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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
終章 いつか帰るところ
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闇の精霊

「俄かには信じられませんね」


ミカの話を聞いて、そうライが発言すると、特に興味もなさそうにミカが答える。


「別にアンタに信じてもらわなくてもかまわないけど、大体隣国の者がここに居る事自体、場違いなんじゃないの」


未来から戻って来たなんて、ジュリも全部は信じきれない。けれどそう考えると、ミカが言っていた言葉や行動の辻褄が合う気もした。


「ミカは未来を知ってたんだよね?なら何とか聖女を止めようとは思わなかったの?」


こんな惨劇の未来なんて変えてくれれば、シグナもみんなも犠牲になる事なんてなかったのではないだろうか?


「思わなかった。どちらかというと過去と相違がないように、慎重に誘導してたくらいだよ」

「…どうして?」

「僕にとってはジュリを守る事が一番だったから。下手に変えれば、僕の望まない未来になっていたかもしれない。例えばジュリが聖女になったとしたら、助ける術は僕にはない」


私が?


そんな事絶対ない…とは言えないかもしれない。シグナが一緒にいてくれなかったら、自分は黒い扉を選べなかったかもしれないから。


「それに聖女…精霊の運命は変えられないって言ってた」

「誰が?」


それには答えてくれなかったが十中八九、ミカが出会った精霊だろう。


「じゃあこの後どうすればいいの?ミカのいた未来ではどうなったの?」

「わからない。この後、僕は過去に飛んだから」

「え?」


この学院での記憶が最後という事は、ミカが出会った精霊は学院に居たって事?もしくは他の生徒や先生の精霊だったのかな?


でも時間を操る精霊なんてそうそういるわけない。ジュリが伺うようにどうやって?と聞くと、ミカは黙って見返してきた。


「ジュリが過去に飛ぶ気なら教えないよ。易々と出来る事じゃないし、そんなに都合のいいものでもない」


でもミカのいう事を信じるなら、一度はその願いを叶えてもらっているのだ。どうやって?


過去に戻れるならジュリだってそうしたい。もしかしたら色々なものを失わないで済むかもしれない。


「運命を変える程巨大な力ってのは代償がいるんだ。聖女だって精霊と人間の依り代を犠牲にして降臨するでしょ?」

「…ミカは何を犠牲にしたの?」

「教えない」


代償…?


最近それに近い言葉を聞いたような気がする。


どこだっけ


“アンタにとって手放しがたいものでないと価値はないからな”


「…あ」


師長と戦った時のしゃべる黒い虫が、似たような事を言っていたのを思い出した。そして不思議な事が起こった事も…。


それを考えた時、何かが繋がった気がした。


「ジュリ?」


黙ったジュリを怪訝に見てくるミカに向き直った。


「さっき、ミカは私の精霊はそういうのじゃないって言ったよね?何で私も知らない闇の精霊をミカが知っているの?」


過去で見たから?多分それだけじゃない、ミカが願いを叶えて貰った精霊は…


「私ね、授業で変な事があったの。少しだけ時間が撒き戻ったの、そして未来が変わった。夢かと思ってたんだけど…ミカの話を聞いて、あれって精霊の仕業じゃないのかなって」


ミカは言いにくそうに顔を背けた。ジュリが契約している四属性の能力は知っているが、時間に関するものはなかった。ならば残ったのはひとつしかない、ジュリの闇の精霊だ。


「ミカは私が死んだあと、私の闇の精霊に会ったんだね…?」


精霊は主が死ぬと契約は解除される。その場にいたのなら、ジュリの精霊と会っていてもおかしくない。


「私も会えるかな」

「会ってどうするの?また危険を冒すつもり?」

「まだ決めたわけじゃないけど、自分の精霊を知ってからでもいいでしょ?」


最初に会った時も私の意思なく出てきてたみたいだけど、呼べば出てくる?


