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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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一週間前

ジュリは暗い部屋の中で勢いよく目覚めた。


「はっ」


息切れをしながら上半身を起こし、最後の光景が焼き付いている目を両手で覆った。


「師長…」


あの後どうなったんだろうと思いながらも、ジュリは自身が寝ていた場所を確かめた。ここは自分の寮のベッドで、隣にはカレンが寝ているいつもの日常だ。時刻は月の位置からみて深夜くらいだろうか。


戻った?ここはいつの夜なんだろう?


ぼーっとしながら窓を見上げていると、耳元で声がした。


「危機一髪だったな?感謝しろよ」

「うひゃっ」


思わず驚いて叫ぶと、カレンからうるさいと言われてしまった。小声で謝ってからジュリもベッドに潜り込んで、先ほどの声の主を探した。


「貴方、何でまた虫になってるの?びっくりしたじゃない」

「こっちの方が話しやすいだろ」


ぼそぼそ話しながら、どこかひとりじゃなかった事に安堵した。ひとりで考えていると、あの場所から自分だけ逃げだした事に対する後ろめたさと、知る事は出来ない皆の安否を永遠と考えてそうだった。


寝なきゃ…


日が昇らないと学院内で動き回ることは出来ない。耳元で雑談をしだした虫の声を子守歌に、ジュリは目を閉じた。



朝起きて日付を確かめると、試験が終わって数日後だった。学院祭のちょうど一週間前、ダンスの相手を探して右往左往している時期だ。


「すごい、本当に戻ってる…」


これは師長が払ってくれた時間だと思うと、少し胸が痛くなったが後悔している時間はない。


カレンにジュリのダンスの相手に付いて聞かれたがそれどころではなく、生返事をしながらひとりで廊下を散策した。


私この時間なにしてたっけ


「…あれ?」


ポケットの中に見知った手触りを感じて探ると、そこにはシグナの水色の石があった。


なんで?


この時間帯はまだシグナは生きているはずだ。なぜここにこれがあるのか不思議に思いながら、ジュリは自分のペンダントに魔力を注いでシグナを呼んだ。


けれどいくら待ってもシグナは現れてくれなかった。


「どういうこと?」


自分の知らない時間に混乱していると、後ろから声をかけられた。


「お前、廊下の真ん中で何してるんだ?」

「カルロ…!」


そこには元気そうなカルロが、いつものようにジュリに話しかけていた。カルロの変わり果てた姿に絶望していたジュリは、思わず飛びついてしまった。


「わああ!カルロだ!生きてる!」

「おわっ何だ!?」


尋常じゃない態度のジュリを不審に思われながらも、落ち着けと頭をぽんぽんと叩かれた。


「その様子なら、もう大丈夫なんだな?」

「何が?」

「いや、だって…ほら、精霊探しの後、お前が水の精霊を失ってからずっと部屋から出てこなかったじゃないか」


え?


続きを聞くと、この世界ではジュリはシグナをもう失っていた。何があったのかは落ち込むジュリに無理に聞けなくて、カルロも詳しくは知らないようだ。


先ほど呼んでも現れてくれなかった理由がわかったが、なぜ自分の知っている過去と違うんだろう。


シグナが…いない?


この時間のシグナとはどんな顔で会えばいいのか、少し戸惑う気持ちもあったが、もう会えないなんて思いもしなかった。


カルロがダンスの相手を申し出てくれたのを承諾した後、ジュリはひとりで途方もなく歩き出した。いきなり元気がなくなったジュリを心配そうにカルロが見ていた。


「ここは私が知ってる過去じゃない?」

「だからお前が変えたに決まってるだろ」


またもいきなり話しかけてきた虫にそろそろ慣れたジュリは、どういう事?と聞き返した。


「お前がそいつを一緒に持ってきたから過去が変わったんだろ。精霊と人間の時間軸は違うから、精霊にとっては過去ではなく未来の続きだけどな」

「?ごめん、よくわからない」

「おっ前バカだなー?簡単に言えば、同じ人物が同じ時間軸に存在する事は出来ないって事だよ」


つまり私がシグナの石を持って過去に戻って来たから、この世界のシグナはいなくなった?


