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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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卒業試験

最終学年の試験は他の学年よりも早めに行われる。ジュリからしてみれば、それは時間がないということだった。


「日に日にブサイクになっていくな…」


カルロに指摘された寝不足の顔をカレンに向けると、うわっと驚いた声をされる。そんな酷いの?


「お前なあ、直前に切羽詰まってやるからそうなるんだろ。ローザは今まで習ってこなかった官僚コースの勉強までしてるんだぞ?」

「彼女の惚気はやめてくださーい」


カルロの気質はコツコツ努力派らしく、ジュリよりは余裕があるらしい。そして茶化されたカルロが反論してくるのを軽く聞き流しながら、やるべき項目を見直した。


座学は詰め込む内容も多いがまだマシで、一番の課題は実技だった。薬学はどうにかなりそうだが問題は創作魔術で、こちらはさっぱり進まない。師長に至っては事前予告すらないので、不気味でしかない。


聖女候補のリズ先輩は師長が担当したとか言ってたから、きっと何かあるよね


それでもわからないものは考えても仕方ない。三年生の試験も突発だったので、どうにかなるだろうと早々と諦めた。


「ねえ、みんなは創作魔術って何にするか決めた?」

「俺は炎くらいしかまともに使えないからなーそれ系のなんか」

「得意属性を第一に考えた方がいいだろうな。元々属性を組み合わせるのは使いにくいらしいから」


ふむふむと聞きながら、みんなも悩んでいるらしいので少しだけほっとする。


「既存のものでいいんじゃないか?過去資料はあるだろうからそれを調べて…」

「え?でもミハエル先生は新しいのを作って欲しいって言ってなかった?」

「そんな毎年新しい発見とかあるわけないだろ。殆ど既存の応用だよ、ただでさえ二種類以上の魔術は使いにくいんだから」


そっか、いちから考えなくてもいいのかあ


ジュリは創作魔術の才能はないなあと思っていた。でも出来れば使いやすく無難なので決めるんじゃなくて、自分らしいもので選びたかった。学院での最後の試験だから。


図書室の準備室に、過去の生徒達の研究資料などが収められているらしい。放課後ジュリはひとりで準備室に向かった。


へーこんな所あったんだ


図書室は何度も来たが、初めて入る薄暗い場所で古い書類を見渡す。一応項目別に分かれているらしく、創作魔術の棚を探した。


見つけた場所に誰かがいて、同じ試験勉強仲間かなとゆっくり近づくと、それは見知った人物だった。


「シェリア様」

「あら、今晩は」


そう言うと、ジュリが探しやすいように道を開けてくれた。


「創作魔術の調べものですか?」

「ええ、とても難しくて悩んでいるのです」


ふふっと悪戯っぽく笑ったシェリアはそれでもやはり上品だった。


「シェリア様が必死で勉強する姿はあまり想像できないので、とても親近感が湧きます」

「まあ、じゃあ成功ですね。努力はあまり見せないように言われてきたものですから」


それが侯爵家の教えなのかな?確かに余裕を見せた方が格好いいだろうけど…大変そうだなあ


ジュリはむしろ努力してる姿を見せた方が気が楽だ。そして結果が伴わなくても、勘弁してほしいなと思う。


はっと邪魔をしてはいけないと気付いて、自分の調べものに全力を尽くす。創作魔術は組み合わせが豊富なので、資料も多い。殆ど調べつくされているのではとすら思う。


四属性は組み合わせが豊富だよね。使えるかはわからないけど


名も一緒に書かれていて、多分創作者がつけたのかなと思いながら、パラパラと資料をめくる。やはり攻撃系の魔術が多いようだった。


うーん…


迷っているとシェリアから話しかけられた。


「創作魔術は出来た過程が書かれているものがありましたよ。私はそれを見るとイメージしやすかったので、良かったらどうぞ」


そういって手元に会った資料を渡してくれた。ジュリにそれとなく助言してくれた気遣いに、何となくカイルを思い出させた。


そういえばあれから顔も合わせてないな


今は勉強に集中しなきゃと自分に言い聞かせて、シェリアにお礼を言うと、いくつかの資料を貸し出して図書室を後にした。




試験当日、顔色の悪い生徒達に紛れてジュリもモルを片手に教室に向かう。午前は筆記、午後は実技なので、まずは暗記で頭がいっぱいなのは、いつもの事だった。


いつも通り精一杯用紙に書き殴った後に、机に突っ伏した。


「おい、生きてるか」


およそ試験後とは思えないカルロの問いに、寝かせてとだけ呟く。午後まで睡眠を貪り、中庭から移動しながら昼食をもぐもぐと食べる。貴族の令嬢に立ち食いする人はいないので、異質な目でみられたが気にしない。


