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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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探し人

カレンやカルロ、師長と四枚目の手紙を見ながら意見を出し合う。


「学び舎の外ってのが学院の外ってのはわかるが…」

「いくらなんでも特定できなくないか?」


学院の外に人はいくらでもいる。カレンとカルロが唸る中で、師長が話し出した。


「この場合、探し人は必要な人材だと思っていいでしょう。今一番必要としているのは、薬学に造詣が深い者ですかね」

「そうだ、前の手紙もジュリにしかわからない言葉で書かれていたよな?これもそうなんじゃないか?」

「そんな事言われても、私にだってわからないよ」


それに学院の外に、ジュリの知り合いなんて殆どいない。家族と卒業していった先輩達くらいで、師長以上に薬学の知識を持っているとは考えられない。


「今のジュリにはわからないとしても…一週間後のジュリにはわかる内容だとしたら?これは元々過去に戻ってきたジュリに対する手紙だろう?」


一週間後と言っても学院祭が始まるまでは、友達しか会っていなかったので、今とそこまで変わらなかったはずだ。


じゃあやっぱり、あの日…?


学院祭の惨劇はあまり思い出したくなかったが、出来るだけ記憶を辿っていく。ミカと中庭にいて…泣きながら逃げ回って…カルロを見つけて…


“僕は間者としてこの国に潜入してたんですよ”


ジュリは記憶の中の懐かしい人物を思い出した。


「ねえカレン、隣国って薬草に詳しい国だったよね」

「え?ああ、そうだな。植物研究に限ってはこの国よりも秀でているのは確かだ」


けれどジュリの誘拐事件から隣国との関係はさらに悪化していた。交流ができる現状ではない為、それが何か?という顔をされた。もし協力してくれるならこの人しかいないんじゃないかと、ジュリは口を開いた。


「城下町にライがいると思う。彼だったら薬を作るのに詳しくないかな」

「はあ!?ライ?」


カルロは驚いた顔をしたが、カレンは咄嗟に考える様な動作をした。余計な事を言わずにすぐに対処しようとするのは、カレンの長所だと思う。


「隣国の者だったら、技術や薬草もそれなりに持っている可能性は高いと思う。特に送り込まれる間者が中途半端な者であるわけないしな」

「待て待て待て!ライって…あいつだろ?あいつが…」


カルロの複雑な心境はジュリにもよくわかる。ライは自分たちを騙していた隣国の間者だった、けれど今でも友達だと思う気持ちもある。


「協力してくれるかは話してみないとわからないけど…私達に危害を加える事はないんじゃないかな」

「なんでわかる?」


カルロがじろりとジュリを見たので、何かを思い出す様に少しだけ目を伏せた。


「私を助けてくれたもの」


霧の校舎で見たライは昔と同じようにジュリを助けてくれた。そして最後まで、ジュリを気遣うような言葉をかけてくれた。


それでも全面的に信用は難しいと言いつつも、どこか会いたいと期待するような表情のカルロの横で、考え込んでいるカレンに気づいた。


「カレン?」

「仮にライを探すとしても、どうやって見つけるんだ?ジュリは潜伏場所を知っているのか?」


ふるふると首を振るジュリは隣の師長に助言を求めて見上げる。


「潜伏場所と言っても…。この国は魔術の流出は敏感に危惧してますが、他国からの入国はそこまで厳しく管理していません。どう考えても普通の人間より魔力を持った人間の方が有利ですから。それに城や学院は、魔力のない人間はまず入れませんし」


もちろん法で決められた入国審査はしています、と付け加える。


自己防衛ができるから、間者の取り締まりはそこまで強化してないって事?


