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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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謎解き

鍵を真剣に見つめるジュリに、カレンやカルロは怪訝な表情をした。


「それがどうかしたのか?」

「これ、以前カタスティマで見たんだけど…精霊を召喚できるものらしいの。まさか貴族街にまで売ってるとは思わなかったけど」


聖女の審判には高位精霊四体が必要になるが、シェリアは三体しかいなかったはずなのにおかしいとずっと思っていた。しかしこの鍵で呼び出したとしたら不可能ではない。


まさかディアスが贈ったものだったなんて…


けれど師長は精霊は必然として出会うものと言っていた。もしかしたらここで阻止できても、いつかは起こってしまうんじゃないかと少し不安に思ってしまう。


やっぱり原因を探るのは必要だよね


ジュリがひとりでぐるぐる考えていると、上からチョップが降ってきた。痛いんですけど。


「お前さあ、ひとりで考えんなって言ってるだろ」


カルロを睨みつつ見上げていると、カレンから怪訝な顔をされた。


「昨日までのジュリと別人みたいだな」


ぎくりとして顔をあげると、真っすぐにこちらを見るカレンと目が合った。そして小さな木の実みたいなものを取り出したかと思ったら、ジュリの目の前で潰した。


「くしゅんっ」


途端にくしゃみが止まらずに、ジュリが涙目でカレンに何をするのと訴えると、変わらないなと真顔で言われた。何なの


「ずっと塞ぎ込んでたジュリがいきなり元のジュリに戻ったから不思議でな。これは魔物の嫌う匂いらしくて憑依が解けたりするらしい」


つまり何かに憑依されてるんじゃないかと思ったと


「いや、こいつあいかわらずだし。憑依されてたらもうちょっと賢くなるだろ」


カルロにフォローなのかよくわからない事を言われたが、ふと考えた。自分はシグナがいなくなって落ち込んでいた、この時間のジュリの記憶はない。それは正確に言えばカレン達の知っているジュリとは別人と言えるのかもしれないなとも思った。


私もシグナが本当に死んでしまっていたら…同じように立ち直れなかったのかな


「まあ、元気になったのなら良かった。力になりたくても話してくれないなら、土足で踏み込むわけにはいかないからな」


カレンは同室で落ち込むジュリをずっと心配してくれていたから、ちょっとした変化に気づいてくれたのだろう。


「うん、ありがと…」


次の日、シェリアへの見舞いを午後に予約したため、午前中に東階段の大鏡に向かった。カルロは相変わらずびくびくしているがついてきてくれる。


「おい、ちょっと俺を置いていくな。もうちょっとゆっくり歩け」


このヘタレ具合されなければかっこいいんだけど、これを含めてカルロだからね


一緒に来てくれることに感謝しつつやってくると、日中でもやや暗い東階段には人影はなかった。


「誰もいないね?」

「普通こんなとこ来ねーよ。西階段の方が近いんだから」


きょろきょろと見回すと、階段の下に無造作に置かれた白い封筒を見つけた。まるで誰かが捨てて行ったようだと思った。


“学び舎の外に探し人”


後は場所と日時だけで、下に何か薬の作り方が書いてあった。かなり高度なものらしくジュリもカルロも作り方を見てもよくわからない。


「これ何の薬なのかな?」

「俺にわかるか。こういうのはカレンが専門分野だろ」


カレンを巻き込まなきゃいけないのは嫌だなと思っていたら、カルロにそれやめろと言われた。


「ひとりで悩んでいると間違った答えを選んじまうぞ。そりゃひとりでも出来る奴はいるだろうけど、お前は違うと思う。話せない事は言わなくてもいいが、ちゃんと頼れ」


師長も同じように頼れと言っていたのを思い出した。そして決してこうしなさいとは言わなかった。ひとりでどうにかしようと思っていたが、それはジュリが欲しい未来に繋がっている行動なんだろうか。


「そうだね…。私カルロ達に話したいことがあるの」


正直ジュリ一人であれこれ考えるのは限界だった。自分は賢いとは言えないし、器用でもない。けれど誰かが立ち止まったら一緒に手を取ってあげられる。そしてまた自分が立ち止まった時は、誰かに背を押してもらえる。そんな未来の為にここにいるのだと改めて思った。




中庭にカレンも呼び出して、聖女や闇属性の事は省いて話す事にした。ジュリが精霊の力を借りて時間を超えた事、憑依されたシェリアによって学院が大変になった事、それを止めたくてここに居る事を話すと、二人は茫然とした。


