔力の強い土地、つまり最初に出会った湖に帰してあげるのだ。何十年、何百年か後魔力を蓄えて再び目覚められるように。


「…そうだね」


どこかで奇跡が起きて、今の今までまたシグナと会えるんじゃないかと思っていた。そんな都合のいい夢をずっと見ていたかった。

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