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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第一章 聖女試験
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魔術の授業

ある程度文字の読み書きもできるようになった頃、魔術の実践授業が始まった。実践授業は座学程読み書きは必要ないので、ジュリ達も参加できることになった。


「最初は基礎的な事なので、今日は魔術、官僚、騎士と合同でやります。あ、僕は講師のレヴィンですよろしくお願いしますね」


魔術師長…!?


そういえば、自分も教える側だとか言ってた気がするが、まさかの一年生を教えるくらい暇なのだろうか?


カルロは胡散臭げに見ていたが、実力は確かなはずなので教師としては申し分ないはずだ。たぶん。


「基礎は大切な事なのですよ。魔術は危険を伴う事もあるので最初が肝心なのです。ちなみに僕はとても忙しいので一回で理解してくれると助かります」


…心の声が聞こえているのかと思った


「まずは、自分の得意属性を知りましょう。何種類属性を持っていても必ず得意とするものがあります」


そして生徒たちにそれぞれ水晶のような物を配っていった。


「これに自分の魔力を流してください。それぞれ花の形になると思うので、その色で判断します」


そう言われて、ジュリはふと固まってしまった。聖女試験の時に魔力を流して嘔吐してしまった過去を思い出したからだった。この場でまたあんな目にあうのは流石に嫌だった。そんな事を思っていると、師長が近くにやってきて、話しかけてきた。


「大丈夫ですよ、あの時は、他人と魔力を循環したからです。今回のは一方的に貴方の魔力を注ぐだけですから、あの時のようにはなりません」


ジュリの不安をまるで感じ取ったような言葉に少し驚きながら、水晶を両手で包むように持って、魔力を循環する時のようにゆっくりと注ぐ。


するとぱきぱきと音がしたと思ったら、水晶の形がどんどん変わっていく。最初は蕾の様な形に変化したと思ったら、ゆっくりと花びらが開いて花の形になった。


ジュリの手の中で咲いた花の色は薄い青色をしていた。師長は笑顔で覗き込みながら成功ですねと褒めてくれた。


「貴方は水属性の適性が高いようですね。四属性のうち一番相性がいいので、高度な魔術を極めるなら水属性を中心に覚えると早いですよ。攻撃系の魔術にも強いはずです」

「攻撃系?属性によって違うのですか?」

「属性と言うより精霊による違いがあるといいますか…これは後で皆と一緒に説明します」

「はい、そういえば、ミハエル先生に少しだけ術式について教えてもらいました」


術式と聞いて、師長の顔が輝いた。この人も魔術に関して並々ならぬ関心が高じて、国一番の魔術師にまでなったのかもしれない。


「あの方の術式は素晴らしいですよ、ぜひ学んで欲しいと思いますが、精霊にはちょっと嫌われてしまうかもしれませんね」

「え?嫌われる?」

「術式は人間が作り出した疑似的な魔術で、しかも四属性以外の自然界にないものを使ったりします」


そういえば組み合わせて、命の属性ができるとかなんとか言っていたような?


「普通に魔術を使う場合は、正規の方法で精霊の家のドアを叩いてお伺いたてるようなものなんですが、術式は無理やり精霊の家に窓やら別のドアをつけて呼び出すと言うか…」


ああ、それは怒られるかもしれない


「こちらの都合で勝手に使えるので便利なのですが、大きな魔術を使う場合はちょっと難しい手法になります」




一通りみんな水晶を花にできたようで、クラス中いろんな色の花があふれていた。カルロは赤、ライとカレンは緑の花を持っていた。カルロは魔術の扱いに不慣れらしく、とても時間がかかって咲かせていた。


「はい、みんなできましたね?赤は火属性、青は水属性、緑は風属性、黄色は土属性となります。それぞれの特徴が少しだけありまして、火や水は攻撃魔術、風は回復やサポート、土は防御系の魔術を覚える事が多いです」


ああ、さっき言ってたのこれかあ


「まず、魔術と言うのは魔術師が魔力を媒介に使う力ですが、正確に言えば精霊の力を借りて使うものです。僕らには魔力がありますが、これだけでは火や水を出すことはできません」