「僕ら魔術師の仕事は魔力による国の発展と…有事の際の防衛ですから。街の警邏に関しては騎士団の管轄で、直接動いているのは兵士だったと思います」


聖女の事を有事で流した師長の話を聞きながら、ふんふんと真面目に話を聞いていてあれ?と思った。騎士は貴族だが、兵士は平民だった気がする。


「兵士で他国の手練れを捕まえる事なんて出来るんですか?」

「まあ、基本は街の平安維持ですから。窃盗や事故など平民同士の諍いが主ですね。ただ僕らよりも街に詳しいというのは確かだと思います」


ジュリは出来るだけ手紙に書いていることを実行したいと思った。最初は何を意味しているかわからないが、終わってみると絶対にやるべき事が書かれている。


兵士か…あっ


「私聞いてくる!」

「はっ!?ちょっ」


ジュリは兵舎に兄がいるので、何か知っているか情報収集に向かった。相変わらず鍛錬ばかりの猛者の光景に、ジュリはちょっと引き気味になる。


兄を呼び出してもらって、街に怪しい人物がいないかなどを聞いたが少し困った顔をされた。


「一応仕事上の事は身内にも言えないんだよな…実際指示出すのは騎士だから、その、上の承諾がないとな」


勝手は出来ないと言われて、それはそうかとジュリも納得する。兄にお礼を言うとそのまま元来た道を帰ろうとして、ふと足を止めて振り返った。


「…兄ちゃん私ね、シグナ…姉ちゃんの事思い出したよ。ずっと私の為の口に出さないようにしてくれてたでしょ?ごめんね」


兄は一瞬驚いた顔をしたが、そうかと一言呟いて悲し気な顔をした。いつか村に帰れたら一緒にお墓に花を添えたいと言って、今度こそジュリは兵舎を離れた。



「…というわけで、教えてもらえませんでした!」

「当たり前だろ。お前は人の話を最後まで聞け」


アホの子を見る様な目でカルロに叱られた。だって急がなきゃと思ったんだもん…


「普通は見知らぬ間者を探そうとするなら、兵士による情報と人海戦術しかありません。けれど見知った人物、特に学院に在籍していた者は僕ら魔術師でも探す手段はあります」


師長は皆に見えるように地図を広げる。この国全体ではなく学院と城周辺の地図らしく、街が複雑に入り組んでいるのがわかった。


師長はバッジらしきものを取り出すと、地図の上でそれを指でトンと叩いた。するとバッジがずずっと地図の上を走り出す。


ひいっなんか怖い


いつか聞いた怪談話のようで、隣のカルロが蒼白で今にも倒れそうである。そしてバッジはある一か所でくるくると回るとぴたりと動きを止めた。


「学生のバッジは自身の魔力を登録しているので、通行証の役割もしますが不明者の探索にも役立ちます」


つまりこのバッジの示す場所にライがいる?


誘拐事件のどさくさでライのバッジを持ち帰ったのかしらないが、まさかのお役立ちアイテムにジュリは驚いた。


「…で、どうするんですか?ライを捕まえるんですか?」

「まさか。身体能力だけなら僕より上ですから、逃げられると思いますよ。何より僕は街での戦闘は緊急時以外禁止されていますからね」


勝負なら負けませんけどなんて言っているが、そんな事聞いてない。じゃあどうするんだよ?という表情のカルロの横で、ジュリも同じような顔をした。


「説得してください」

「え?」

「そうですね、音声…いや、手紙の方がいいでしょう。筆跡の改ざんが難しいのは彼なら知っているはずですから。そして流石に学院に一人で来ることは出来ないでしょうから、待ち合わせ場所を決めましょう」


話を飲み込めないジュリ達は顔を見合わせながら戸惑う。


つまりライに助けて欲しいと手紙を書けと?


「貴方達に届いた手紙も、自分たちが書いたと信じているから従っているのでしょう?信じてもらうには、まず信じなければ」


ジュリ達は頷いて、来て欲しい場所と日時を書いた後に、一言ずつ手紙にしたためた。


とりあえず帰って来い(カルロ)

ライに協力を頼みたい(カレン)

私達と会ってほしい(ジュリ)


鳥のような精霊が窓から手紙を加えて飛び立っていった。


「待ち合わせ場所には誰が行くんですか?」

「僕が行きます」


師長の言葉に、ジュリ達は怪訝な表情になった。この人が行ったら戦闘にならない?


「私達が…」

「許可できません」


笑顔で却下されジュリ達は押し黙った。


「…けれど私達の誰かが行かないと信用してもらえないと思います。協力を得る事が最優先だと思うのですが」


カレンの主張に少しだけ思案した師長は、では一人だけと言って条件をつけた。


「僕の側を離れない事、そして学生の騎士で良いので二人ほど護衛をつけて下さい」


同行者はジュリに決まった。比較的騎士の知り合いが多いので声をかけやすいのと、カレンもカルロも口には出さないが、まだ少し顔を合わせにくそうだったからだ。


ジュリは最後にライと色々話も出来たが、カルロ達は突然友達がいなくなり、その者が間者だったと全て人伝に聞かされた。ひとりで会っても何から話せばいいのかわからないだろう。


出来れば二人にライを会わせてあげたいな


そして薬作りに協力してくれたらいいなと期待も込めて。


騎士二人はカイルとアルスが快く引き受けてくれた。ちゃんと護衛代も師長からもらったので二人に渡すと、そんなに危険な任務なのかと心配された。


危険はなく終わりたいし、そうするつもりだけどね…!


久しぶりの市民街に少しだけ心を弾ませながら、ライを探しに行くことになった。

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