ダメって規則はないもんね、もぐもぐ


まずは薬学の試験で、ミルゲイの目の前で蜜を作り、モルが口にしたら合格というわかりやすい試験だ。大体魔力が均等になるような花を選び、自分で微調整をする。ただしモルにも個体差があるようで、ジュリのモルはやや風属性の魔力が多い方が好きらしい。


色々試作しまくったから、だんだん味にうるさくなってきたんだよね…


最初は四属性が均等なら普通に食べてくれたが、今はもうぴったり自分好みのものしか食べてくれない。慎重に蜜を抽出して、色の濃さを合わせる。


そしてモルの前に出すと、じっと見てふんふんと匂いを嗅ぐがなかなか口にしてくれない。


「ん?完璧だよね?ほら、食べよ~美味しいよ~」


必死にモルに話しかけるジュリに、アホみたいだからやめなさいとミルゲイにぺしっと叩かれた。しばらく見ていると、そろそろと皿に近寄って仕方ねーなというように少しだけ蜜を舐めた。


うわ~最後まで生意気!


合格を貰えてモルを返すと、それでも短い間一緒に居た仲なので少し寂しかった。


「ばいばい」


最後に撫でようとしたが、やはり噛まれて終わった。


次はミハエルの創作魔術で、先生の前で披露して認めてもらえれば良いとの事だった。結局ジュリは既存の創作魔術を選んだ。


自分の順番が来て、先生がにこにこする前で属性の陣を思い浮かべる。簡単な魔術ならもう精霊がいなくてもひとりで出来る。


私も成長したよね


まずは水属性、そして火属性、風属性、そして土属性の陣を合わせて、空高くにあげる。ぽたりと頬を伝う雫にミハエルが声を発した。


「…雨?」


一番最初にシグナと練習したものだった。懐かしいなと思いながら見上げると、それは四色に染まった。


「何これ、濡れない?」

「冷たくないな、暖かいような…」


広範囲の魔術なので、周りの生徒達も巻き込んでしまうが特に害はないのでいいだろう。


懇篤(こんとく)の雨ね」

「え?偽善の雨じゃないんですか?」


やはり専門職のミハエルは知っていたようだが、ジュリが見た名前と違った。これは女騎士が戦場で使ったと言われる創作魔術で、範囲内にいる全ての者に魔力を分け与えて回復する。


偽善の雨と書かれていたのは、それを使ったのが戦場だったから。

敵味方も回復して、余計に争いを長引かせ苦しませたと言われているからだ。


けれど別の意見もあって、傷つくのを見たくないのは前提で、不毛な争いをやめて欲しかったのではないかとも言われている。正常な判断は血を流している間はできないものだから。


ジュリはこの話を読んで、それなら自分も偽善でいいなと思った。

創作魔術は、自分が魔術師としてどう在りたいかを、わかりやすく示すものだと言っていた。だから自分も誰かを傷つけるよりも、癒すために魔術を使いたいと思ったのだ。


そうして少なからず誰かの心に残った事で、今ジュリはこの魔術を知る事が出来た。


ふう、四属性消費はやっぱり疲れるな


女騎士は二属性だった為か、二色の雨だと記されていた。しかし魔力と共に傷も癒したと言うどちらかというと医療魔術に近いもののようだった。


ジュリにとって医療魔術の組み合わせは高度で試験までに間に合わなかったので、代わりに四色にしてみた。一色でも同じ効果が得られるようだが、属性を合わせた方が効果が高いらしい。


「偽善の方が有名だからそう言われているけれど、私はそうは思わないのよね。だって彼女は騎士だから、魔力は武器にもなるけど自分を守る盾にもなるでしょ?それを、命とも言えるものを差し出してまで伝えたい魔術をどうして偽善だと思うの?」


魔力を奪う事はあっても与える行為は殆どないらしい。枯渇の処置で医療魔術師が行うくらいだ。


「素敵な魔術をありがとう、貴方は人が好きなのね」


とてもよく出来たと褒められるよりも、何故だかとても嬉しかった。合格を貰って次の場所に向かう。



そしてやはり最後の試験は師長だった。訓練所に待ち構えていた彼がにこにこしながら言う。


「最後は僕と魔闘をしてもらいます」

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