「どうやって会えるかなんて、僕は知らないよ」

「だよね」


正直闇属性の魔術を使えないので、闇の精霊の事なんて二の次だったのもある。よくわからず、どうしても欲しい力でもなかったからだ。そんな事を考えていると、それまで黙っていたライが片手をあげた。


「僕はよく事情はわからないのですが、そのジュリさんが会いたい精霊の事を知ってる人は、他にいないんですか?」

「多分いない…あっ」


ジュリの思い当たる人物で、ひとりだけ可能性がある人を思い出した。


「師長は闇属性の陣を知っているから、呼び出す方法がわかるかも」


そうだよ、契約後にこっちから呼び出すには召喚陣がいるんだよ


あまりに色々と重なりすぎてて、かなりパニックになってたのかもしれない。基本的な事をすっかり忘れていた。


ちなみにジュリは、肝心の闇属性の陣を覚えていない。


「では会いに行きましょう。時間がありません、師長のいる場所に繋げられますか?」


ライが尋ねると、セツが頷いて右ななめの方向を指さした。すると先ほどまではなかった扉のような物が現れる。


「わあ!」


ライのありがとうございますという声が聞こえてくるのを余所に、ジュリは目の前の仏頂面のミカに、手を差し出した。


「ミカがずっと私を守ってくれたのはちゃんとわかってるよ、ありがとね。だから助けてくれた命で、今度は私が出来る事をしたいの」


どこか諦めた顔で渋々と出してきたミカの手を握って、ジュリは一緒に扉の方へ駆けていく。横にいるミカがため息をつきながら、ジュリに話しかけてきた。


「ジュリは本当、何度言っても自分に関係ない危険に首を突っ込むよね」


それは暗にバカだといってるようにも聞こえた。


「けど、だから放っておけなかったんだと思うよ。僕もシグナも」


もし無理だったとしても、あとはミカに従い素直にこの国に出る事を約束させられた。


シグナと聞いて少し胸が痛んだがジュリはそれを抑え込んで、思い切り泣くのは後にしようと思った。

今は出来る事をしよう、少しでも希望があるならそれを探そう。


そんな事を思いながら扉を開けた。



扉の先は師長が自身の闇の精霊と一緒に立っていた。突然現れたジュリ達に少しだけ驚いている様だ。


うわあ、本当に目の前に出た!ありがとう~


まるで瞬間移動だと思いながら、ジュリは心の中でセツにお礼を言った。


「僕は避難指示を出しませんでしたか?」


少し叱るような声色で師長がジュリ達に話しかけてきたが、それを無視して師長に詰め寄った。そしてジュリが闇の精霊の心当たりを話すと、難しい顔になった。


「召喚は可能かもしれませんが、貴方のいう事を聞くとは限りませんし、弱みを見せると、とんでもない要求をされかねませんよ。なんせ悪魔なので」


ちらっと師長の横の紳士を見たが、全くそんな風に見えないから不思議だ。


彼も悪魔なんだよね?


「ただ時間を操る悪魔は興味がありますね」


いや、今は師長の興味は関係ないんですけど…


「…僕の悪魔は知識を司る悪魔だそうです。相性が良く、とても研究が捗りましたから契約できたのは幸運でした」


ジュリは少し驚いて師長を見た。彼が自分の精霊を事細かに説明してくれるのを初めて聞いたからだ。属性を持っていない者には精霊の姿さえ隠すのに…。


「今の話を覚えていてください」


何だかいつもの師長らしくないなと思ったが、せっかく教えてもらったので、ジュリは素直に頷いた。


「で、貴方の闇の精霊ですが、全く心当たりはないですか?名前がわかったら成功率がかなりあがるのですが」

「名前…」


そういえばペンダントの四属性の陣も、それぞれ精霊たちの名前が一緒に刻まれている。


ジュリがふるふると頭を振ると、横のミカが言葉を挟んできた。


「アガレス、確かそう名乗ってた」


先ほどの説明ではミカの事を省いて話したので、師長がなぜミカが知っている?という顔で見てきたが、詳しく突っ込んでは来なかった。


「いいでしょう、これが召喚用の黒の陣。四属性はわかりますね?四つを描いた後に、この陣を使って名前を呼んで見て下さい」

「はい」


緑色の光の風の陣、黄色の光の土の陣、そして赤色の光の火の陣、最後に青い光の水の陣を描いた。

水の陣だけ少し小さく見えるのは、きっと水の契約精霊がいなくなり、魔力が弱まったせいだ。


シグナ…


そして最後に黒の陣に手を置いて、ジュリは名前を呼んだ。


「アガレス」


四属性の光が黒の陣に吸い込まれるように消えると、黒い光が立ち昇った。


ものすごい魔力を吸われる…!


身体が傾きそうになった時、ジュリの真上から笑い声が聞こえた。

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