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鏡の中のゴーレム  作者: ゆうひ
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8話【ゴーレム】

「もうそろそろよ」


 ミラがそう言うと、ようやく襲撃を受けたゲートらしき建物が見えた。その周辺には、さっき集合していたアサルトエシュロンがゴーレムと応戦している。繁栄している街がこいつらのせいで火の海になるのかと考えただけでも恐ろしい。

 巨大な石の塊、自動識別型泥人形『ゴーレム』。人を襲い血を奪い自分の動力源とする存在。誰が一体何のために作り出したのだろうか。戦争でも始めるつもりなのか。

 初めて見るゴーレムの姿に驚いたがあれがゴーレムかどうかなんて確認はしなかった。分かりきっていたからだ。


「あの両目と胸の心臓部が赤く燃え光っているのがゴーレムよ。怖い?」

「……平気さ」


 出会ってから笑うことが少なかったミラが「ふふ」と表情を変えた。でも、それは一瞬だけで、いつもの隙や緩みのない顔つきへと戻ってしまった。

 ミラは電子剣の柄を握り始めた。ぎゅっと強く握ると、それまで何もなかった柄の先に刀身が一瞬で現れた。柄に埋められたスフィアが緑色に輝き始め、彼女の右手から光が漏れていた。これが電子剣に埋められたスフィア――一体どれほどの力なのだろうか。


「あなたは下がってて」と、言われた時にはミラの姿は消えていた。

「やぁあああっ!!」


 応戦している集団の中に彼女の姿を見つけた。ゴーレムに向かって大きく飛びつこうとしている。

 あっという間にゴーレムの心臓を電子剣で貫いていた。これがスフィアの力か――身体能力を飛躍させた凄まじさを目の当たりにした。

 赤く燃えていた心臓が拡大し、今にも弾けそうなぐらいに大きくなっている。膨れ上がった心臓は弾け、体に流れていたであろう血のような液体が、しぶきとなって勢いよく飛び出した。

 体中の泥の塊は動力源を失ったかのように、みるみるうちに柔らかく溶け出し、そして崩れ落ちた。次第に液状化となり地面へと溶け込んでしまった。

 ミラの剣技によって一体のゴーレムは消え、着地した彼女の黒髪がまだ揺れ動いていた。ゴーレムの血が付いた剣を振り払っては、近くにいた別のゴーレムに斬りかかった。

 溢れ出る血しぶきが、どれだけ体に付着しようが彼女は何とも思っていないように見えた。心が冷たいというべきか。俺も自覚があるから人の事は言えないけど……でも、ミラは冷酷を極めているようだ。

 彼女は他の人らとは比べ物にならないぐらいに強かった。他の人らを見ると一体のゴーレムに対して三人がかりで相手にするのが定石のようだ。


「やぁぁぁああっ!!」


 休む暇もなく一体、二体、三体……次々と斬りつけては、トドメに心臓へと電子剣を突き刺していた。そして、また一体と、泥の塊が力を無くして形を保てなくなり地面へと消えた。彼女の地面付近はゴーレムの血と泥の液体が混ざり合ってビシャビシャに濡れている。

 ミラの働きと他のアサルトエシュロンによってゴーレムの数を確実に減らしていった。まぁほとんど彼女がやったことだけど……。

このままならゲートは守れると誰もが確信していたと思う。

 しかし、街中から迫りくるもっと巨大なゴーレムの存在に気づいた時、皆の心境は一変しただろう。あの化け物は一体なんなんだと……。


「みんな、気を付けて!! 今までのゴーレムとは違うわよ!」と、ミラが皆に呼びかけていた。


 だが、巨大すぎるゴーレムを前にして唖然とし立ちすくむ者さえもいる。どうやら今までに出会ったことのない奴だということは確実なようだ。

 アサルトエシュロンの数人が我先にと動き始めたやつがいた。それは自殺行為意外の何でもないことは俺にだって分かる。


「行っちゃだめーー!!」


 ミラの呼び止める声が街中に広がった。

 飛び出した彼らの攻撃は巨大ゴーレムの硬い装甲によって完全に防がれてしまった。あの人たちだってスフィアを使ってる。それでも歯が立たないのだ。この状況は絶望といっても過言ではない。

 大きな一振りが、名も知らぬ彼らの体に直撃し、ビルの壁に吹き飛ばされてしまった。ビルはガラスや瓦礫の破片が飛び散り、煙を巻き上げていた。スフィアを使ってもただの人間だ。彼らの命がどうなったかなんて、誰も確認する者はいない。あれで生きているのが奇跡だ……。

 その光景を見て大多数の人が思ったであろう。勝ち目がない……と。俺もその一人だ。

でも、俺はここで見ているだけなのか。傷ついた人がいるのに一人離れた場所から見物だなんておかしいじゃないか。

 ミラ――そうだ、ミラが危ない。流石にあれだけ強いんじゃ危険だ。止めなきゃ。さっき煙草おじさんが言っていたのはこういうことか。自分を犠牲にしてでも、守れる人を守る。そんな性格じゃいつか命を落としてしまうのは明白だ。

