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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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最後の学院祭

それから一週間後、学院祭が始まった。

四年生はもう授業がないので、皆自室でゆったりしたり、退寮の準備をして過ごしていた。たまに談話室で仲のいい友達と話す事はあったが、大勢での集まりは久しぶりだ。


「ふふっ」


くるんと回るとひらりと舞うドレスの裾を確認しながら、ジュリは満足げに頷いた。


うん、いい感じ


急いでドレスの丈を繕ったが、中々上手く出来たと思う。不自然な個所は飾りで隠し、余った素材でお揃いの髪飾りも作った。


カレンに着るのを手伝ってもらって、今年は時間にも余裕がある。


「ありがと、カレン。去年はミカに着付け手伝ってもらったんだけど、恥ずかしかったなあ」

「去年ジュリは学院祭に参加してたか?」


はっ


去年ジュリは学院祭に参加が認められなかった。けれどこっそり仮面舞踏会に参加したのだった。


口がすべった!


黙っててと懇願するようなジュリに、カレンがふっと笑った後、その事には特に触れないでくれた。


「…ミカに手伝ってもらったと言ってたな?でもミカは男だろう?」

「お姉さんがいるから知ってるんだって」


カレンからそういう問題か?という顔で見られたが、当のジュリが怒ってないので口うるさく言うのはやめたようだ。


「淑女はみだりに男性に肌を晒してはいけないのは、覚えていた方がいい」

「やっぱりそうだよね?ミカがあまりに堂々としてるから私がおかしいのかなと思っちゃって…」


用意が出来てカレンと向かい合うと、真顔でジュリは詐欺に気を付けろと言われた。


これはきっとバカだと思われていると感じたが、ジュリもそこまで間抜けではない。ミカだからそこまで嫌悪を抱かなかっただけだ。


ミカは初対面からずっと一緒にいるみたいな気安さなんだよね、何でかな?


まあいいかとカレンと一緒に寮を出て、学院祭の講堂に向かう。途中何人もの着飾ったドレス姿の女性とすれ違って、綺麗だなあと見惚れる。


廊下の所々に配置されている警備の兵士を見ていたら、見知った人物がいてジュリは二度見た。


「ジェイク先輩!?」

「よぉ、デカくなったな」

「傭兵の仕事クビになったんですか?」

「ふざけんなっ」


ジェイクは金になればなんでも請け負うフリーの傭兵である。学院祭の警備は身元が確かな者に限られている分、それなりに高時給らしい。去年もいたらしいが、ジュリは仮面舞踏会にしか出てないので会わなかった。


「久しぶりに会ってそれか?」

「あ~そうですね。レイリ先輩は元気ですか?」


ジェイクと仲の良かった先輩の名を出すと、すごく嫌な顔をされ、もうお前と話したくないと手でしっしっと追い払われた。


酷い


そして四年生は一番最後の入場で、パートナーと一緒に並んでそのままダンスを披露する。ジュリは着飾ったカルロに手を取ってもらった。


「カルロ背が伸びたねえ」


横に並ぶとよくわかる、初めの頃と大違いだ。


「ああ?お前はチビのままだな」


頭一つ分は違うので、カルロから見たらそりゃチビだろう。これでも大きくなったジュリはむっと頬を膨らませた。


「行くぞ、ジュリ」


それでもちゃんと名前は呼んでくれるようになったんだよね


四年で身体も成長したが、心の変化も改めて感じられた。


「それよりさあ、俺達って踊った事なくね?練習もしてないし、大丈夫なのか?」

「あっ」



結果何とか転ばずには踊れたが、二人ともリード出来る程うまくもないので、それなりに散々だった。近くで見ていたカレンからは、組手のようだったとダンスとは程遠い感想をもらった。


