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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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精霊召喚

ひと通り文字を覚えて、不格好ながら書けるようになった頃、皆と同じ座学の授業への復帰が認められた。まだまだ自主的な勉強は必要だったが、これ以上カルロとライの二人を巻き込めなかった。


しかし同じ教科書を見ても、文字を覚える前と後では全く違うものに見えた。難解な記号やらにしか見えなかったものが意味のある羅列で知識を物語っている。文字って凄い!


元々知識欲に飢えていたジュリにはとても興味深いもので、勉強することは嫌いではなかった。


そして今日は、魔術の基礎授業の二回目だった。今回は、魔術と騎士のみで官僚の人達はいなかった。


「元々官僚は、魔術を使う仕事ってのはそこまで多くないんだよ。領地持ちの跡取りとか魔力が少ない人が多いんだってさ」

「へえー騎士は官僚より魔術を使うの?」

「使う使う!ただ剣を振るうだけなら兵士でもできるだろ?」


カルロと話していると、なぜかアルスが話に入ってきた。いきなりの登場に、カルロは反応しきれずに固まった。この人が神出鬼没なのは何でなの?


「騎士ってのは、ほぼ貴族で構成されている。まあ、貴族であれば官僚よりもなりやすいと思うよ。よほど功績をあげれば平民でももらえる称号らしいけど、平民は兵士で終わる事が殆どだろうな」

「そうなんだ、でもなりやすいのに官僚よりもずっと人数が少ないのはなぜ?」

「危険だからだ。現場で命をかけるよりも領地を統治したり、または魔術師になった方が将来の選択肢は多いだろう」


そう言って話に入って来たのは、ディアスだった。さらに後ろにいるカイルが続ける。


「騎士がなりやすのは、人数が少ないと言うのもあるね。騎士団長など役職に就ける事も多いけど、兵士の上にたつというのはただ、肩書だけあればいいというわけじゃない。兵士以上の力を騎士は要求される。例えば、魔術とかね」

「カイルは魔法剣士になりたいんだよな?父親に倣って」


嬉しそうに笑ったカイルを見て、ちゃんとみんな信念をもってるんだなと思った。ジュリに選択肢はなかったからそう思うのかもしれないが。


「すごいね、カルロ。みんなかっこいいね」


そういって、隣をみるとカルロは少し離れた所から静観していた。なんでそんなに離れてるの…


「はーい、始めますよー席に着きましょう!」


遅れて来たくせに、何事もなかったかのように仕切りだす師長にジュリは苦笑した。


「今日は、精霊召喚を行います。精霊は己の力量にあった主を探します。だから試したり、運が悪いと殺されそうになったりするのです。心配しなくてもエナの君たちが呼び出せる精霊なんて、まだまだ無害にも等しいので安心してくださいね」


殺されそうになるのを運が悪いで終わらせた師長は、笑顔で続けた。


「たまに強い精霊を呼び出してしまう子もいますが、最初は低級の精霊と契約することをおすすめします」

「なぜですか?」

「精霊は嫉妬深いのです…って冗談ですが、いやあながちそうでもないのですが、高位の精霊と契約すると有益な事もありますが、短所もあるのですよ」


ジュリは何となく師長はそんな精霊といっぱい契約しているのかなと思った。


「まず、高位の精霊は意思の疎通ができますので、魔術を使う際に協力的であればかなり強い味方になります。そして主を守ってくれることもあります。ただ、主は大切に思ってくれるのですが、その分他を拒絶する精霊もいます。そのひとつが、精霊の序列です」


師長は絵にかいて説明してくれたが、これは精霊か?みたいな絵柄で吹き出しそうになった。師長は絵が苦手なようだ。


「精霊は低級から高位までいて、最初に高位の精霊と契約をしてしまうとそれより弱い精霊と契約することができなくなります。同等かそれ以上でないと…。精霊と契約すると魔力が混じって、少し強力な力を使えるようにもなるんですけど、そこに新たに別の魔力が混じるのを嫌がるわけです」


嫉妬深いですよねえと呟きながら、だから小さな精霊から契約してみましょうと師長は締めくくった。


各自この間より、少し小さい水晶を配られた。これをまた花にして、呼び出した精霊に受け取ってもらえれば契約成立だと言われた。


召喚用の陣に花を捧げて、魔力を込めれば精霊を呼び出すことができるらしい。ジュリはどんな精霊が出てきてくれるのかちょっとワクワクしながら始める。


するとすすすっと後ろに師長が立って、お構いなくと言いながらジュリの召喚を見守る。


うう…なんかやりにくい


魔力を込めると、青色の光が現れたかと思うともやもやしたものが浮き出てきた。ジュリが凝視しているとそれは、ぽひゅっと音を立てて消えて行った。


なんで!?


比較的簡単なのか、周りにはふわふわした綿毛のようなものや小さなトカゲのような生物を皆、それぞれ召喚していた。カルロも花を咲かす方が困難だったようだが、召喚は特に問題なかったようで、赤く細い襟巻みたいなものを首に巻いていた。


ジュリは失敗したのかなともう一度やってみたが、今度は青く光ったと思った瞬間に消えた。


は!?


わけがわからず、助けを求めて後ろの師長を振り返ったら、彼は面白そうに笑っていた。何が面白いのか。


「へえ、やはりそうなりますか…」


まるで実験動物をみるような目つきで、ジュリを見た後に少し思案しながら話し出した。


「君、精霊召喚を行ったことは?」

「ありません。今回が初めてです」


ですよねと一言いうと、どうしようかなと一人でぶつぶつ言いだした。なんか怖いんですけど


「チビ!お前まだ終わってないのかよ」

「カルロ…うん、なんか出来なくて」


カレンも蝶のような生物を手に乗せて、こちらを気にかけてくれている様だった。


「これしかないかな?あっ君は危ないのであっちへ」

「え?」


独り言を終えたらしい師長が、カルロの首根っこをつかまえてポイっとカレンの居る方へ誘導した。必然的にジュリは一人になる。


「ちょっと怖いかもしれないけれど、大丈夫ですよ。怪我をさせたらちゃんと治しますので」


大丈夫ですよと言いながら怪我をさせると言った師長に恐怖を覚えた。


何するの!?


「疾風よ」


師長が魔術を発したのか、かまいたちのような風がジュリを襲った。カルロが叫び、目撃した生徒たちは騒然としてジュリと師長を凝視した。


ジュリは目を瞑り、訪れる痛みに備えたがそれが来ることはなかった。ジュリのほんの手前で、水の壁のようなものが現れて魔術を防いだのだった。


「え?」


師長は面白くてたまらないと言った顔をして、さらに魔術を使う。周りの生徒たちはすでに全員がこちらを見ながら、事態がつかめずに呆けていた。


「炎よ」


今度は大量の火がジュリのまわりに現れたと思ったら、また水の壁に遮られて鎮火する。それと同時に水の壁から槍の様に鋭い水が師長を襲った。


「師長!?」


ジュリは思わず、悲惨な光景を想像して目を閉じた。


「風よ」


師長のまわりにつむじ風のようなものが発生したと思ったら、水の槍を巻き込んで霧散した。風に煽られて、教室にある教科書や紙が舞い上がる中、ジュリは閉じていた目を開けた。


するとそこには懐かしい見知った姿の水色の髪の少年がいた。ジュリを庇うように背を向けているけれど、何度も見ていた彼の姿を見間違うはずはない。


「嘘…」


ずっと会いたかった、幼い頃から一緒にいてくれて、ジュリが助けを求めている時は、必ず助けに行くと言ってくれた。


シグナだった。

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