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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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後悔と覚悟

学院ではカレンやカルロからライの様子を聞かれた。


「元気そうだったよ。口には出さなかったけど、二人に会いたかったんじゃないかな」


それを聞いた二人も口には出さないが、少し柔らかい表情になった。お互いにそんな気持ちを持ち続けてたら、会えなくてもずっと繋がっていられるような気がした。


「そういえば師長?ライの報酬って…」

「ああ、もう渡しましたよ?宿に着く前に質問を渡されたので、宿を出た時に書いた答えを渡しました」


いつのまに?と目を見開くと、思い当たる事はあった。師長はひとりで見学していたが、最初本を読んでいるのかと思ったらそれを台にして何か書き物をしていたようだった。


あれがそうだったのかな?でも何を質問したんだろうね?


慎重な師長が、重要な言葉を紙に残すなんてしないような気もする。当たり障りない事を遠回しに書いたんだろうなと思った。それでもちゃんと対価を支払えたならいいかとジュリはそれ以上何も言わなかった。


そして今回は流石にカイルやアルスにも説明しないと納得はしてもらえなかった。あれだけ協力してもらったので、カルロ達に話した部分だけを二人にも説明する。


「シェリアが…」


自分よりもずっと付き合いの長い幼馴染の事なのだ。二人とも忘却薬を作ったのを知っているので、その用途を心配するような顔をした。


「それ…他の方法はない…んだよね?」

「ありますよ。犠牲がたったひとりで済む一番簡単な方法が」


そう答えた師長をカイル達が睨む。流石に察したのだろう、二人ともその方法は反対のようで、ジュリは少しほっとした。


「僕は命が助かるならそっちの方がいいと思う。生きていれば何とかなる事だってあるだろ」


カイルらしい言葉にジュリも少し頷いた後に、アルスが小さな声で続けた。


「僕だったら今までの記憶を失うのは自分ではなくなる事と同義だから…少し怖いかな。何かを失う事で死んだ方がマシだと思う事だってあるしさ。シェリアみたいに深く心に刻み込んでるものがないからわからないけど」


友達の立場だから僕は助けたいけど本人はどうなのかとアルスは言う。


私はシェリア様を助けたいだけで、どう思うかなんて考えてなかった…?


ジュリが呆然としていると、ミカが手をとって引き寄せる。


「そんな事、ジュリが考える必要はないよ。もう遅いから明日考えない?」

「え?あ、うん。そうだね、最後の手紙が明日くるはずだから…」


蟠りを残したまま、その日の会合は終わった。



次の日、寮の前にミカが待っており、すでに白い手紙を持っていて、ジュリに手渡してくれる。


「最後の手紙は僕に来た。持ってきたから、わざわざ待ち合わせ場所に行く必要ないだろ?」


それいいのかな?と思いながら手紙を開けると、日付と待ち合わせ場所だけ書かれているだけで白紙だった。ジュリは目を瞬きながら、手紙とミカを交互に見る。


「…どうして?」

「実質的にもうやる事はなくて、これは僕がジュリの所へ行けってだけの意味なんじゃない?だって僕がこの計画の最後の鍵だろうから」


意味がわからなくて首を傾げると、ミカが薄く笑った。


「この手紙はジュリにしかわからないように、わかりにくく書かれている。しかも一人ずつひとけのない場所に呼び出して。それは当事者たちに知られたら警戒されるし、計画そのものが失敗に終わる可能性が高いからに他ならない。そしてこんな風に書けるのは未来を知っているジュリか僕、そして説明できる師長しかいない。けれどあの人はそもそもこんな面倒な事はしてくれないだろ」


師長の今までの言動から、確かにそうだなとジュリは思って頷く。


「ジュリはこんな風にあた…文章を考えるのは難しいだろうから、きっと僕が考えたんだと思うよ」


多分頭を使う事は苦手だろと言いたいのはわかったが、あえて突っ込まない。だってその通りだから。


「最後に何をしろとは書かれてないけど、僕の役割はわかる。忘却薬はそのままじゃ満足に使えないんでしょ」

「うん。ライに作ってもらったけど五年分の効果しかないって言われた。これで何とか出来たらいいけど確実な保障はないかな…」

「だから僕が魔術の上掛けをする。効果を二倍くらいにあげればいいんでしょ」


は?