 助けに行かなきゃ。

 ………………でも駄目だ。目の前の出来事に恐怖を感じて足がすくんでしまう。もしゴーレムの攻撃をまともに受けたら? そんな考えが頭をよぎる自分が情けない。

 俺が呆然と見ている間に、ミラが剣を強く握りしめて動き出していた。

 目にもとまらぬ速さで駆け出し、あっという間に目標のゴーレムまで到達した。スフィアの力によって超越した身体能力で宙を舞い、敵の背後を取り、泥の塊を斬り付ける。

 幾分か血しぶきが吹き出るが、内部までは到達していないようでよろめくことはなかった。


「ミラっ!! 危ない!!」


 不意を突かれたミラがゴーレムの手に捕まってしまった。大きな手の中で苦しそうにもがき続け、ミラが使っていた細身の電子剣は地面に落ちてしまった。誰かが助けないとこのままでは彼女が死んでしまう。ただ、誰も助けようとしない。皆、自分が助けに行っても太刀打ちできないと分かっているからだ。

 俺は?

 ただ見ているだけなのか?

 そんなの嫌だ。

 この世界に来た時、空から落とされて本当に死ぬかと思っていた。

 それを助けてくれたのは誰だ?

 ミラだ。

 ミラを助けたい。

 ミラを失いたくない。

 それに、こんな世界で死にたくない。


「俺は……俺はっ! ミラを助けるんだっ!」


 そして――この世界から抜け出し、アリスの元へ帰る!!

 誰かに守られるだけの世界なんてごめんだ。そう心の底から強く思い、手にしていた電子剣の柄を握り力を込める。なんだか、握っている手や心臓が熱くなるのを感じた。

 さっきまで何ともなかった電子剣に異変が起き、穴から刀身が伸びてきた。

 重さは変わらないが、刀身が成形されて剣のバランスが変わった。


「これが電子剣か」


 見た目は中世ヨーロッパで使用されていたロングソードだけど……。

 本当にこんなんでゴーレムを斬れるのか?

 少しぐらい触っても大丈夫だよな――。


「痛っ……」


 指を見たら皮が少し切れて血が出ていた。斬れ味は問題なさそうだ。

 ――さっきから胸の奥で熱く燃え上がる感じは何だ。ふと握っていた手を見てみると、手の中から赤い光が漏れていた。期待と不安が交差する中で、手中に異変を感じた。握るのに支障が出ない程度に球体が浮かび上がってきたのだ。その球体に触れると鼓動が激しく動きだす。もしかしてこれが俺のスフィアなのか。

 光は段々と強くなり眩い閃光となった。

 ミラを助けたいという気持ち、アリスのことを強く願うほど、柄に浮かび上がったスフィアが一層輝き、脈拍を速くする。


「ミラ、いま助けるからな」


 巨大なゴーレムへと立ち向かって走る。今までの自分じゃないみたいだ。体が軽く感じて剣を軽々と持ち、振り回せそうだ。

 ものの数秒で巨大なゴーレムに近付けるほどに身体能力が上がっていた。

 まずは捕まったミラを助けるためにゴーレムの右腕を斬り落とした。ゴーレムの腕ごと落ちていくミラを地面に接触する前に抱え、すぐさまその場を離れた。


「ミラッ! しっかりして!」


 抱えたミラに呼びかけると、閉じていた目を薄っすら開いて一言呟いた。


「峰……」

「少し待ってて。あいつを片付けてくるからさ」


 微笑む彼女を地面にゆっくりと降ろし寝かせた。


「許さないからな!」


 全力でゴーレムに向かって走り、今度は動きを止めるために脚を斬る。完全に切断は出来なかったが、動きが鈍くなっていた。


「これで終わりだぁぁぁあ!!」


 持てる力を最大限まで高めて、ゴーレムの赤く光る心臓に刃を刺した。

 その赤く光る心臓は宝石が砕けたかのように煌めきながら粉々となり、宙に舞い散り泥の塊は溶けて消えた。

 ドクンッ……。

 一度強い鼓動を感じ、体の中から何か抜けた気がした。


「はぁはぁ――な、なんだ……」


 立つことすらできず電子剣を地面に刺して体を支えた。それは束の間で、すぐ倒れ込んでしまった。押し寄せる疲労感の中、夕日に染まったビルの隙間から見える空が不気味なほど綺麗だ。その空の下、空気中に漂う赤い液体のようなものが浮遊していた。あれは俺の手から抜け出した血――か。薄っすらと開けた目でもう一つ見えたのは、白い湯気みたいなものが浮遊していた。これは――俺の手から抜け出した記憶?

 柔らかく動き回る白い気体を虚ろな目で追うと恐怖を感じた。焦りや不安、憎悪の感情が一気に頭の中に流れ込み、狂気に囚われそうだ。


「うわぁぁぁああ……あっあああああ……ぁぁああああああ!」


 追い討ちをかけるように、突然の激しい痛みに襲われた。頭がカチ割れそうなほど苦しい。まるで頭を地面にぶつけたり、鈍器で殴られたかのようだ。痛みに耐えられず頭を抱えてのたうち回った。


「ぁぁぁああ…………あ、れ……」


 痛みは嘘のように消えた。でも、身体の限界だった。

 体中の力が全て抜けていくのを感じる。

 目を覚ました時には全て夢であってくれ、そう願いながら意識が暗転した――――。

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