「まーそいつは遅かれ早かれ消える運命だった。精霊の運命は変えられないって言ったろ?」


シグナ…


「ほら、お前がここに来たのはそいつをどうこうする為じゃないだろ。さっさと行動しろ、ぼーっと立ってても面白くないだろ」

「そうだね…」


ジュリは一度ぎゅっと目を瞑り、気持ちを切り替えた。


とりあえず、シェリアに会いにいけばいいのだろうかと思ったが、自分一人で行動する事に不安を覚えた。なぜなら失敗は許されないから。チャンスは一度しかないのだ。


「ミカに、ミカに会いに行く」


事情を知っている仲間が欲しい。けれどどこまで話していいのか、信じてくれるのかわからないから、一番信じてもらえるだろうミカに最初に相談しようと思った。


ミカも頼ってと言ってくれてたもんね


とてとてと廊下を進んでいると、赤髪が特徴のディアスが知らない女生徒と歩いているのと目撃した。その直後に、後ろから誰かから声をかけられる。


「ディアスの婚約者だよ」

「え?あ…カイル」


そういえばこんな場面を見た気がすると思いながら、カイルがディアスが婚約者を迎えた経緯を話す。この会話は覚えがあった。


「その、僕が考えなしなばっかりに、君に迷惑かけてごめん。でもちゃんと君が好きだ…」

「ううん、そうじゃないよ」


え?という顔で告白を遮られたカイルを見ながら、ジュリは首を振った。好きと言う気持ちをジュリはもう知っている。凶暴で純粋で何よりも幸せな気持ちを。


そしてそれはそんな悲しい顔で謝りながらいう事じゃないはずだ。


「私が子供だったからちゃんと答えられなくてごめんなさい。好きになってくれてありがとう」


自分がするのはカイルを拒絶する事じゃない、ちゃんと誠実に向き合う事だ


今なら返せる答えを持っている。そしてそれを受け入れてくれると思ったから、自分の過去の間違いを正す様に、ジュリはゆっくりと言葉を続けた。


「私ね、ずっと好きな人がいるの」


それを言うとカイルが一瞬驚いた後に、懐かしいジュリの好きな優しい笑顔で返してくれた。


「そうか。なら君がその人と幸せになれるように祈っているよ」


カイルも普通に話せたことが嬉しかったのか、何かあったら気軽に接して欲しいと言って和やかな雰囲気で別れた。少しだけ蟠りが溶けたような、心が軽くなったような気がした。


過去に戻れるってこういう事が出来るんだ


横で虫が修羅場とか二股とかわけのわからない言葉を並べながら雰囲気をぶち壊してくるのをスルーしながら、ミカの元に急いだ。


しかし一学年下のミカは今は普通に授業中だったので、休み時間に中庭に呼び出した。待っている間に暇すぎて寝てしまったようで、起きたら横にミカが座っていた。


「わあっミカ来てたんなら起こしてよ」

「ふふっジュリがあんまり気持ちよさそうだったから。それで、僕に何か用?ジュリが呼んでくれるのは珍しいね」


笑顔で答えてくれるミカをじっと見ながら、ジュリは早急に本題を話した。


「ミカ、私ね?過去に戻って来たの。ミカなら言っている意味わかるよね?」


一瞬笑顔が消えて怪訝な表情をしたが、すぐに元の笑顔で寝ぼけたの?と返された。


え?なんで惚けるの!?


「違うよ!聖女が出てきて、学院が大変な事になったの!それで、それで…どうにか聖女の降臨を止めようと過去に戻って来たんだよ」


ジュリの必死の形相に、惚けるのをやめたミカは、なるほどと少し考え込む動作をした。


「じゃあ僕はちゃんとジュリを守れたんだね。それで何でわざわざ戻って来たの?」

「だから、聖女をどうにかしたくて、協力して欲しいの」

「聖女はどうにもならないよ。ジュリには自分の無事だけを考えて欲しい」


ちょっと!?言ってる事違うのはなんで!?


未来のミカは僕を頼ってと言ってくれていたのに、こっちのミカは協力に消極的だった。もうひとりでどうにかするしかないかとも思ったが、失敗するような未来しか見えない。


まずはミカを説得しなければいけない事に頭を抱えた。

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