一曲踊れば後は踊るにしろ、飲食をするにしろ自由だった。ジュリとカルロは一目散に飲食スペースにいって、二人で深いため息をついた。


「おつかれ」

「…おう」


飲み物を取ってもらい一息つくと、ジュリはカルロに話しかけた。


「カルロって卒業後どうするの?ローザ様と結婚するの?」


その一言に、カルロは持っていた飲み物を盛大に吐き出した。


「げほっ何でそうなるんだよ!?普通に就職するわっ」

「もう働き出すの?」


学院卒業後は女性は婚約者とそのまま結婚する人も多いが、男性は領地を継ぐ人もいるが、大体は就職と進学のどちらかを選ぶ。


進学と言っても学院のように学生として学ぶわけではなく、専門職の現場で見習いとして勉強する。すぐに稼ぐ必要のある位の低い貴族は就職を選ぶ人が多いようだ。


聖女候補である四属性は宮廷魔術師として籍をおくが、普段は別の職が必要になるらしい。


「ああ、魔術道具でも売って早く儲けたいしな。ジュリはどうするんだ?」

「う~ん」


進路相談は何度かやったが、これがしたいと言うものがあまりなかった。一応教師のお薦めで、魔術研究の職場に見習いに行くことになっている。そこなら他にも専門分野が多数あるので、興味のあるものが出来たら変更しやすいからという事だった。


「魔術とか精霊には興味あるから、そっち系かなあ」

「そうか、まあ頑張れ」


明確に進路を決めれるカルロが羨ましいなと思った。実際ジュリが決断を苦手とするのは、それをしていい環境で生きてこなかったからだ。自分で決めてよかった事なんて、過去にいくつもない。



カルロがローザに呼び出されたので、ジュリはひとりでもぐもぐと料理に手をかけていると、唐突に名前を呼ばれて後ろから抱き着かれた。


「ジュリっ」

「わっえ?誰?」


振り向くとそこにはミカがいた。


「やあジュリ、今日はとっても可愛いね」

「ミカ!」


そういうミカの後ろで、一緒に踊って欲しそうな令嬢がこちらを見ていた。


「…行かなくていいの?」

「今日はジュリとずっと一緒に居るよ」


その台詞があまりに恋人同士のように見えたのか、後ろの令嬢が顔を赤くして去って行った。


あああ、違うのに


「貴族の間では社交って大事なんでしょ?学院祭ってそういう場だと聞いたけど、ミカはずっと私の側にいていいの?」

「だって今日は…ジュリとの最後の学院祭でしょ?」


けれどその表情は、いつものように笑ってはいるが少し陰りが見えた。


「どうかした?もしかして寂しいの?」

「そうだね、ちょっと緊張してる」


…?


そして手を繋いで、ちょっと外に出ようと言われたのでついて行く。外はもう日が落ちかけていて、半分夜の暗闇が迫っている様だった。


無言で手を引いていくミカを不思議に思いながら、ジュリはその後姿に問いかける。


「どうしたの?なんか変だよ」


そして講堂から離れた木の近くで、ミカが足を止めると振り向いて口を開いた。


「ジュリはさ、大切なものを守るために、自分が犠牲になってもいいと思う?」

「ええ…?」


いきなり何を言い出すのかと思ったが、冗談を言っている表情じゃなかったので少し考えた。


「私を大切に思ってくれる人が悲しむから、駄目だと思う…」

「それは誰?」


誰って…


正直家族はそこまで悲しんでくれないかもしれないけれど、兄はきっと泣いてくれると思う。後は友達、カレンやカルロは怒るかなと思った。そして一番は…


「シグナが…」


シグナはジュリが自身を大事にしない事に普段から怒る。そしてそれはジュリを想って言ってくれているのを知っていた。


本当はシグナのそんな顔はみたくないんだけどね…


「じゃあ何があっても、自分の安全を考えてね。たとえ大切なものを失っても」

「え?」


その時、学院のどこかで天を貫く大きな光の柱が現れた。それは暗闇を遥か遠くまで眩いばかりに照らして、国中の者が天を見上げているのではないかとすら思う。


「何あれ!?」


最初学院祭の出し物かと思ったが、そんな規模ではない事はすぐにわかった。目を細めてみると、光の中心に誰かいる。


徐々におさまっていく光は、その人物の背中に集まって大きな翼のようになった。


暗い夜の闇の中に、白く輝く翼を持った少女は、紛れもなく絵画の中で見た聖女そのもののようだった。

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