何を言っているのかわからずジュリはミカを二度見した。


「そんな事できるの?人間の記憶を操るのは魔術でも難しいって…」

「確かに人間が魔術だけでどうにかするのは難しいね。ただ今回は忘却薬もあるし…ジュリの持っているシグナの魔力を借りればどうにかなると思うよ」


シグナの名前に反応して、ジュリは咄嗟にポケットの石を服の上から確かめるように抑えた。


「使うって…何するの?」

「そんな警戒しないでよ。シグナはもう顕現できないけど死んでるわけじゃない。忘却の魔力の使い方を有効活用するだけだよ。他の人間はそんな事ジュリに頼めないだろうし、僕にしか出来ない」


精霊を武器化出来るのは隣国が証明している。ジェイクが使っているのも間近で見ていたジュリは、それが可能なのは知っていた。


けど…


「シグナをそんな事に使って大丈夫なの?」

「魔力を絞りつくせばわからないけど、今回は僕の魔力を主に使うから。ただ忘却の構成式は人間には未知のものに近いから、出来れば精霊のものを使いたい。心配ならジュリも一緒に手伝ってよ」


魔力を上乗せするくらいなら全然協力するが、ジュリにはひとつだけ心配事があった。


「シェリア様は本当にこれを望んでいるのかな…?」

「そんな事ジュリが気にする必要ないって言ったでしょ?」


そう言われてもどうしても納得できなくて俯くと、少しだけ強い口調のミカの声が聞こえた。


「ならどうすればいいと思うの?彼女にどっちがいいですかなんて質問すれば満足なの?僕はそれを彼女に決めさせるべきじゃないと思う」


シェリアに真実を言えばきっと本心じゃなくても、人々を助ける選択をするに決まっている。同時にシェリアのせいだと罪悪感も植え付ける形になる。全ての責任を押し付けて気持ちが楽になるのはジュリだけだ。


「元々はジュリのエゴで死ぬべき人間を助けに来たんだから、最後までジュリのエゴであるべきだよ」

「本当だね…。私はただ手紙の言うとおりに動いていて、自分がしてる事をわかっていなかったかも。覚悟が足りなかった…ミカの言うとおりだね」


人に罵倒されたり、恨まれたりする可能性だってあるのだ。特にディアスには恨まれても仕方ない事をする。自分が助けたいが為に、彼の好きな女性を奪う事になるのだから。


「勘違いしないで欲しいんだけど、僕はジュリの為に言ってるんだよ。後から気づいてジュリに後悔して欲しくないから。僕は彼女が死のうが生きようが、結局どっちでもいいんだ」


相変わらずシグナのような事を言うミカに表情を緩ませると、静かにお礼を言った。



今日は学院祭の前日なので、決行は今日しかない。ある程度、聖女になる為の芽は潰したが何が起るかはわからないので、学院祭前に終わらせてしまいたい。


皆に話すと、色々複雑な気持ちを持っているだろうアルス達も協力してくれる。シェリアを最後の学院祭だからと用意の為に寮の方へ戻してくれた。寮の方が全然忍び込みやすいからとても助かる。


「何かあっても最後まで僕らも協力するから。シェリアを助けてあげて」


カイル達に頷きながら、カルロに暗闇の中でも動き回れるメガネを借りた。カレンは同じ女子寮なので忍び込むのに協力してくれるらしい。


「痺れ薬や眠り薬は任せておけ」


うおう…


頼もしいけどちょっと怖い事を言うカレンに顔を引きつらせながら、お願いしますと頭を下げる。師長は失敗した時の為に色々準備をすると言って姿は見えない。


夕食時になぜかスープは飲むなと言われたが、その理由がよくわかった。学生たちが次々と眠いと言って部屋に下がっていく。即効性じゃないので緩慢に現れる眠気に皆はそこまで気がつかないようだった。


学院祭の前の日はただでさえ、疲れてるから不思議じゃないしね。けどカレンは手段を択ばなすぎだよ…


窓の外から入ってくるミカと合流して、シェリアの部屋へ向かう。位の高い貴族は個室らしく、隣の部屋に召使がいるようだった。


「…静かだね?」

「寮内の食事に混ぜたなら生徒以外も食べただろうしね。特別聞きにくい体質の人間以外は寝ているんじゃない?それより石を」


ジュリは恐る恐るシグナの石を手のひらに置いて、ミカに見せた。


「隣国の実験みたいに酷い事はしないよね?」

「無理やり引き出すわけじゃないからね。ただ問いかけるんだ。精霊の力を借りる時に似ているかな」


ミカが石を覆うようにジュリの手を乗せると、魔力が流れる様な気配がした。


何だか魔力の循環に似てる


すっと目を閉じると、いつの間にか手の中の石の感触がなくなった。あれっと目を開けると、そこは懐かしい村の湖の前だった。


なんで?


しかし自分がきょろきょろと周りを見たくても視界が固定されていて動かせない。それでやっと、これが自分ではなく、誰かが見ている光景なのだと気付いた。


その人は一日中湖を見つめているだけで、何の感情もないのが感じ取れた。あの村でそんな事をする人物なんてひとりしかいない。


これはシグナの記憶だった。

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