「一週間後…?マジかよ」

「憑依は心の弱い部分につけこまれるらしいが、確かに普段のシェリア嬢ならそんな失態は犯さないだろう。何かあったと思うのが自然だが、心当たりはあるのか?」


信じられないと言うカルロと違って、カレンはすぐに現状を把握して対策を練るような言葉を続けた。


「…信じてくれるの?」

「この手紙を受け取ったなら私達も部外者ではないだろう?」


それにジュリは嘘は下手だからすぐにわかると言われて、当たり前に協力してくれる二人の気持ちが嬉しかった。


「シェリア様の行動は出来るだけ見てたんだけど…。どうしようか悩んでたらこの手紙がきたんだよね」


書いてある内容がわかりにくいが、助言のようだと言うとカレンが一度手紙を見て、ジュリに向き直った。


「ジュリが時間を超える能力があるとするなら、これは未来のジュリが、今のジュリにしなければいけない事を教えてるんじゃないか?」

「え?」

「未来のジュリもひとりで困って、周りに協力を仰いだ結果だとしたら?でなければこの手紙の文字が私達が書いたものになるはずない」


未来からの手紙…


「ジュリ、時間は有限だ。何をすればいいのか定まっていないなら、出来るだけ人に頼った方がいい。けれど全てを語る必要はないと思う。未来を知る事は不利益になる事もあるだろうから」


カレンはジュリが言えない事があるのを知っているかのようだった。それ俺がもう言ったからというカルロと一緒に、ゆっくり微笑んでくれた。


そしてまずは手紙の謎を解明しようという事になった。


「まずカルロの手紙の白い翼の少女がシェリア嬢なんだな」

「赤い髪はあれだろ?騎士コースの」


貴族の在学中だけの恋人は珍しくないので、特に違和感はないようだった。二人の言葉に頷きながら、最初の手紙は実行できたことを話す。


「けど三枚目と四枚目がさっぱりで…」

「まずは三枚目から考えようか。多分これもジュリにだけわかるキーワードがあるんじゃないか?少女と少年は変わらないとして、土の獣、案内人、そして心…。少女の心に案内する獣とも読めるか?土…土属性とか?」


心?土属性?


ジュリははっと思った。


「カズラ姉さん?」

「なんだ?思い当たる事があったのか?」


ジュリは頷いて、自身の土の精霊が精神感応系の能力を持っていることを話すと、カレンがなるほどと呟いた。


「確かにジュリにしかわからない手紙だな」


けれどジュリ自身がこんな謎かけのような文章を考えて書けるとは思えなかった。それは協力してくれた誰かなのだろうか?


「じゃあこれはシェリア様の心の中を見ろって言ってるのかな」


出来るだけ使いたくない能力だけどそうも言っていられない。躊躇すればもっと酷いことになるのだから。


「こっちの文章は置いておいて…、薬の作り方は多分わかると思う。ただ一度調べたいからこの手紙は預かってもいいか?」


カレンの言葉に承諾した後に、ジュリはシェリア様のお見舞いに救護室に向かった。今回は手土産として、ジュリが好きな貴族街で買ったお菓子を少しだけ持って行った。


室内にはローザが先に来ていたようで、二人が話しているのを邪魔しないように、一度退室するかどうか迷った。


「遅くなって申し訳ありません。朝から変な手紙が来て時間を取られてしまって…」


…ん?変な手紙?


もしかしたら四枚目の手紙はローザに届いたのかもしれない。彼女ならカルロ達と違って、指定の場所に行ってしばらく待つなんてことはしないだろう。誰もいないのを確認したらさっさと帰ってくるのが想像できる。しかも手紙を放って。


「アルスに聞いたのですが、ディアスは婚約者の実家に挨拶するために一度戻ったようですわ。卒業後はそのまま領地に行くのでしょうか?彼の為には良い縁組とは思いますけれど…」

「そうね…」


そういえばディアス学院を離れるって言ってたっけ


少し話した後にローザが出て行ったので、入れ違いで挨拶をした。近くで見るシェリアはやはり顔色が悪く、少しやつれているようにも見えた。


「シェリア様、大丈夫ですか?何か…あったのですか?」

「いいえ…、少し卒業試験に気合を入れ過ぎたのかもしれません。お恥ずかしいです」


やっぱり私には言わないよね…。でもシェリア様を聖女にはさせないから、心を覗くことを許してください


シェリアは数日救護室にいるようで、ジュリは夜に忍び込んで実行しようと考えた。

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