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ボケ爺ちゃん

作者: でんでろ3

らむ得企画参加作品です。

<家>


 腰の曲がった爺ちゃんが、ぶつくさ言いながら(ふすま)を開けて、入ってきた。


「おーい、飯くれ! 飯!」


「あなたには、食物摂取は必要ありません」


「なんじゃ、若僧が難しい言葉で酷いことを言いおって!」


「事実を述べたのですが……」


「それなら、『テメェに喰わせる飯はねぇ!』とか言われた方がマシじゃ!」


「ところで、その卓袱台(ちゃぶだい)の上のものは、何ですか?」


「おぉっ! なんじゃ! 飯はあったのか!」


「怒りますよ」



<老人ホーム>


 爺ちゃんは今日も機嫌が悪い。


「まったく、ワシをこんなところに追い出しおって!」


「仕方ないでしょう? 家を維持できなくなってしまったんですから」


「もう……、ワシは家には帰れんのか?」


 珍しく少し寂しそうだった。


「少しは家のことを思い出せそうなんですか?」


「何日帰ってないと思っとるんじゃ! 思い出すどころか、忘れる一方じゃ! あー、こんな殺風景な部屋じゃなくて、家に帰りたい!」



<病室>


 爺ちゃんは、ベッドで寝ていた。もう、ずっと前から。


「この部屋はつまらん。老人ホームの方が、まだマシじゃ! 医療機器以外は、ただ真っ白で!」


「そんなのその気になれば、どうにでもなるでしょう?」


「なるかっ? 寝たきり老人に何が出来る?」


「その気になれば、100m9秒台も夢じゃないでしょう?」


「無茶言うな! あー、つまらん!」



<白い(かすみ)


 ただただ、広がる白い靄。


「なんじゃあ? ここは?」


 爺ちゃんは、ちょっと不安げだった。


「とうとう、まともなものをイメージ出来ないほど、ボケてしまいましたか」


「どういうことじゃ?」


「あなたは、この世界の創造主なんですよ」


「そんな馬鹿な」


「いいえ、本当に創造主です。しかし、ボケてしまわれた」


「じゃあ、お前は何じゃ?」


「私は、あなたが、最後の力を振り絞って書いた、あなたが創造主であることを証明するメモのようなものです」


「ワシは死ぬのか?」


「『消える』と言うべきかと思います」


「誰か、助けてくれんのか?」


「この世界には、あなたの作ったものしかありません」


 創造主は、しばし考えた。


「そうだ! 何でも思い通りになるなら、私の寿命だって……」


「それなんですが、ボケてしまわれる前のあなたの言葉です」


「なんじゃ?」


「『この世界に、私以外のものが作ったかも知れないものが、1つだけあった。……私自身だ』」


「……私は消えるとしよう」



 無数にある世界の1つが消えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意外すぎるオチに何度も読み返しちゃいました( ; ゜Д゜) タイトル通りボケてっちゃうのかーって思った矢先に!!( ; ゜Д゜) うわーすごいこれ。これすごいこんな話が書きたい( ; ゜Д…
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