これテストに出ますよーと言ってるので、急いでジュリは覚えたての文字で紙に書き記した。


「四つの属性は自然界に属するもので、それぞれを得意とする精霊がいます。その精霊たちと契約をして魔術を使わせてもらうのです。精霊の力によって、使える魔術の大きさに違いがあります」


誰かが絶対に契約しないとその属性の魔術は使えないのですかと質問する。


「いいえ、この世界のどこにでも見えないながらに自然界の精霊エネルギーは漂っています。簡単な魔術ならこれでも十分なのですが、使うには別の方法を用います」


そして円と不思議な模様のような物をかいた一枚の紙をとりだした。


「これはフォティアと言って火を司る記号です」


師長が指でトンと紙を叩くと焚火の様な大きさの炎が、舞い上がった。


「これが術式、魔術師が編み出した魔術の一部です。この陣を頭の中で正確に思い浮かべれば、描かなくても使えますよ。コツはいりますが」


師長が人差し指をたてて、炎よと言ったとたんに指先から小さな炎が出た。すごい。


「じゃあ精霊と契約しなくても、全部術式でどうにかなるんですか?」


カルロが質問すると、師長はうーんと唸った。


「出来なくもないですが、魔術は難しいものほど複雑になります。高度な魔術になるとこのくらいの陣の書き込みが必要です」


ぺろんと紙を広げて見せたのは、先ほどのものとは似ても似つかないほどの不思議な文字と模様が重なったようなものだった。多分書く事すら何日かかるだろうか…?


ねっちょっと無理でしょ?と師長は笑って紙をくるくると閉じた。


「だから君達にも、精霊との契約はきっと必須になるでしょう。彼らは通じ合える者ですが、こちらを試したり、失礼を働くと暴走したりします。今日は合同授業で精霊召喚はしないので、次回説明しましょうね」


そして今日の課題は簡単な術式の使い方だった。自分の得意属性の記号を教えてもらって、紙に書いて使ってみる方法だ。


ジュリが紙に書いてちょんと指で押すと細い水の塊がぴゅーと前方に飛んでった。そしてカルロに直撃して服が濡れたと怒られた。

頭の中で陣を思い浮かべるやり方もやってみたがどうしてもできなかった。かなり細部まで頭の中に描くのがコツですよなんて言われたが、結局成功することはなかった。




授業が終わって、師長に呼び止められた。


「君は誰かに魔術を教わった事はありますか?」

「え?いいえ、どうしてですか?」

「魔力の扱いに慣れていたので、貴族は入学前に親に教わったりするのですが、平民は誰もが最初は苦労するのです」


そういえば、カルロは大変そうだったな…


「幼馴染が魔力を持っていたので、循環するやり方は教えてもらえました。私よりも、彼の方が魔力の扱いに慣れていたようです」

「ほう?」

「あの、それが何か?」


師長は少し面白そうに思考して、まあそのうちわかるでしょうと言った。そういえば、シグナは自分よりも魔力の扱いに慣れていたが、嫌な思いはして来なかったのだろうかとふと思った。


いつも私の事ばかり心配してくれてたなあ…もっとシグナの話も聞いてあげれば良かった


ジュリも四属性ではなかったら今も村でいじめられていたに違いない。なぜ平民に魔力はあるのだろう、貴族の様に学院に行けるわけでもないのに。


「魔力はなぜこの国にしかないのでしょうか」

「はい?」

「魔術師はこの国でしか生まれないのでしょう?」

「それ、誰から聞きました?」


他国に住んでいた事があるライが言っていたと言うとそうですかと師長はまた黙った。何かまずいことを言ってしまったのだろうか?


「魔術師がなぜこの国で生まれるのか、それは聖女とは何なのかと限りなく近い答えかもしれません」

「え?」


次の授業の予鈴がなった。


「あっ行かなきゃ…!すみませんこれでっ」


急いで走り去るジュリからは師長がどんな顔をしていたかは見えなかった。

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